「ベピコロンボ」は、2度目の金星スイングバイを実施し、2021年8月10日22時51分53秒(日本時間)に金星に最接近、高度552kmを通過しました。今回の金星スイングバイでは金星の重力を利用して約5.6 km/sの減速を行い、計画通りの軌道を航行しています。

今回のスイングバイでは1回目の最接近(高度10,722 km)に比べ、はるかに金星の近くを通過しました。惑星間空間航行中、水星磁気圏探査機「みお」は常に太陽光シールドに覆われており、太陽光が入射することはありません。一方、最接近の前後では金星大気からの強い太陽反射光に探査機が照らされ、側面の太陽電池パネルの温度が15分間で約110℃も上昇しました(図1)。これは想定範囲内の変化であり、十分に断熱された探査機内部の温度の上昇は2~3℃程度に収まっていることも確認されています。

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図1 金星最接近前後における「みお」側面の太陽電池パネルの温度変化。

金星スイングバイの前後では「ベピコロンボ」に搭載される多くの装置で観測が実施されました。電気推進モジュール(Mercury Transfer Module: MTM)に搭載されたモニタカメラ(MCAM)では最接近前後に金星の姿が撮影されました(図2)。「みお」に搭載された科学観測装置でも太陽風および金星周辺プラズマ環境の観測を行いました。図3は「みお」による2021年8月10日11時~15時(UTC)の観測結果です。磁力計では太陽風と金星の相互作用により金星への接近に伴って堰き止められた太陽風の磁場が強くなる様子が観測されています。プラズマ粒子観測装置では、金星電離圏の電子・イオンの分布や衝撃波面通過の様子が観測されました。プラズマ波動・電場観測器では、水星到着までの限定的な観測制約のもとでも、衝撃波面通過に伴うとみられる信号が確認されました。太陽直下点付近での衝撃波面観測は過去の探査機でもほとんどなされておらず、今回の「みお」による観測データも貴重なものとなります。

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図2 スイングバイ最接近直後にMTM搭載モニタカメラが捉えた金星の姿
(Credit: ESA/BepiColombo/MCAM)

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図3 「みお」搭載機器による金星周辺プラズマ環境観測の速報結果(左)および「ベピコロンボ」の軌道模式図(右)。観測データはすべて未較正の速報値であり、探査機由来のノイズなども含まれています。

 

そしていよいよ探査機は初めて水星に接近します。最初(2025年12月の到着まで実施される全6回のうちの、1回目)の水星スイングバイが2021年10月2日08時34分頃(日本時間)に予定されており、最接近時には高度200 kmを通過します(図4)。これは2025年12月の水星到着までに全6回予定されている水星スイングバイの1回目となります。金星スイングバイ時と同じく「みお」に搭載されるほぼ全ての観測装置で最接近の前後約24時間にわたり科学観測を計画しており(表1)、水星磁気圏および周辺環境の観測を試みます。水星周辺における低エネルギー電子や中性粒子、ダストの観測はこれが初めての試みとなるほか、過去の探査を通じて南半球の地表に今回最も近づくため、貴重な観測データを得ることが期待されます。水星スイングバイの結果はまた後日報告させて頂く予定です。

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図4 1回目の水星スイングバイにおける「ベピコロンボ」探査機の軌道

 

表1 水星スイングバイ時に観測を実施する「みお」搭載装置の一覧

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