能代ロケット実験場(NTC)は、内之浦宇宙空間観測所から打ち上げられるロケットで使われる各種固体ロケットモータの地上燃焼試験を行うことを目的として1962年に開設された実験場です。以降、観測ロケット、ラムダロケット、ミューロケット、イプシロンロケットの開発試験を通じて、日本の宇宙科学ロケットの発展に寄与してきました。秋田県能代市浅内の日本海に面した南北に細長い敷地(南北430m、東西167m)の中央部には、固体ロケットモータの地上燃焼試験に必要な設備として、大気燃焼試験棟、真空燃焼試験棟、冷却水供給設備、火薬庫が設置されています。このうち大気燃焼試験棟は、推力500t までの固体ロケットモータを試験可能な設備として整備されています。真空燃焼試験棟は、推力150t までの固体ロケットモータの真空燃焼試験に対応し、棟内には内容積475m3の大型真空槽と15t 天井走行クレーン2基が設置されています。NTCでは、これらの固体ロケットモータ地上燃焼試験設備を定期的な点検、メンテナンスによって丁寧に維持管理しており、最近ではスペースワン社のカイロスロケットなど、民間ロケットの開発にも大きく貢献しています。また、固体ロケットの開発試験がない期間には、大型真空槽の低圧環境を利用する基礎実験などにも柔軟に対応しています。

NTC敷地の北側では、1975年から液酸・液水エンジンの研究開発が開始され、その基礎実験を行うために極低温推進剤試験棟が設置されました。ここでは、推力7 ~ 10t液酸・液水ロケットエンジンを構成するターボポンプやガスジェネレータ等の機器開発試験が行われました。開発した機器は、エンジンシステムとして組み上げられ、最終的にタンクシステムと組み合わせたステージ燃焼試験までNTCで実施されています。極低温推進剤試験棟は老朽化したため、2011年から2015年にかけて段階的に更新を実施し、現在では、液化水素、液化酸素、高圧水素ガス、高圧酸素ガスを利用可能な汎用実験設備として再整備されました。液化水素の供給源としては、容量30m3の液化水素貯槽が設置されています。本貯槽には常時液化水素を貯蔵しており、任意のタイミングでユーザーに液化水素を供給可能な状態を維持しています。貯槽付属の蒸発器によって最大0.3MPaまで液化水素を加圧し、1時間あたり最大20,000Lの液化水素を送液することができます。また、液化水素を最大93MPaまで昇圧し、供給するポンプ設備も付帯しています。2019年には液化水素貯槽を拡張して大規模水素供給技術実証用試験設備が整備され、様々な液体水素供給技術試験に活用されています。

NTCは、真空燃焼試験棟や大規模水素供給技術実証用試験設備など、日本ではここにしかないユニークな設備があり、さらに比較的市街地の近くにあるにも関わらず、最大1km保安距離を確保できるという安全面での特長が多方面で認識されるようになり、これによって、NTCにおける実験の数が年々増加傾向にあります。NTCの運営に関しては、5名の常勤職員に加え、宇宙科学研究所の専門・基盤技術グループ、研究系、および研究開発部門のNTC併任者による体制をとり、各実験における安全講習や環境教育の徹底、用水、電力設備、計測・通信機器といった実験環境の整備など、エリア管理業務を遂行しています。

最後に、JAXA外の大学や企業がNTCでの試験実施を要望する場合の手続きを簡単にご説明します。まず、宇宙科学研究所との間で共同研究契約を締結していただく必要があります。試験内容によっては高圧ガス設備の変更工事が必要になる場合もあり、NTC職員が法令に基づく諸手続きを担当します。その後、試験計画について宇宙科学研究所の安全審査を受け、プログラム会議において他計画との干渉がないことを確認の上、試験実施が承認される流れになっています。一連の手続きには通常2~ 3ヶ月かかりますが、JAXA職員がしっかりサポートしますので、お気軽にご相談ください。
問い合わせ窓口:NTC所長 小林 弘明

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NTC南側より、真空燃焼試験棟(右)と再使用ロケット離着陸場(手前)、水素試験エリア(奥)を望む。

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NTCにおける実験の様子(大学と宇宙科学研究所の共同で、大気利用による再使用ロケットの高性能化に関する実験を実施しています)。

【 ISASニュース 2022年9月号(No.498) 掲載】