地球外物質研究グループが正式な組織として立ち上がったのは、イトカワ試料の受入れ後の2015年です。正式な組織になる前は、「はやぶさ」が試料を持ち帰る前の2006年に技術系職員1名と太陽系科学研究系の教授1名の構成で、「はやぶさ」が持ち帰る試料受入設備を整備する目的で活動がスタートしています。

キュレーションというと、リターンサンプルを非破壊、非汚染の環境で管理保管し、試料のカタログ情報を取得公開すると同時に、国際公募研究への提供を行っている組織と理解されるかもしれませんが、その業務を遂行するために蓄積された知見や、開発整備された各種装置や実験環境などは、広くグループ外の方にも開放されており、実際に様々なユーザーの方が利用されています。具体的には、リターンサンプルを扱っているクリーンチャンバー以外にも、クリーンルームには、走査型電子顕微鏡や、試料加工装置、グローブボックスなどがあり、清浄な環境で試料を加工分析することができる環境を提供しています。クリーンルーム外にも、透過型電子顕微鏡や、走査型電子顕微鏡、収束イオンビーム加工分析装置(FIB-SEM)や電子線マイクロアナライザー(EPMA)などがあり、所外の物質科学研究者が持ち込みの地球外物質試料の分析研究をするために来所するだけでなく、JAXA内の理工学研究者なども実験などで生成したサンプルを持ち込んで分析されることもあります。装置利用以外にも、施設内で生成している超純水はフライト品などの洗浄や清浄化に利用されたりすることもあります。またキュレーションでは、チャンバー内環境を高い清浄度レベルで維持するために、高純度な窒素ガスの生成と清浄化を行う装置を整備しているだけなく、大気圧イオン化質量分析計(API-MS)などの環境モニタ装置でその環境を評価することができます。最近はガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)を整備して、これまで外注して実施していたクリーンルームなどの環境モニタを、自前でも評価できる能力を身に着けました。

地球外物質研究グループでは、貴重なリターンサンプルの汚染を極力避けるために、チャンバー内やクリーンルーム環境を高い清浄化レベルで維持するために、持ち込む物品の清浄化や、サンプル採取装置および関連物品の清浄度管理(コンタミネーションコントロール)にも気を配っており、そのノウハウを持っていますので、将来のサンプルリターンを検討する際や、探査機の清浄度が重要になる際には、そのノウハウを活かした協力が可能です。もう1つのグループの特徴は、試料ハンドリング装置も自前で開発しているところです。試料ハンドリングのツールは様々なものが市販品でもありますが、試料への汚染を気にすると、試料に触れる部分やチャンバー内に持ち込む物品の素材を吟味し、汚染が極力少ないものに置き換えたり、ハンドリング方法を変えたりする必要があります。具体的な例として、「はやぶさ」のμmサイズの試料を扱うために開発された静電制御マニピュレータや、「はやぶさ2」のmmサイズの試料を扱うために開発された真空ピンセットがあります。現在は、火星衛星探査計画(MMX)などの大量サンプルを効率よくハンドリング分析できる装置の開発を進めています。

「はやぶさ2」の試料受入れを経験して、無機、有機さらには微生物の観点での汚染管理のノウハウが蓄積されており、将来的には、宇宙検疫の分野にも貢献できるよう考えています。現在2023年秋に地球帰還予定の小惑星ベンヌ*1の試料の受入れの準備として、総合研究棟1Fのクリーンルーム拡張工事を行っています。その後専用のクリーンチャンバーを導入する予定です。また2024年度打上げ予定のMMXは火星衛星のフォボスから2029年に試料を持ち帰る予定で、その試料受入れの準備も進行中です。

地球外物質研究グループはホームページ*2での情報発信を行っています。ご興味ある方はぜひお立ち寄りください。また、施設利用の相談などは同ホームページの施設利用案内 問合せ先よりお願いいたします。

*1 「Bennu」の日本語表記として「ベンヌ」という表記がメディアでは一般的に用いられますが、英語の発音に近いのは「ベヌー」です。

*2 https://curation.isas.jaxa.jp/

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リュウグウ試料受入前リハーサルの様子。

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リュウグウ試料受入時メンバーの集合写真。

【 ISASニュース 2022年10月号(No.499) 掲載】