2016年にEQUULEUSに搭載するオプション機器が、柳澤正久(電気通信大学)、矢野 創(ISAS)、船瀬 龍(東京大学)と私で検討され、世界初の宇宙からの月面衝突閃光(LunarImpact Flash、以下LIF)の観測は、「将来の有人探査を推進するのに役立つものであること」というNASAの要請 * にも合致し、超小型で実証する意義は大きいと意見が一致しました。デルフィヌス(DELPHINUS: DEtection camera for Lunar impactPHenomena IN 6 U Spacecraft)」すなわち「いるか座」は、夏の夜空に「エクレウス(こうま座)」と並ぶ小さな星座から名を冠しています。
* ISASニュース2020年11月号 本連載第1回目 参照

彗星や小惑星を起源とする直径μm 〜mの流星体(メテオロイド)が秒速数10 kmで地球大気に突入する際の発光現象が「流星」です。一方、大気の無い月面にメテオロイドが直接衝突すると、LIFが可視光から近赤外波長域で発生します。地球から観測される一般的なLIFは、直径数cm 〜数10 cmのメテオロイドの衝突に伴う、明るさ5 〜10等級、継続時間0.01 〜0.1秒の閃光で、1999年「しし座流星群」の際に初めて観測された現象です。

「火球」は、直径が数cm以上のメテオロイドによる稀な流星現象ですが、広大な月面を利用すると、火球サイズの衝突頻度とサイズ分布を約100倍効率良く調査することができます。NASA月周回衛星LROによる月面高解像度撮影から、新しいクレーターが多数発見されており、低重力下の月面では、衝突に伴うクレーター放出物が遠方まで飛ばされることもわかってきました。つまり継続的なLIF観測は、メテオロイドの衝突と飛散放出物による月有人活動へのリスク評価に関わる、重要な月面環境モニターとも言えます。

DELPHINUSの開発では、まず、高感度CCDイメージセンサ搭載で宇宙実績のあるカメラモジュールを、北大と東北大から提供していただきました。次に、太陽離角45度までの観測を達成するため、月面の昼側からの迷光を低減する遮光板をセンサー前に設け、可視光の99.965 %を吸収するカーボンナノチューブから構成される「ベンタブラック」を鏡筒内部のコーティングに採用した、焦点距離50 mm/F 1.4レンズ(設計波長380 - 750 nm)を新規開発しました。カメラが2台あるのは、電気ノイズや宇宙線などの誤検出を除外するためです(図1)。毎秒60枚のVGA白黒画像を連続取得してLIF候補を機上でリアルタイム検出しながらクリップ画像を生成するための画像処理用FPGA基板も新規製作しました。DELPHINUSの各種試験・性能評価や専用画像処理アルゴリズム開発などは、日大、電通大、東大の学生らの研究テーマとしても取り組んできました。

図1 DELPHINUSのフライトモデル

図1 DELPHINUSのフライトモデル

NASA成層圏赤外線天文台「SOFIA」による航空機観測から、月面全体に水分子が存在することが示唆され、NASA月大気・塵探査機「LADEE」に搭載された質量分析器により、年間を通した多数の流星群極大のタイミングで月面から水蒸気が放出されていることが発見されています。これらの現象を理解する上でも、メテオロイドの月面衝突現象のメカニズムを詳しく知る必要があり、我々のグループでは、地上観測や室内実験にも取り組んでいます(図2)。

図2 LIF望遠鏡観測上、LIF模擬実験左下、DELPHINUSロゴマークと「いるか座」(右下)

図2 LIF望遠鏡観測上、LIF模擬実験左下、DELPHINUSロゴマークと「いるか座」(右下)

米国NASAや欧州NELIOTAでは、これまで計約600イベントのLIFの観測に成功していますが、地上観測では、三日月から半月の限られた観測期間に加え、地球で反射した太陽光が月面夜側を照らす「地球照」という悪条件が重なり、統計的な議論を行う良質なデータが不足しています。超小型探査機EQUULEUSで向かうEML 2 ハロー軌道からLIF観測を実証し、将来の月周回有人拠点からの定常観測などにも繋げていきたいと考えています。

【 ISASニュース 2021年4月号(No.481) 掲載】