MMX運用準備の概要

澤田 弘崇

MMXは世界初の火星圏サンプルリターンを目指し、2026年度に打ち上げられる計画です。現在、探査機システムはフライトモデル(FM)総合試験の佳境に入っており、4月からは種子島宇宙センターで射場作業が始まります。

MMXは、日本の宇宙科学史上最も大型かつ複雑な探査機によるサンプルリターンミッションとなっており、運用においても過去の深宇宙探査ミッションとは比較にならないほど難しい運用を成立させなければいけないため、運用リスクを少しでも下げるよう、開発フェーズの早期から運用検討を開始し、運用準備に注力してきました。

運用準備活動の軸として、MMXでは複数の運用ワーキングチーム(WT)を立ち上げ、運用検討、詳細設計を実施し、訓練計画など実運用の準備を進め昨年度から運用訓練に着手しています。

また、運用設計結果や運用準備状況を外部の視点で審査してもらう運用設計CDR(詳細設計審査)、MOR(ミッション運用準備審査)などを実施している点も特徴です。

MMXでは探査機のダイナミクス、統合化計算機(SMU)の動作を模擬できるフルソフトウェアシミュレータ(探査機総合シミュレータ)を開発し、地上系に組み込み運用手順の検証に用いると共に、シミュレータを使った運用訓練を実施しています。2025年からはシミュレータにフライトバージョンのソフトウェアが実装され、より実運用に近い状態で検証・訓練に使用されています。

運用訓練は、探査機システム担当、航法誘導制御系(GNC)担当と、運用する際に指揮をとるスーパーバイザとコマンダの最小限の体制で運用の一部を模擬した小規模訓練から、運用体制を実運用規模にした中規模訓練、更に実運用と時間軸を合わせ、リアルタイム性をもたせた大規模訓練までの3段階で実施する計画となっています。

訓練対象は重要と識別されたクリティカル運用(打上げ初期クリティカル、火星圏投入、着陸、火星圏離脱、カプセル分離等)であり、今までに打上げ初期クリティカル運用と、着陸運用のノミナル・オフノミナルなどの小規模訓練を実施しました。

現在は残りの小規模訓練を実施しつつ、2026年度に開始される中規模訓練に向けた課題の抽出と訓練方法のブラッシュアップを行っています。

運用訓練の様子1

運用訓練の様子2

運用訓練の様子。MMX用に新たに整備した運用室で行われている。

ミッション機器運用準備について

宮崎 理紗

MMXには、11種類の科学ミッション機器と、2種類の探査技術獲得のための装置が搭載されます。これらの機器は、カメラや高度計測、放射線計測など多様な観測手法を持ち、それぞれ適した観測タイミングも異なります。例えば、フォボス表面の昼面を対象とする撮像機器もあれば、昼夜を問わず火星圏環境を調べる機器もあります。さらに、一部の機器のデータは探査機上で圧縮などのデータ加工処理も行われますが、一部の機器の観測と加工は同時に行えないという制約があります。また、ダウンリンク量や加工可能な時間などの運用制約により、ある特定のデータのみを選択して加工やダウンリンクを行う必要もあります。そのため、それぞれの機器の運用条件に加えて、複数機器間の観測・加工・ダウンリンクの干渉も考慮する必要があり、MMXの運用は非常に複雑です。

加えて、MMX 探査機には探査モジュール、復路モジュール、そしてリターンカプセルのそれぞれに一基ずつデータレコーダーが搭載されています。中でも、地球へ持ち帰る回収型データレコーダー(RDR)はMMXの特徴の1つです。火星圏では、地球に送れる通信量に限りがあるため、大容量のデータをこのレコーダーに保存し、採取サンプルとともにカプセルで地球に届けます。ただ、このデータレコーダーのデータ格納状況の情報は取得が困難であるため、大容量のデータレコーダーに対して、地上で厳密にその情報を管理する必要があります。

このようにMMXでは機器毎の観測タイミングやダウンリンクの優先度を調整し、観測やデータ送信、RDRの読み書きの計画を事前に立てることが重要となります。MMXで取り組んでいるミッション運用準備の1つとして、「データレコーダーアドレス管理ツール」を紹介します。探査機上のデータ格納状況は、バス系テレメトリに含まれるポインタ情報からある程度把握できますが、テレメトリを受信する前に、どのデータを優先して加工処理したり地上に送ったりするかを判断しなければならない場合もあります。また、送られてくる観測データがいつ・どのような条件で得られたものか、地上で管理されているコマンド履歴等の情報とも照らし合わせて確認しておく必要もあります。そのため、テレメトリだけでなく地上系を含む全ての関連データを整理し、管理することが重要になります。本ツールは、テレメトリとコマンド履歴をもとに探査機上のデータ格納状況を地上で再現します。さらに運用計画段階では、観測時間や識別IDで指定したデータを加工・ダウンリンクするためのコマンドパラメータ作成支援や、想定したコマンドによってデータがどのように保存・移動するかを事前に調べることもできます。今後の運用訓練や地上試験、そして実運用を通じて、本ツールを含む運用準備がMMXの成果に貢献していくことを期待しています。

【 ISASニュース 2026年4月号(No.541) 掲載】