●「嵐の中に響くさえずり??」
PWE担当 笠原 禎也
プラズマ波動・電場観測器 (PWE)は、電場・磁場の振動(波)を測る観測器です。「あらせ」から伸展したワイヤプローブアンテナが電場を、マスト先端に取り付けられたサーチコイルが磁場を測定します。PWEは1つの観測器ながら、前述の電・磁場センサに加え、3つの受信器、それらを制御する2つのCPUという大規模な観測器です。さらに、観測中は常時取得する通常データと、衛星内にいったん蓄積し、選別したデータだけを地上に下ろすバーストデータの2種類があり、非常に煩雑な観測計画と運用手順を要します。もともとPWEは開発期間・予算の制約上、水星探査機MMOのプラズマ波動観測器(PWI)の資産を極力踏襲した設計となる「はず」でした。が、科学者は常に欲張りです。観測機能を次々と積み上げ、新規要素てんこ盛りとなりました。あまた飛び交う磁気圏衛星に囲まれてもピカリと光る観測器たるべき、というチームの心意気の表れでしょう。
当初私は、MMO/PWI同様、機上ソフトの開発責任者という立場でした。機上ソフトは観測器の「魂」ともいえ、いかにハードウェアが素晴らしくても、ソフトの善し悪しが観測性能を大きく左右します。開発にあたり、波動データの解析で数々の成果を挙げているO. Santolik博士のもとに長期滞在し、多くの助言を頂いたことが大変助けとなりました。
2015年秋、それまでPIだった笠羽 康正さんから、今後はお前がPIをやれ、と打診されました。最初、大変面食らいましたが、同年春に学生時代から26年つきあった「あけぼの」が運用終了し、その後を託された「あらせ」が打上げまで1年を残す中、意を決してお引き受けしました。機上ソフト担当として、それまでも機器全体の掌握は必須でしたが、チーム内の意見を集約し、あらゆる判断を迫られる重責を負い、その後はまさに怒濤の日々でした。
「あらせ」が「宇宙のさえずり=コーラス」を捉え、その神々しい音色を耳にした時、宇宙嵐がなぜこんな美しい波を起こすのか、謎の入り口にやっと立てたという思いと、それを解き明かすことが、我々を支えてくださったプロジェクトの皆様、メーカーの皆様への恩返しだと改めて意を強くしております。
(笠原から松田 昇也さんへ)
宇宙で活躍する観測器を自ら仕上げたい! その意欲を胸にこの世界に飛び込んできた松田さん、実際にやってみていかがでしたか?
●「観測器に『魂』を吹き込む」
PWE機上ソフトウェア担当 松田 昇也
私がプラズマ波動・電場観測器(PWE)の機上ソフトウェア開発に携わるようになったのは、2015年春のことです。最初は、非常にご多忙な笠原先生のお手伝い程度だったはずなのですが、一度首を突っ込むと抜け出せない性格が抑えきれず、気が付けば僅か2年ほどの間に随分と深いところまで来てしまいました。思い返せば幼き頃から電波に縁があったようで、アマチュア無線にはまった小学生の頃、自宅の庭に高さ25m程のアンテナを立ててご近所様に迷惑をかけた出来事は、PWEを完成させるという重要任務に生かされているのだと思います。
先に笠原先生が書かれているように、観測器にとって機上ソフトウェアとは、その性能・性格を決定づける、いわば魂のようなものです。例えば、ファミコンにゲームカセットを挿せば、その機械はどんなゲームにも早変わりするわけですが、ゲームの質を左右するのはカセットに書き込まれたソフトウェアです。衛星搭載観測器の機上ソフトウェアも同様で、ハードウェアの潜在能力を存分に引き出し、おもしろい観測を実現するための重要な役割を担っています。「あらせ」に搭載された科学観測器のなかでも、PWEは特に機上ソフトウェアに依存している機器の一つといってもよいでしょう。1秒間あたり数百万サンプルにも及ぶ膨大なデータを絶えず観測し続けるため、機上での圧縮処理やスペクトル解析によるデータ量の削減が必須課題になります。一方、ソフトウェアに依存している分、処理の高度化や高速化を柔軟に図れ、エンジニアの力量次第で無限の可能性を引き出せる点が大変魅力的です。となれば、極限まで挑戦してみたくなるのが技術者の性というものです。
性能向上を目指したために、幾度となく金沢と相模原を往復し、衛星試験棟にこもって寝ずの番をしましたが、宇宙で活躍する魅力的な観測器を完成させるためなら何の苦でもありませんでした。最近ではその日々が恋しく、次の衛星ミッションのお手伝いが出来る日々を心待ちにしています。「あらせ」が貴重な科学データに遭遇する日を心待ちにしながら、次の機上ソフトウェアの構想を練りつつある今日この頃、もうすっかり観測器開発の虜になってしまいました。
(松田から東尾 奈々さんへ)
お若くしてXEP開発を主担当された東尾さん、若さゆえの開発精神や心意気をお持ちだと思いますので、ぜひ教えてください。
【 ISASニュース 2017年10月号(No.439) 掲載】