●「そして衛星開発は続いていく」
 ファンクションマネージャ 福田 盛介

「れいめい」から「ひさき」、今回の「あらせ」、次のSLIMと、泥臭いながらも一貫して衛星開発の現場で過ごせていることをうれしく思っています。仁田さんがお尋ねの変わること/変わらないことですが、あまり気負わず、いかにプロジェクトに参加する全てのメンバーや関係者の力を結集し、衛星をつくり上げていくことを「楽しむ」かを大事にしています。青臭いですが、チーム全体のモチベーションを上げることが、素晴らしいミッションを達成するための一番の近道だと信じています。

ERGには出たり入ったりしましたが、昔のメールを検索すると、2006年の10月頃に、亡くなられた小野高幸先生と、標準バスへの要求仕様についてやり取りしています。迅速な成果創出が小型科学衛星シリーズのモットーでしたが(SPRINTはそういう意味です)、やはり10年かかったことには忸怩たるところがあります。小野先生とのやり取りの内容は、EMC(電磁適合性)、スピンタイミングのミッション部への配信、データレコーダ容量等々。この10 年、標準化と個別のミッション要求の間で、メーカさん共々頭を悩ましたあれやこれやです。ともあれ、三軸ポインティングの「ひさき」とスピン安定の「あらせ」を、同一設計のバスで無事に軌道投入でき、理学の皆さんに観測で使い倒していただけることは、感慨ひとしおです。

バス部取りまとめという所掌でしたので、現場で混乱の芽を摘み取るべく全体を見渡しているつもりでしたが、JAXA/メーカ含めて各サブシステム関係者の能力と努力のたまもので、天と地がひっくり返るような大きな不具合は起きず、無事に開発を完了できました。お前の天と地はもとから...というお叱りがありそうですが、実際に標準バスの効果が出て、ERGのシステム試験での不具合は「ひさき」開発時と比べて激減しました。これは、シリーズや継続の大事さを示唆していると思うのですが、最近がらんとしたC棟に入ると、何だか危機感を感じます。どんどん衛星プロジェクトを立ち上げ、回していかなくては、会議資料だけ作るのがうまくなってしまいますので。

内之浦イプシロン管制センターでの坂井(左)と福田(右)。独り言が相手に聞こえる距離感が肝。

内之浦イプシロン管制センターでの坂井(左)と福田(右)。独り言が相手に聞こえる距離感が肝。

(福田から坂井 真一郎さんへ)

「れいめい」、「ひさき」、「あらせ」と一緒に仕事をしてきましたが、今回の打上げ前は、システムの私から見ても、姿勢系はひと際大変だったと思います。いつもクールに仕事をこなす坂井さんが、さすがにまずいと思った局面はありましたか?

●「『事故』を経た第一歩を踏み出して」
 姿勢制御系担当 坂井 真一郎

「まずいと思ったことはあったか」ですが、打上げを控えたあの頃、「天候で打上げが遅れるかも」といった話題が出るたびに坂井が目を輝かせていたことは、ご記憶の方が多いかと思います。

あの頃、時間が足りないと焦っていたのは、自分の準備不足でした。「れいめい」、「ひので」、「ひさき」と初期運用に参加する中で、「自分でも計算・シミュレーションする」というスタイルがすっかり身についてしまいました。それは例えば、インターフェース条件や仕様範囲を超えたような広いパラメータ空間を設定した総当たりシミュレーションにより「○○が起こったら何が起こるのか」を自分なりに把握する、といった作業です。計算機をかき集めて台数で勝負するわけですが、いずれにせよ、今回はそういった自分の準備に割ける時間が足りず、いささか焦っていました。

その分、事前の総点検や審査会は充実していましたので、そのおかげで全体として運用の確実性を高められたことも事実です。例えば、姿勢制御のダイナミクスシミュレータと搭載計算機に、地上系までが接続された運用模擬環境は、「れいめい」では準備できたものの、「ひさき」等では実現できていませんでした。今回は総点検での指摘もあって、この環境で運用訓練を実施することができ、これにより、メーカ側・ISAS 側での役割分担を含めた練度を格段に向上できたと思います。また、運用時の承認プロセスを明確に定めたことも、結果として確実な運用に大きく寄与したと実感しています。

これらはいわば、科学衛星の初期運用に対する新しいプロセスや視点の導入だったと理解しています。そこには、ASTRO-H 事故を経て我々が学ぶべきものが確かにあり、今後に繋げるべきものが確かにあると思います。その上で、つまりそれらをきちんと消化して自分たちのものとした上で、科学衛星の実情に即して最適化・効率化していくことが、「事故」を超えていくための今後の課題だと思っています。

なお結果として、今回の初期運用については個人的に、ある種の「やりきった」感を抱いています。それは、地上姿勢決定についてプロジェクト研究員Ersin Soken君の、伸展シミュレーションについて大学院生の太田祐介君のサポートもあってのことですし、伸展シミュレータを残してくださった小松敬治先生の、ニューテーションダンパCFD 数値解析を実施くださった研開部門根岸秀世・梅村悠両氏のおかげでもあります。この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。

(坂井から竹内 伸介さんへ)

質量特性の精密管理、伸展物の減衰特性評価、ニューテーションダンパの流体解析などなど、竹内さんと一緒に検討する機会がいつもより多かったように思います。ホントのところ、ヤバいと思っていたものも中にはありましたか?

【 ISASニュース 2017年5月号(No.434) 掲載】