あきる野実験施設は東京都あきる野市菅生の自然豊かな山林に囲まれた場所にある実験施設です。牧場や畑が点在する、のどかな周囲の風景には場違いな鉄筋コンクリート2階建の建築面積約500m2、延床面積約700m2の実験棟が設置されています。あきる野実験施設は、1998年11月に宇宙科学研究所の設置する外部実験施設として開設されました。あきる野実験施設では、ロケット・探査機搭載推進系に関わるJAXAおよび大学等での研究及び人材育成を目的として、様々な基礎的・教育的実験研究が行われています。本施設には1989年4月に宇宙科学研究所が相模原市中央区由野台へ移転した際に、設備の特殊性から現在の東大駒場Ⅱキャンパスから移転できず残留していた「駒場耐爆実験室」を拡充・発展させた、3階建相当の天井高と260m2の床面積を有する耐爆試験室が整備されています。この耐爆試験室には容量2t・2連の天井走行クレーンと容量2tの小型フォークリフトが備わっており、推進薬量30kg程度までの小型のロケットモータの燃焼実験を、安全に実施することができます。常設設備として、真空燃焼試験が可能な高空性能試験設備、固体ロケットおよびハイブリッドロケット向け大気燃焼試験設備、高圧水素および酸素ガス供給設備を備えた、液体燃料ロケット試験設備があります。また、固体ロケット燃料の燃焼速度計測設備があり、JAXAで開発する各種固体燃料ロケットの開発で活用されています。

あきる野実験施設では開設当時より固体ロケットやハイブリッドロケットの燃焼実験が多く行われ、主な利用者は宇宙科学研究所のロケット推進系の研究者です。最近の燃焼実験としては、NASAのスペースローンチシステム1号機の相乗り衛星として打ち上げられ、月面着陸を目指す超小型探査機OMOTENASHIの減速モータの開発が行われました。OMOTENASHIの減速モータは、固体燃料を用いた長さ30cm、重さ4kg程度の世界最小の固体ロケットモータです。さらに、これまでの固体ロケットの点火システムよりも軽量で安全なレーザー着火システムを国内で初めて採用しています(減速モータの開発の詳細はISASニュース2021年5月号の森下直樹さんの記事を参照ください)。月面近傍で使用するため、この減速モータの燃焼試験は真空中で行う必要があり、高空性能試験設備を使用しています。能代ロケット実験場にも大型の高空性能試験設備がありますが、あきる野の設備は水エジェクターを備えており、燃焼試験前後の燃焼環境を長時間真空に保つことができます。ただし、到達できる真空度は油回転ポンプレベルですので、電気推進の研究者からは「真空度が足りない、もっと上げてくれ」とご要望いただいていますが、なかなか実現できていません。各種ロケットの燃焼実験ばかりではなく、火星衛星探査機のサンプルリターンカプセルの背面ヒートシールド放出試験やヒドラジンを用いた燃料電池の試験なども実施しています。相模原キャンパスではできない発火、爆発の危険がある実験をお考えの際は、まずはあきる野実験施設(所長の後藤または設備保安主任の田口 鉄也)へご相談ください。

最後に、あきる野実験施設へは、JRの青梅線小作駅または五日市線秋川駅から高校野球の強豪校の菅生高校行きのバスに乗って20分程度、菅生高校前からは徒歩15分程度で到着します。あきる野実験施設は、新しい宇宙科学・技術の誕生を支える拠点として、研究者の皆さんの利用をお待ちしています。

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あきる野実験施設の外観。

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OMOTENASHI超小型固体ロケットモータと真空燃焼試験の様子。

【 ISASニュース 2022年11月号(No.500) 掲載】