2025年5月号の連載開始以降、MMXが目指すもの、探査機システムや搭載ミッション機器での技術的な挑戦、国際協力、打上げに向けた試験、管制/運用室の整備、運用訓練の様子などをお伝えしてきました。今回が連載の最後となります。これまでの記事で読者の皆様には、MMXのことをより深く知っていただくことができましたでしょうか?

現在(7月初めの時点)、探査機システムは射場での最終電気性能試験を終えて、今後は推薬充填と最終組立、ロケットへの搭載と進んでいきます。また、これまで準備した運用手順を改めて確認し、様々な状況にも対応できるようになるための高度な運用訓練を重ねて、本番の運用に備えているところです。

開発の振り返り

MMXの開発着手は2020年度ですが、2016年度から調査研究、開発研究、フロントローディングを実施しましたので、それも含めると打上げまで約10年間の期間となります。開発がまもなく完了するこの段階で、改めてこの10年間を振り返り、惑星探査ミッションの開発が大きく変化したと感じたことを2つ挙げたいと思います。

(1)大型探査機システムの信頼性確保

技術的難易度の高い探査ミッションでは、挑戦的な要素を含めつつ、システム全体としての信頼性確保を実現する必要があります。MMXでは、基幹機能に実績技術を適用し、例えば推進系に化学推進を採用する等で確実性を優先しています。一方で、フォボス着陸やサンプル採取といった高リスク要素については、2回の着陸機会や複数方式のサンプラを備え、単一故障が致命的とならない構成としています。また、長期観測やローバによる事前調査、運用シミュレーションの強化により未知環境の不確実性を段階的に低減しています。このようにMMXでは、設計・運用を一体化した信頼性確保のアプローチが取られています。さらに、メーカーさんとの関係も見直され、JAXAとの責任分担を明確化する契約形態のもとで、双方の技術力を最大限に活かした開発体制が構築されています。これも大型探査機の信頼性確保として重要な要素になります。

(2)設計・試験の現場

コロナ禍により人の移動や対面での作業が大きく制約され、MMXでは探査機システム試験の進め方やコミュニケーションに変化が生じました。従来も国内・海外の技術者とはリモート会議がありましたが、重要な議論や試験は現地に集まって対面で行っていました。しかし、制限下ではリモート環境を前提とした運用へ移行し、試験データをリアルタイムに共有し、遠隔地からでも状況把握や意思決定が可能な仕組みを整備しました。また、試験手順や役割分担の明確化、文書化の徹底により、現場にいないメンバーでも適切に関与できる体制が構築されました。このようにMMXでは、制約を契機として遠隔協働を前提とする開発へと進化し、設計や試験を柔軟・効率的に進めることができたと思います。

今後について

打上げ後は地球帰還まで約5年間の長い旅が待っています。打上げの約1年後(2027年度)に火星圏に到達し、火星圏に約3年間滞在します。その間にフォボスや火星の観測を行ってフォボスの着陸地点を選定し、着地してフォボス表面からサンプルを採取します。その後、2030年度に火星圏を離脱して復路モジュールが地球への帰路につき、約1年後の2031年度にサンプルリターンカプセルが大気圏に突入して、採取したサンプルを地上で回収します。

MMXは、これまで「はやぶさ2」、SLIMなどで培ってきた探査技術の集大成であり、同時に新たな挑戦でもあります。10年にわたる開発で築き上げた信頼性とチーム力を結集し、待ち受ける困難にも自信を持って対応しながら確実にミッションを遂行していく決意です。火星圏からのサンプルリターンという人類未踏の領域に挑み、その成果をもって将来の宇宙探査の発展に貢献したいと思います。

15回にわたる連載をご愛読いただき、深く感謝申し上げます。これにて一区切りとなりますが、また新たな形でお届けできればと思います。

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MMXの探査機。フォボス着陸時、サンプリング装置による試料採取(イメージ図)。

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JAXA種子島宇宙センターの第2衛星組立棟(STA2)で、射場試験中の往路モジュール(左)、復路・探査モジュール(右)。

【 ISASニュース 2026年7月号(No.544) 掲載】