超小型深宇宙通信機

OMOTENASHI(以下 OMT)、 EQUULEUS(同 EQU)の通信システムを紹介します。そもそも、月及び月以遠でのミッションを抱えた6Uサイズ(1U:10cm×10cm×10cm)、総重量14kg以下の月圏宇宙機の打上げ機会はSLSが初となります。開発期間・費用及び打上げ機会の面から、宇宙機は多くの観測機器及び技術実証機器を搭載することが多く、今後の小型探査機の活躍を見据えると、バス機器(電源・通信・推進などの基本機器)の小型・軽量・省電力化は必須です。今回開発した通信機はおよそ0.4Uサイズ(8cm×8cm×6cm)、総重量は通信システム全体で700g以下と非常にコンパクトに深宇宙探査に必要な機能を実現しています(図1)。2014年に当時の超小型技術実証機として打ち上げられたPROCYONの通信システムの総重量は7.3kgですから、重量で見ると実に1/10も小型化したことになります。

図1

図1  左/ OMOTENASHI通信機 右/ EQUULEUS通信機

X帯(7-8GHz帯)通信機

小惑星フライバイも狙うEQUでは地球から最大0.01au(およそ150万km。1au: 地球--太陽間平均距離)の距離でも成立する通信能力が要求されました。スケールダウンとともに扱える電力が減るため通信可能距離も小さくなりますが、Si MOSFET(シリコン電解効果トランジスタ)に比較し電子移動度の高いGaN HEMT(窒化ガリウム高電子移動度トランジスタ)によって電波出力を高効率に取り出しています。

そして取り出した電力をできるだけ損失させないことも重要です。電波の送受には、信号の周波数に適した同軸線を用いて通信機とアンテナを接続する必要があります。しかし6Uの制約上、宇宙機内部は各機器で隙間もないほど埋め尽くされており、ハーネスの取り回しが非常に難しいものとなりました。構造上、同軸コネクタと同軸線の接合箇所は負荷を受けやすいのですが、各種試験を繰り返す中で目視では判断のつかないものの伝送損失が増大する不明瞭な断線が頻発したのです。これを受けてフレキシブル同軸線の選定およびコネクタとのインテグレーション法について検証・試作を重ね、柔軟性・耐久性が向上した同軸線を開発しました。

加えて低損失フィルタや高利得アンテナの開発の成果もあり、EQUの最大通信距離はおよそ0.3 auと要求の30倍近い性能を達成しました。

また、OMT/EQUは通信システムの原振に原子時計を搭載しています。CubeSatに広く使われている温度補償水晶発振子では地球局間との通信に用いる周波数から0.1%程度前後するため、データ通信の前に探査機の"ずれた"周波数の信号を探して捕捉・同期をとる必要があります。一方、原子時計の発振周波数は長期に渡って安定しており高速な信号捕捉が可能です。短い運用時間を少人数でまわす小型探査機にとって、運用開始直後から探査機と通信できる技術はミッションを果たす上で非常に大きな要素です。さらに長期に渡って安定したクロックを要する観測ミッション・通信ミッションへの貢献も期待されます。

UHF帯(430 MHz帯)通信機

OMTはX帯通信機の他にUHF帯通信機を搭載しています。特に月面着陸モジュール(SP)*のUHF通信機には着陸時の加速度計の出力をもとにリアルタイムにFM変調をかける機能を実装した他、打上げ時には折り畳まれ軌道上で大きく広げる展開型円偏波アンテナを独自に開発しました(図2)。4素子の逆F型アンテナに位相差給電することで円偏波を構成する一方、それぞれのアンテナは独立しているために、着陸衝撃による破損の可能性に対して冗長性を確保しています。

* ISASニュース2021年3月号本連載記事参照

図2

図2:SPの展開アンテナは折りたたんで格納される

最後に

6U探査機に搭載可能な、深宇宙探査にも耐える通信システムについて簡単に紹介しました。 CubeSatが深宇宙探査に切り込んでいく時代の先駆けとなる両探査機の打上げを待つばかりです。

【 ISASニュース 2021年7月号(No.484) 掲載】