木星のオーロラ。それは地球のオーロラとは比べものにならないほど激しく、大規模な現象です。木星のオーロラは地球のオーロラの数百倍も強力だとも言われています。木星のオーロラが初めて観測されて以来、この強力なオーロラはどのようにして発生するのか、様々な仮説が提案されていますが、決定的な証拠に欠けていました。
木星のX線波長域で観測されるオーロラ(以下、X線オーロラ)は、何らかのメカニズムで超高速にまで加速された酸素や硫黄のイオンが木星大気に衝突して発光すると考えられます。どのようにしてX線オーロラの原因となるイオンは加速されるのでしょうか?主な仮説は二つあります。一つ目は地球と同じく、太陽風の影響で加速されるというもの。もう一つは、木星の高速自転と木星自身がもつ磁場、木星の衛星イオから供給されるプラズマによって加速されるというものです。どちらの仮説が正しいかを明らかにするためには、木星のX線オーロラを連続的に観測し、太陽風の変動とX線オーロラの発生場所や場所による違いなどを比較することが必要です。例えば、X線オーロラと太陽風の変動が関係していることがわかれば、前者の仮説(太陽風の影響で木星のX線オーロラが発生)の観測的な証拠となります。
研究チームは惑星分光観測衛星「ひさき」とチャンドラX線望遠鏡、XMMニュートンなどで、2014年4月の二週間にわたり、長時間モニター観測を行いました。
「地球の位置での太陽風の観測データはあります。ただ、地球と木星の距離が離れているので、地球の位置での観測結果を外挿して木星の位置での太陽風の圧力や速度を推測すると精度が悪くなるのです。それでこの研究では、ひさきによって太陽風との関連が強いオーロラをモニター観測し、木星その場での太陽風の速度などを見積もりました」と、研究チームを率いた木村氏は語ります。
「一方、チャンドラX線望遠鏡では、高解像度で一日一回十時間、計6回の観測を行い、X線オーロラの空間構造とその変化を捉えることに成功しました。また、XMMニュートンの観測でX線オーロラの詳細な強度変化がわかりました。」
観測の結果、太陽風の速度とX線オーロラの強度は深く関わり合っていることがわかりました。太陽風の圧力とX線オーロラの強度に相関がある、ということは多くの観測で報告されてきました。が、速度との相関を示したのは今回の研究が初めてです。 また、チャンドラによる長時間観測のおかげで、X線オーロラの空間構造とその変動が高精度で測定することに成功しました。研究チームを率いる木村氏は解説します。「このデータと木星磁場のモデルの助けを借りて、X線オーロラの空間分布が磁気圏領域ではどのような空間分布になっているのかを推測しました。するとX線オーロラを貫く磁力線は木星磁気圏と太陽風の境界面に繋がっていることがわかりました。このことと、太陽風速と相関があることから、X線オーロラは太陽風の影響で発生していると考えられます。」
研究チームは、同時に、2011年に取得されたX線の観測データの解析を行いました。当時は2014年の観測時とは太陽風の状態が全く異なります。しかし、やはり、太陽風と磁気圏の外側に繋がるX線オーロラが現れている傾向が出ており、本研究成果と一致しています。一方、2014年1月に行ったひさきとハッブル宇宙望遠鏡の共同観測では、紫外線オーロラ爆発が起こるメカニズムについて研究が行われました。このときの結論は、木星の高速自転がオーロラ爆発を引き起こすのだというものでした。したがって、木星のオーロラ現象は太陽風と関連して発生しているものと、木星の高速自転によって引き起こされるものと二通りのメカニズムが混在していると言えます。
ひさきプロジェクトマネージャの山崎氏は語ります。「他の惑星でもオーロラ現象が同様のメカニズムで起こりえます。例えば、土星は衛星エンセラダスから供給されるプラズマが土星の磁場に捕まって土星周囲を高速回転しています。ですから、木星と同様の現象が発生する可能性が高いと言えます。もちろん、系外惑星でも同様の現象が起こりえます。将来は、我々の研究成果が系外惑星のオーロラ現象に応用されるかもしれません。」
木村氏は今後の研究について次のように語っています。「今後はX線天文衛星「ひとみ」(ASTRO-H)や2016年7月に木星極軌道に投入される探査機JUNOによる観測と、ひさきによる観測を相補的に用いて、更に詳しく、オーロラ現象を引き起こす粒子の加速メカニズムを解明したいと思っています。」
関連する論文
T. Kimura, R. P. Kraft, R. F. Elsner, et al., 2016, JGR,"Jupiter's X-ray and EUV auroras monitored by Chandra, XMM-Newton, and Hisaki satellite"
DOI番号:10.1002/2015JA021893
William R. Dunn, Graziella Branduardi-Raymont, Ronald F. Elsner, et al. 2016, JGR,"The Impact of an ICME on the Jovian X-ray Aurora"
DOI番号:10.1002/2015JA021888