●「大切なものは目に見えない」
 S-WPIA担当 小嶋 浩嗣

ソフトウェア型波動粒子相互作用解析装置(S-WPIA)のエンブレム

イラストレーターの熨斗千華子さんがソフトウェア型波動粒子相互作用解析装置(S-WPIA)のエンブレムをつくってくれました。「あらせ」の故郷、鹿児島県肝付地方に伝わる妖怪「いったんもめん」が巻き付いて、そこに『星の王子さま』の「大切なものは目に見えない」と言うフレーズがフランス語で書かれています。S-WPIAは、2007年12月ERG衛星キックオフ会議で、東北大学の加藤雄人さんに提案して頂きました。「ソフトウェアで観測するので重量ゼロです」というスタンスで。S-WPIAは、宇宙空間で移ろいゆく「エネルギーの流れ」を捉える日本発の観測装置です。宇宙空間を探査する科学者にとって、エネルギーの流れは最も重要なものの一つですが目には見えません。でも、このエネルギーの流れがあるから宇宙環境は、時々刻々と変化をしていくのです。やっぱり大切なものは目に見えないのです。しかし、S-WPIAは、この大切なものを見えるようにしてくれます。S-WPIAを提案して10年。この間、加藤さんにより手法は理論的に確立され、JAXA疋島充さんがプログラムとして形にしてくれました。S-WPIAはほとんどの観測器のデータを使用しますが、各機器の研究者、メーカーの担当者、そして衛星システムチーム、すべての皆さんが、S-WPIAの意義を理解し協力してくださいました。さあ、S-WPIAは科学者の目となり大切なものを見せてくれるでしょうか。

(小嶋から疋島 充さんへ)

疋島さん、S-WPIAの非常に複雑な衛星上処理プログラムを実現してくれてありがとうございます!

●「S-WPIAの開発を経て」
 S-WPIA機上ソフトウェア担当 疋島 充

私がこの分野に足を踏み入れたのは修士課程からで、これからホットになる水星磁気圏探査機MMOに搭載するサーチコイルセンサの開発に携わりました。その後、「コーラス」と呼ばれるプラズマ波動のシミュレーション研究を行い、ERGプロジェクトの立案者である故小野先生に声をかけて頂き、東北大学でS-WPIAの開発をスタートしました。

S-WPIAは、これまで各機器PIの方々からの紹介にありましたように観測した波動電場・磁場(PWE-E/B)、背景磁場(MGF)、粒子(MEPe、HEP、XEP)の全データを用いて衛星機上で波動と粒子の「相関」を求めるために複雑な処理を行います。各機器との連携処理が必要となるため、緻密な調整を経て、地上試験で次々と現れてくる問題を乗り越えて、開発を行ってきました。また、様々なケースを想定したフレキシブルな処理に対応し、いかに速く、もちろん計算が異常終了しない処理フローを構築することに神経と時間を使いました。S-WPIA処理のために上記の全機器から送出されるデータ量は1秒間に1メガバイトにもなります。これは全ミッション機器から定常的に作られる通常データ総量の100倍!に相当します。そしてPWEによる同量程度のバースト波形データが上乗せされます。これらデータは全て地上に下ろすことは不可能なため、高島さんの記事にありました機上の大容量レコーダMDRに保存します。S-WPIAではこれらのデータを地上に送る機能も備えており、サイエンス側の要望を取り入れつつ使い勝手のよい機能に作り上げてきました。また、S-WPIA処理とデータ送信の連携が曲者で、互いの処理が破綻しないようにメーカーの方々のご協力も得て十分に試験を重ね、本日の運用に至っております。

熱真空試験で長時間計算を行う機会がありましたが、日をまたいで10時間近くの計算が無事終了した時は強くガッツポーズしました(心の中で)。開発の他には、内之浦の射場で打上げ当日(+α)まで1カ月近く滞在し、レイトアクセス班として打上げ数時間前まで衛星の側で作業を行い、貴重な経験をしました。

S-WPIAは世界初の試みであり、新しい物理量を見つけることはそう簡単ではありません。S-WPIAはこれまでの磁気圏科学に新たな知見を与える強力な手法です。ERGが皮切りとなり、今後の科学衛星に搭載されていくことを信じて日々解析を進めております。

打上げ直後の集合写真(筆者は下段右から二人目)

打上げ直後の集合写真(筆者は下段右から二人目)

編集後記

「あらせ」の開発に携わったなるべく多くの人の、生の声を読者にお届けしようと半ページごとのリレートークでお届けしました。執筆の依頼をすると反応は十人十色で、文章もその人の個性にあふれていて、短い記事ながらも筆者の主張・個性がギュッと凝縮された一文がありました。「あらせ」を作り上げた「何か目に見えないもの」を心で見て、感じていただけたのなら嬉しいです。(三谷)

【 ISASニュース 2018年2月号(No.443) 掲載】