宇宙科学研究所は、大学共同利用システムにより国内外の大学・研究所と一体となった協力体制を築き、宇宙科学に係る先進的な学術研究に取り組んでいます。各種試験施設・設備等を大学の研究者等の利用に供することで、科学衛星や観測ロケット・大気球などの宇宙機・飛翔体に搭載する科学機器や、新たな飛翔体の研究開発を、大学等との共同研究により進めてきました。大学共同利用実験調整グループは、この大学共同利用システムによって立案された研究計画に基づいて、大学共同利用施設・設備を用いた宇宙科学実験への実験機会を提供しています。
大学共同利用実験調整グループでは、高速気流総合実験設備、惑星大気突入環境模擬装置、スペースチャンバー実験設備、超高速衝突実験施設、宇宙放射線実験設備の5つの実験施設・設備を運営・管理しています。これらの設備は大学共同利用設備として位置づけられ、毎年公募により研究テーマを募集し、各設備に設置された専門委員会での選考を経て、大学等の研究者に広く利用されています。大学共同利用実験調整グループでは、各設備を利用する実験ユーザーが最大の科学成果を得られるように、幅広く質の高い成果を得るための技術支援と設備の機能向上に取り組んでいます。また、大学の若手研究者や学生による実験を計画段階から技術的にサポートし、将来の宇宙科学研究やミッションを支える人材育成の第一歩に貢献することを目指しています。
各施設・設備を簡単にご紹介します。高速気流総合実験設備は、超音速風洞と遷音速風洞から構成され、M-Vロケットやイプシロンロケット、はやぶさカプセルの空力設計など、宇宙科学プロジェクトにおける高速飛翔体の開発研究に供されると共に、流体力学の基礎研究にも広く利用され、国内における空気力学研究の拠点となっています。惑星大気突入環境模擬装置は、アーク加熱された気流によって高加熱率を模擬できる風洞であり、サンプルリターンカプセルの地球帰還時の高速大気突入環境を模擬できる世界有数の設備で、これまでに「はやぶさ」シリーズの帰還カプセル熱防護材の開発の中心となったほか、多くの大学の研究に使用され、最先端耐熱材料の開発など様々な先端研究成果を生み出しています。スペースチャンバー実験設備は、宇宙環境を地上で模擬し、宇宙空間に生起する現象を再現した研究や、近未来の太陽系探査科学ミッション用の搭載機器開発のための基盤設備であり、超高層大気や電離圏、磁気圏のプラズマを観測するための測定器開発、宇宙空間に生起する様々な大気・プラズマ現象に関するシミュレーション実験などに用いられています。超高速衝突実験施設は、超高速衝突現象を模擬するための実験施設であり、横型および縦型の二段式軽ガス銃によって、基礎的な宇宙工学・理学の研究開発から、様々なミッションの実現に向けた搭載機器開発のための実験を行い、宇宙、物質、太陽系、生命の起源について理解を深化させつつ、新たなる観測機器の開発を推進させています。宇宙放射線実験設備は、赤外線装置およびX線実験装置から構成され、地球の大気に遮られて地上にはほとんど届かない電磁波の観測機器開発を目的とし、低・高エネルギー光子を対象とする観測機器開発に必要となる測定器、光源、クライオスタット、加工装置を備えており、宇宙放射線の基礎的な研究に加えて、天文衛星等の様々な搭載機器の開発に利用されています。
大学共同利用実験調整グループでは、これらの各施設・設備に関連する研究分野を専門とする専門・基盤技術グループおよび教育職の職員が、設備の維持・管理に留まらず、ユーザーとの共同研究などにより、自らも科学成果を創出することを目指しており、ユーザーの皆さんと共に、日本の宇宙科学の幅広い発展に貢献したいと考えています。大学共同利用実験にご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。
【 ISASニュース 2023年4月号(No.505) 掲載】