●「低エネルギー電子計測への努力」
 LEPe担当 風間 洋一

私がERGプロジェクトと関わったのは、2008年冬からです。そのときにはすでにERG衛星計画が学会有志のメンバーで議論されていて、私はそれを外から眺めていましたが、そうしているうちに、台湾の大学がERG衛星の低エネルギー電子計測器(LEPe)を開発するため、開発者を募集しているのを知り、もともと粒子計測器の開発をしていたので早速応募しました。あれから9年ほどが経とうとしているとは、なんとも時の流れは速いですね。

私の担当したLEPeは、約20eVから20keVの電子を計測します。20eVというのはかなり低いエネルギーで、衛星構体が局所的に数Vから数十V帯電するだけで、電子の軌道が変わって正しい計測ができなくなる可能性があります。そのため、衛星全体がすべて同電位になるよう、柴野さんや浅村さんに大変な努力をしていただきました。衛星の至る所に絶縁材料があるなかで、外に暴露している部分すべてに導通を与えるのは、相当に大変だったと想像します。また、磁場も電子の軌道に影響を与えるため、他の機器の方にもステンレス部品などの残留磁場を規定値に抑えるようお願いしています。

現在LEPeは正常に動作し、内部磁気圏に存在する低エネルギー電子のデータを日々取得しています。すべての機器が初めて同時に動作した2月27日のデータでは、サブストーム現象に伴うエネルギー分散構造が綺麗に観測されて、これから始まるサイエンスへの興奮と、努力が報われたことへの安堵を覚えました。

帯電や帯磁などの影響を受けやすい低エネルギー電子の観測データについてはこれから詳しくデータを見ていくところですが、例えば67eVのデータには、帯電などによるチャンネル間の偏りや光電子などのスピン依存性は見られず、衛星本体や他の計測機器の方の低エネルギー電子計測への対策は功を奏したと思います。これについて、柴野さんや浅村さん始め他の担当者やメーカーの方々にご協力いただき、感謝に堪えません。みなさま本当にありがとうございました。

システム振動試験において加振の合間に、ほこり がLEPe に入らないようにカバーを装着する様子

システム振動試験において加振の合間に、ほこりがLEPe に入らないようにカバーを装着する様子。

(風間から松岡 彩子さんへ)

松岡さんが担当したMGF(磁場計測器)もLEPeと同じく、衛星自体の影響を受けやすいと思います。自然界に本来存在する磁場を、衛星がまるで存在しないかのように計測するためには、いろいろとご苦労が有ったと思いますが、どのような点が大変でしたか? その結果はどうですか?

●「高性能・伸展物・EMCの三位一体」
 MGF担当 松岡 彩子

ERGに限らず、宇宙空間の磁場を高精度で測定するために必要なものは、第一に性能の良い磁力計ですが、次に磁力計センサを衛星から離すための長い伸展物、三番目は人工的な磁場ノイズを出さない衛星本体です。この3つを達成して初めて、風間さんのお題「衛星が存在しないかのような計測」という理想が現実となります。

3つ目の磁場ノイズ抑制(EMC)については、先月の記事で三田さんが述べられた努力とプロジェクトの皆様のご尽力のおかけで、ERGはノイズを殆ど出さない衛星となりました。

2つ目の伸展物については、話はいきなり前世紀に遡ります。1998年に打ち上げた火星探査機「のぞみ」にも、高精度の磁場計測を目指して同じ名前の磁場観測器MGFを搭載し、火星到着後に5mの長さのマストを伸ばしてセンサを衛星から離す計画でした。「のぞみ」は残念ながら火星周回軌道に入らず、マスト伸展も叶いませんでした。今回ERGに搭載したマストは、「のぞみ」のマストの設計をほぼそのまま使ったものです。20年近い年月を経て、ようやく宇宙空間での伸展成功に至りました。

ERGのMGFは、水星磁気圏探査機BepiColombo MMOに搭載した MGF-Iを元に設計しました。小さな問題はたびたび起こりましたが、MMOの経験を元に解決しながら製造と試験を進めました。そして、ERGの8種の観測機器の中で、衛星システムへ一番乗り!のはずが、何とフライト品引き渡し前日の最終確認で、MGFのセンサに大きな問題が見つかってしまいました。打上げは1年後に迫っています。その日から不休で原因調査、改修方針検討、方針の検証試験、改修、それまでの全試験やり直しを行い、衛星システムの熱真空試験に何とか間に合いました。検証試験で撮影した顕微鏡写真は1,200枚に及びました。この怒涛のリカバリ作業を支援くださったメーカーの皆様、ERGプロジェクトの皆様、ポスドクの寺本さん、野村さんには改めて深く感謝を申し上げます。おかげさまで、現在MGFはあんな大問題など無かったかのように、順調にデータを取得しています。

(松岡から笠原 禎也さんへ)

プラズマ波動・電場観測器(PWE)で、ERGのテーマである粒子と波動の相互作用を解き明かす作戦と、データを手にするまでに辿った道のりを教えてください。

【 ISASニュース 2017年9月号(No.438) 掲載】