研究・論文情報

宇宙航空研究開発機構(JAXA)が欧州宇宙機関(ESA)と共同で推進するBepiColomboミッションは1回目、2回目の水星スイングバイ観測をそれぞれ2021年10月1日、2022年6月23日に実施しました。これらの観測データから、金沢大学、東北大学、京都大学、宇宙航空研究開発機構、マグネデザイン株式会社、プラズマ物理学研究所(フランス)の国際共同研究グループは、世界で初めて電子を効率よく加速、散乱させる電磁波(コーラス波動)が水星の朝側(水星から約1,200km 内)で発生していることを明らかにしました。このコーラス波動で散乱された電子は水星表面で衝突し、X 線を放射(X 線オーロラを発生)させます※1。この成果は、発生メカニズムが十分に分かっていなかったX線オーロラの駆動源が、水星のコーラス波動であったことを直接示すものです。

水星は、地球と同じく固有の磁場とその磁場が支配する領域(磁気圏)を持っています。地球では、電磁波の一種であるコーラス波動が夜側から昼側の広い範囲で観測されます。このコーラス波動は、低いエネルギーの電子を効率よく放射線になるまで加速することが知られています。地球周辺宇宙(静止軌道までの領域)では急激な放射線の増加による人工衛星の障害が時に発生し、その要因としてコーラス波動が深く関わっています。一方、水星の磁場は地球と比べて約1%と弱く、地球のようなコーラス波動が発生するかは分かっていませんでした。

水星磁気圏探査機みお(以下、みお探査機と呼称)に国際共同研究グループが搭載した電磁波観測器PWI で史上初の水星での電磁波観測が行われ、その交流磁界データから水星朝側の限られた領域で強いコーラス波動が初検出されました。朝側の局所的な領域で発生していたコーラス波動に対し、水星の大きくゆがんだ磁力線の形が、コーラス波動の発生に強く影響していることを国際共同研究グループは指摘しています。水星でのコーラス波動の初実証は、太陽系の全ての固有磁場を持つ惑星でコーラス波動が発生する普遍性を明らかにし、水星の小さい磁気圏でも高いエネルギーの電子が作られ、水星表面へ電子を降下させ、X 線オーロラを発生させることを示したものです。また、人類の産業活動が宇宙圏へ拡大するうえで、月や火星などの弱い磁場を含む宇宙空間のプラズマ環境理解へも貢献する成果です。

本研究成果は、2023 年9 月14 日16 時(英国時間)に科学誌『Nature Astronomy』に掲載されました。本研究成果に関する詳細は、以下の金沢大学・東北大学・京都大学による共同プレスリリースをご参照下さい。
https://www.kanazawa-u.ac.jp/wp/wp-content/uploads/2023/09/230915.pdf

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水星でのコーラス波動発生のイメージ図
(Credit: 金沢大学、水星画像: NASA/Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory/Carnegie Institution of Washington)

※1:水星X線オーロラを引き起こす電子の降り込みの観測については以下をご参照下さい。
https://www.isas.jaxa.jp/topics/003445.html

みお水星スイングバイについて

BepiColomboは日欧水星探査ミッションであり、2018年10月にフランス領ギアナより打ち上げられ、2025年12月の水星周回軌道投入へむけて現在惑星間空間を航行しています。探査機を水星周回軌道へ投入するためには大きな減速が必要となりますが、BepiColomboでは航行期間中に全9回の惑星スイングバイ(地球1回、金星2回、水星6回)を実施することでまかないます。BepiColomboは2021年10月1日、2022年6月23日にそれぞれ1回目、2回目の水星スイングバイを実施しました。また直近では3回目の水星スイングバイも2023年6月20日に完了しています。各水星スイングバイの際には運用室から運用の様子やテレメトリのモニタ、解説トークのライブ配信を実施しており、多数のご視聴とご声援を頂いています。それぞれの配信は以下のアーカイブからご視聴頂けます。

今後は残る3回の水星スイングバイを2024年9月、12月、2025年1月に実施し、2025年12月に水星周回軌道へ投入予定です。今後も研究成果や運用状況を随時発信していきますので引き続きご注目下さい。