EQUULEUS構造系では、様々な機器を収納して衛星を形作る構体の設計・製造、強度解析、そして実機の組み上げ、試験検証を担当しました。今回は、EQUULEUS構造におけるキューブサットならではの開発の苦労について少しご紹介したいと思います。

EQUULEUS構造の紹介

EQUULEUSの構造は6Uキューブサットサイズといって、10cm立方の箱(1ユニット、 1U)が6つ収まるサイズとなっています。正確には11.6cm×23.9cm×36.6cmほどですが、引き出しや書類鞄のサイズをイメージしていただければ丁度良いです。EQUULEUSではこの中に、3つの科学観測機器、水を推進剤とした推進系、そして探査機の基本的な機能を果たす通信・電源・各種制御基板などが超高密度に格納されています(図)。6Uサイズながらも軌道制御能力を有し、目的の軌道へ航行しながら科学観測による成果創出も期待されています。

図:EQUULEUSの外観(上)と内部機器配置図(下)

図 EQUULEUSの外観(上)と内部機器配置図(下)

構造設計の道のり

EQUULEUS開発当初は日本での6Uキューブサット開発の計画はほとんど無く、まず6Uサイズに収まる機器を新規に開発することが大きな課題でした。市場として先行している海外のキューブサット向け高密度実装機器も頼りつつ、科学観測機器や通信機器、電源制御基板などは過去衛星の設計をベースになるべく性能を落とさず小型化の開発が実施されていきました。この開発と並行して構造系による機器配置と構体設計が進められたのですが、検討の中で各機器のサイズ増加や形状変更があったり、新たに機能を追加するための機器が増えたりと設計確定への道のりは困難を極めました。

例として、ある日、衛星電力が不足しそうだという解析結果が出て、太陽電池パドルのサイズ増加が実施されることになりました(片翼3列から4列)。この際、姿勢を決定するために搭載されている恒星センサの観測方向にパドルの端が入り込んでしまうことが判明しました。このままでは姿勢決定に支障をきたしてしまう恐れがあったため、機器配置の大幅見直しが行われ、結果として各機器を左右総入れ替えする変更に見舞われたこともありました。

また各機器の設計が進む中で、ある機器の基板に実装される素子と他の機器の基板の素子が構造的に干渉してしまうこともありました。これは機器によっては基板を囲う筐体を設ける空間の余裕がなく、向かい合う基板の素子が立体的に交差する必要があったためです。機器の開発担当と議論を重ねて、機能が損なわれない範囲で素子の型番、サイズや配置を0.1mm単位で見直すことで問題を解決していきました。

振り返ると、キューブサットの厳しいサイズ制約と開発要素の多さゆえ各機器の構造的なインターフェースが非常に切り辛く、各機器の詳細設計にまで立ち入りながら適切な設計解を導き出すのに苦労しました。結果としては、綿密な検討によって超高密度な機器配置を実現することができました。

機器配置ののち、構体の詳細設計・強度解析を経てエンジニアリングモデルの製造が行われ、実機を用いた試験検証が始まりました。ここで構造系が直面したのは、ケーブルハーネスを含めた機器組み上げの困難さです。隙間がないほど詰められた機器間にひとたびコネクタが隠れると、そこにケーブルハーネスを接続するのは不可能です。機器を構体に締結する前に予めケーブルハーネスを接続しておいたり、ルートを工夫したり、コネクタのアクセス用の穴を構体に設けておいたり、組み上げ手順の改善を行ったりする必要がありました。これらLessons Learnedを踏まえてフライトモデルでは改良が加えられ、無事EQUULEUSは6Uキューブサットとして組み上げ完了に至りました。EQUULEUSは様々な試験検証を終え、現在、NASAの開発した打上げロケットSLSの中に格納され打上げを待っています。

最後に

深宇宙を探査する性能を備えながら複数の科学観測を実施する探査機システムを、6Uサイズという非常に厳しい制約の中で構造的に実現できたことは、今後の探査ミッションの選択肢の幅を広げる非常に重要な成果です。様々な打上げ機会に恵まれているキューブサットは、高頻度な深宇宙探査を果たす上で今後重要な役割を担うはずです。その先駆けとなるEQUULEUSは今、小さな機体に皆さんの期待をいっぱいに詰めて、活躍のときを待っています。

【 ISASニュース 2021年12月号(No.489) 掲載】