「責任を分担する」ことで可能になる国際協力ミッション
宇宙空間そのものに国境は存在しません。しかし、国境のない宇宙空間における探査活動中に、予期せぬ事故が起きた場合、各国の間で事故の責任を容易に追及できてしまう仕組みであったならば、各国はリスクを恐れ、宇宙探査そのものへの参入に慎重になり、国際的な探査活動の進展が妨げられてしまう可能性があります。こうした事態を避けるため、宇宙開発の国際協力においては、「宇宙空間で発生した事故や事象について、一定の範囲で責任追及の権利を相互に放棄する」という趣旨の、いわゆるクロスウェーバー条項を前提とすることが一般的です。この仕組みは、宇宙探査を安全かつ持続的に進めるための、いわば"見えないインフラ"として機能しています。
MMXでは、開発を共に進めるパートナーとして、NASA、CNES、ESA、DLRの4つの海外機関と、それぞれ国際協定を締結しています。各機関は自らの強みを活かし、ミッション機器の開発、サイエンス分野での貢献、地上局支援等、さまざまな分野でMMXミッションに参画しています。いずれもJAXAと各機関が対等な立場で所掌分野の責任を担う形で国際協定を締結しています(表)。
例えば、MMXの打上げや運用の過程において、各機関が主導して開発したミッション機器が、意図せず機能不全に陥ったり、何らかの事故によって使用できなくなったりする可能性はゼロではありません。しかし、そのような場合であっても、各国がその責任をJAXAに追及しないという前提が、国際協定の中で定められているからこそ、JAXAは各宇宙機関と安心して開発を連携させ、長期にわたる高難度の探査ミッションを進めることができます。
表:海外機関ごとの協力案件一覧
MMXミッションの科学成果を国際協力の柱に
火星圏を往復し、フォボスの地表サンプルを地球へ持ち帰るというMMXミッションにおいて、国際協力が担う重要な要素は、フォボスから回収されるサンプル試料の取り扱いではないでしょうか。
フォボスのサンプルは、JAXAが主導しつつも、世界各国の知見と技術を結集して取得されるものであり、特定の国に閉じたものではありません。その科学的価値は極めて高く、人類共通の知的資産です。サンプルの保管や分析には、厳格な基準を満たした専門施設が必要ですが、それに加えて、仮に一箇所でサンプルを保管していた場合、予期せぬ事故やトラブルが生じると、貴重な試料が永久に失われてしまうというリスクも否定できません。こうしたリスクを低減するため、MMXでは国際協力の一環として、サンプルの保管および分析を行う施設を日本国内に限らず、複数の海外機関に分散して確保することを、いくつかの国際協定の中で取り決めています。
これにより、サンプルを長期にわたって安全に維持し、その科学的価値を最大限に引き出すことができるようになります。
さらに、フォボスのサンプルに基づく科学成果についても、MMXでは国際協定の中で一定の取り決めがなされています。MMXには、各機関が選定した科学者がサイエンスボードメンバーとして参画し、ミッション初期から共同研究を進めてきました。それぞれの機関が選定した科学者が論文を執筆する際に、成果の競合や不公平が生じないよう、あらかじめ研究テーマや役割分担が定められています。このような枠組みによって、国際的な協力関係のもとで、科学的成果が円滑に創出される環境を整えています。
MMXは2026年度打上げ、2031年度の地球帰還(予定)の間、国際・国内から集まる多彩なメンバーと共に開発を継続します。
MMX プロジェクト関係者での集合写真(2026年1月撮影)
【 ISASニュース 2026年2月号(No.539) 掲載】
