専門・基盤技術グループは、宇宙科学ミッションに必要な専門技術の研究開発を組織的に推進するため、従来からこれを担ってきた各サブシステムの教育職・一般職混成の専門家集団と、各種の試験技術や設備の開発・運用等を担当してきた基盤技術グループを集約し、2021年4月に発足しました(図1)。ここでは、2回に分けて、各分野(これも本稿ではグループと呼びます)が研究開発部門等と協働でプロジェクト支援や研究開発を実施している状況を紹介します。これらの活動を有機的な人材育成の場として機能させることも、専門・基盤技術グループの大きな狙いとなっています。

図1

図1 専門・基盤技術グループの構成。各技術分野で研開部門と協働しており、特に相模原の研開部門とは日々一体的に活動している。各技術やプロジェクト支援の相談は、グループ長や技術領域とりまとめ(福田・小川先生・伊藤さん)、各技術リーダ(本文参照)にお寄せ下さい。

軌道グループ(技術リーダ:津田 雄一教授)は、ミッション立案の重要な要素の1つである軌道設計技術、軌道決定技術を担っています。軌道設計は、ミッション立案の初期段階から重要な役割を果たします。古典的な二体問題の解析から、N体問題の特性を積極的に利用した軌道設計まで、様々な数値解析上のノウハウが必要です。軌道決定は、どのミッションでも必要な基盤技術であり、通信・地上系システム・ネットワーク技術・軌道力学など、これまた広範な知識やスキルが必要です。これまでの軌道関連の仕事は、抜群にskillfulな方々が個人商店的に賄っていました。しかし、宇宙研のミッションも、地球周回から月へ、地球重力圏境界へ、小惑星へ、外惑星衛星へ、遠方天体へと広がりを見せつつあり、チームとしての軌道解析能力を磨き上げ、ミッションの可能性を広げていきます。

航法誘導制御グループ(技術リーダ:坂井 真一郎教授)は科学衛星の姿勢制御や探査機の航法誘導制御について、初期段階のミッション検討から、プロジェクト段階での開発まで、様々な形で支援して来ました。「ひので」や「はやぶさ」以前から、「ひさき」、「あらせ」、現在開発中のSLI Mまで、実際の現場で活躍しています。姿勢制御・航法誘導制御はミッション自体と密接な関係があり、ミッションの検討・推進から切り離せないことがほとんどです。これまでは、グループとして動く仕組みが十分整っておらず、姿勢制御や航法誘導制御について相談したくても、どこに・誰に相談したら良いか、少し分かり難いところがありました。今後は、ミッション初期検討でのご相談なり、フェーズが進んだ段階での技術的な"悩み事"なり、お気軽にご相談下さい。「宇宙機を思いのままに動かす」ための方法を、一緒に考えていきたい思います。

部品グループ(技術リーダ:小林 大輔准教授)と電源グループ(同:豊田 裕之助教)は、共通事項が多いことから普段の活動を共にしています。部品グループでは、研開部門や探査ハブ、外部の大学・企業と協働しながら、長期にわたる深宇宙探査に堪える部品技術を宇宙科学固有の専門技術として獲得するという、難しい課題に取り組んでいます。また、最先端の研究に携わることで磨いたセンスを駆使しながら、部品選定ガイドラインを用意したり、搭載部品をチェックすることでプロジェクトを支援しています。深宇宙探査は、電源技術にも新しい課題を突き付け続けます。15年ほど前、宇宙研は金星や水星に探査機を送り込むため、高温・高照度に耐える太陽電池パネルの開発と、長期に渡るミッション期間中にバッテリの劣化を抑制する運用方法に取り組み、「あかつき」と「みお」に結実しました。そして今、深宇宙探査は外惑星に向かおうとしています。我々は、低照度・低温環境で力を発揮する太陽電池やバッテリの開発に注力しています。

データ処理・通信グループでは、宇宙機搭載システムから地上システムまで密に連携が取れた活動を実施しています。科学衛星・探査機では、プロジェクト毎の開発を最小にするため、標準部品・標準機能など様々な粒度で設計を再利用しています。データ処理グループ(技術リーダ:松崎 恵一准教授)では、宇宙研が戦略をもって宇宙機システムを構築するための標準通信・データ処理のアーキテクチャを、JAXAの設計標準として制定しました。また、このアーキテクチャに従った宇宙機を管制するソフトウェアを科学衛星運用データ利用ユニット(C-SODA)と連携して維持・開発しています。さらに、近い未来の科学衛星・探査機にむけ、衛星シミュレータを簡便に構築するための技術や、搭載ネットワーク技術の研究も行っています。通信グループ(技術リーダ:冨木 淳史准教授)では、増え続けるサイエンスデータとミッション自由度拡大の両立を目指し、通信機の究極的小型化高信頼化、送信電力の増大化のための新しい半導体プロセスの採用、地上系システムへのソフトウェア無線技術の融合、といった3つの柱を中心にJAXA横断的な研究開発体制の構築を進めています。これらの技術により、宇宙開発の低コスト化に大きく寄与することができます。

【 ISASニュース 2022年3月号(No.492) 掲載】