先端工作技術グループは2016年に発足した、宇宙科学研究所の中では比較的新しいグループです。グループ発足時に母体となったのは、先端宇宙科学実験棟(D棟)の3階にある工作室とエレクトロニクスショップ、4階にある宇宙機応用工学研究系などのデバイス開発設備を集約した宇宙ナノエレクトロニクスクリーンルーム(通称、ナノエレCR)ですが、グループ発足と同時にD 棟1階に新工作室も立ち上げ、高精度なインハウスでの "ものづくり" 環境が実現するために高精度コンピュータ数値制御の工作機械と大型接触型三次元測定機を導入しました。これにより設備環境として一段高いレベルでスタートを切ることができました。

当グループは、外部から来られる見学者のルートに組み込まれていますが、「JAXAで実験装置などの試作開発をおこなっている部署です」と説明すると、「開発されている職員の方は20~30人位いるのですか?」ということをよく言われます。しかし、実態は正規職員、大学からの出向者、派遣契約社員など10名でグループを運営しており、見学の方には我々の人数が少なく驚かれることがあります。願わくば正規職員が増え、今以上に責任をもってJAXAのフロントローディングに貢献してゆきたいところですが、今は一歩一歩着実にインハウスでの "ものづくり" によって、理解者と協力者を増やすために実績を積み重ねる日々を送っています。これは、言わば来たるステップアップへのチャンスをうかがうということであり、宇宙航空ならではのノウハウや経験を積み増す時間でもあると思っています。

では、これまで我々がどのような試作開発をし、これから何を進めようとしているのか?紹介させていただきます。

グループ発足後、様々なプロジェクトに関わる機会があり、再使用ロケットRV-Xの筐体の様々な構成部品の製作や緊急離脱接手(QD)の開発、ATRエンジンの開発、国際観測ロケット(DUST)の実験装置開発、超小型月面着陸機(OMOTENASHI)の構成部品製作、SLR用小型リフレクター(Mt.FUJI)の開発、リュウグウ試料用マニピュレータの開発などに携わりました。並行して、大学院生や研究者らが進めようとしている実験に関わる装置や部品の設計・製作も支援し、自ら加工を行なう方々へはその加工指導も行ってきました。また、本グループのナノエレCRにおいては、ISOクラス1のクリーンルームに様々な微細加工装置が並び、洗浄、成膜、パターニング、ウエットおよびドライエッチングのプロセスが一通りできる環境を用意してあります。「将来宇宙で役立ちそうなもの」について、情報通信用デバイス、MEMSデバイス、光・放射線・X線・赤外線センサから光学部品に至るまで、JAXA内外の研究や共同研究へ幅広い研究開発支援を行なっています。

そして、今後も今まで進めてきたこの流れに沿って、次の3つの取り組みを充実させてゆきます。

1つめは、JAXA内の様々な基礎研究・基礎開発を支援し、次のステップへ進むための成果創出へ繋げること。2つめは、大学院生や職員、研究者の方々への設計・加工支援を通した "ものづくり人材育成" を支援していくこと。そして、3つめはグループ発足時より取り組んでいる、宇宙航空に関わる試作開発の裾野を広げるための国内の大学・高専の教員・技術職員からなる「ものづくリネットワーク」を一層充実させることです。取り組みの成果が目に見えるまでは時間がかかりますが、一歩一歩確実に形にしていく "ものづくり精神" で取り組みます。

当グループの利用方法や設備などについては、HP(https://amtg.isas.jaxa.jp/)をご覧ください。

図1

高精度な工作機械と精密測定機により、試作・開発をおこなう先端宇宙科学実験棟1階 工作室。

図2

宇宙航空用マイクロ、ナノデバ イスの微細加工装置を保有する先端宇宙科学実験棟4階 宇宙ナノエレクトロニクスクリーンルーム。

【 ISASニュース 2022年12月号(No.501) 掲載】