連載をはじめるにあたって

この連載は「MMXはフォボスを目指す!」というタイトルです。では、なぜ、フォボスを目指すのでしょうか? 宇宙研は、太陽系の小天体の探査を戦略的に進めてきました。太陽系内の外惑星領域で生まれた小天体は、地球型惑星を生命居住可能とするために必要な水や有機物を供給したと考えられています。火星の近傍にある小惑星がごとき天体、火星衛星は、その輸送を担ったカプセルと考えられます。もう1つは、「はやぶさ」「はやぶさ2」を通じて、小惑星などの小天体への着陸、サンプル採取などの技術を培ってきたことです。この技術を基に、次のサンプルリターンのターゲットに選んだのが火星衛星、フォボスであり、火星衛星探査計画 Martian MoonseXploration(MMX)が計画されました。

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MMX探査機の火星周回軌道投入の想像図

これから約1年かけて、MMXの連載を行います。まず初めに、MMXの目指すサイエンスについて紹介します。そのあと、現在進行中のシステム総合試験、打上げから地球帰還までの運用の準備や、地上システムの開発状況などをお伝えする予定です。今回の連載を通して、MMXの探査機をフォボスに到達させるために、多くの人が関わっていること、さまざまな努力・工夫・作業があることもお伝えできればと考えています。

MMX概要と開発状況

【MMXの概要】 MMXは、火星衛星フォボスからサンプルリターンを目指すミッションです。2031年度に人類初の火星圏からのサンプルを持ち帰ることを目指し、2026年度に探査機を打ち上げます。MMXは2016年度に検討が開始され、2020年2月に開発に移行。来年度の打上げに向けて、現在、システム総合試験を進めています。

【MMXのミッション目的】 MMXには、惑星科学と探査技術獲得、2つの面のミッション目的があります。

【惑星科学】 火星衛星の起源と、生命が誕生・居住可能な惑星環境の起源を探り、火星圏進化史への新たな知見を獲得します。火星衛星に含まれる水や有機物などをリモートセンシング観測や、採取したサンプルの分析により解析します。それにより、2つの火星衛星の起源や火星圏(火星、フォボス、ダイモス)の進化の過程を探ります。火星衛星の起源については、火星重力によって捕獲された小天体なのか(捕獲小惑星説)、火星に大規模な天体が衝突してその破片が再集積して形成されたのか(巨大衝突説)、明らかにします。また、原始太陽系における水の移動及び天体への供給量の解明に貢献するため、火星圏の水や有機物の存在を明らかにします。

【探査技術獲得】 将来の有人探査活動の礎となる以下の探査技術を獲得します。

  1. 火星圏への往還技術および惑星衛星圏への到達技術の獲得
  2. 火星衛星表面への到達技術・滞在技術および天体表面上での高度なサンプリング技術の獲得
  3. 新探査地上局との組合せに最適な通信技術の獲得

特に、フォボスのサンプルの入ったカプセルが地球に帰還すれば、世界で初めて、火星圏への往還を実現したことになります。

【ミッションプロファイル】 MMXの探査機は、打上げの約1年後、2027年度に火星圏に到達、フォボスとランデブーします。火星圏には約 3 年滞在し、フォボスや火星のリモートセンシング観測を行い、フォボスの着陸地点を選定。フォボスに接近・着地し、フォボス表面からサンプルを採取します。フォボス観測終了後は、もうひとつの衛星ダイモスのフライバイ観測を実施したのち、火星圏を離脱、地球への帰路につきます。その約1 年後の2031年度に地球に到達、カプセルを分離、大気圏に突入させ、採取した試料を地上で回収します。

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ミッションプロファイル

【搭載機器】  ミッション目的を達成するため、11の科学ミッション機器が搭載されます。MMXを世界最高のミッションとするため、そのうちの4つは海外機関から提供されます。加えて、探査技術獲得を目的とする2つの機器を搭載します。各機器の詳細については、今後の連載の中で触れていく予定です。

【最後に】  この連載が進むに連れて、読者の皆さんにMMXのことをより良く知ってもらうと共に、MMXの探査機打上げが近づいていることを実感できるよう期待しています。

【 ISASニュース 2025年5月号(No.530) 掲載】