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ひさき|SPRINT-A

世界初の惑星観測用宇宙望遠鏡

ご存じのように太陽系には8つの惑星があり、太陽から近い順に水星・金星・地星・火星・木星・土星・天王星・海王星で、様々な強さの固有磁場をまとっています。また、太陽系は太陽から吹き出したプラズマの流れ(太陽風)で満たされています。プラズマは荷電粒子の集まりですから、惑星固有磁場の強さが太陽風と惑星圏の関係性を決定します。
最強磁場を持つ木星は、地球を約2万個束ねた固有磁場の強さを持ち、さらに10時間で自転するため、巨大な磁気圏が形成されます。大きさは地球磁気圏の100倍ほどで、実に太陽約10個分です。もし、地球から木星磁気圏全体が見えたとすると、数十度の長さの吹き流しに見えることでしょう。
もっとも磁場の弱い金星は、重力は地球とほぼ同じ、太古の大気組成も似ていたと考えられていますが、現在は表面温度・気圧はおよそ400℃・90気圧と、地球とは似ても似つかない灼熱の環境です。生命が育まれる惑星の成立条件はどうやって決まるのでしょう。
このように多種多様な惑星圏(磁気圏、大気圏など惑星の勢力範囲のこと)を太陽風との相互作用の観点からその普遍性と特殊性をひも解くことが、惑星観測宇宙望遠鏡「ひさき」の目的です。

概要

諸元

国際標識番号 2013-049A
衛星名(打上げ前) 惑星分光観測衛星「ひさき」(SPRINT-A)
開発の目的と役割 極端紫外線(EUV)分光器による木星イオプラズマトーラスの観測と地球型惑星外圏大気と太陽風の相互作用の観測
打上げ日時 2013(平成25)年9月14日 14:00
打上げ場所 JAXA内之浦宇宙空間観測所
打上げロケット イプシロンロケット
質量 348kg
投入軌道 高度近地点 947km 遠地点 1157km
軌道傾斜角 29.7度
軌道周期 106分
軌道の種類 楕円軌道
主要ミッション機器 極端紫外線(EUV)分光器(EXCEED)

ネーミングの由来

ロケット射場のある内之浦の地名である「火崎」(津代半島の先端部の岬)にちなんで命名しました。

  • 内之浦で最初に朝日が当たる場所であり、内之浦の新しい夜明けの象徴であること
  • 内之浦の漁師が漁の安全を祈願する場所であり、内之浦を旅立つ船の安全な航行の象徴でもあること
  • 突端であり、衛星形状のイメージとも合致すること
  • 観測対象が太陽(ひ)の先(さき)である惑星としていることにも掛けている
「火崎」全景
プロジェクト有志でお詣り

目的

唯一無二のサイエンス

「ひさき」(SPRINT-A)は、地球周回軌道からの光学観測で、木星磁気圏の発光分布からプラズマが持つエネルギーの時間的・空間的な流れや、地球型惑星外圏の発光量から宇宙空間に逃げる大気量を測定することによって、惑星圏の普遍性と特殊性を浮き彫りにすることに挑戦します。「ひさき」では、極端紫外線という目に見えない光を分光観測します。光の強度は、発光を促す供給エネルギーの強さと実際に発光する物質の密度、の両方に依存する量なので、一般的な写真のようなの明暗の観測だけではその2つを分離することはできません。光の振動数と振幅を分離する分光観測を行うことによって、はじめてこの2つの物理量を分離することが可能となるのです。
木星圏の特殊性として、奥深い内部磁気圏に存在する活火山を持つ衛星イオが挙げられます。噴出した火山性ガスがプラズマ化しイオの公転軌道上にドーナツ状に分布する、イオプラズマトーラスが形成されます。

イオトーラスでは、主星分の硫黄イオンと酸素イオンが周囲の電子と衝突することにより発光するので、各輝線強度の空間変化・時間変化から磁気圏内のプラズマのエネルギーの流れを推測できるのです。また、太陽風強度の指標となるオーロラと内部磁気圏の指標となるイオプラズマトーラスの発光強度を同時に観測することで、太陽風エネルギーが内部磁気圏までどの程度到達しているか? という問いに答えを出すことができると期待しています。
金星圏の特徴は磁場によるバリアの機能がないことで、大気は直接太陽風と衝突し宇宙空間へ大量に流出しています。太陽系誕生直後には、太陽が現在よりも激しく活動していたため、非常に強い太陽風が惑星に到達し、現在よりも多量の大気が逃げ出していたと考えられています。強い太陽風が惑星の大気にどのように作用するか?初期の太陽系で何が起こっていたか?「ひさき」が取得したデータにより分かってくるでしょう。

スマートな衛星開発

「ひさき」(SPRINT-A)は、SPRINTバスを使用した小型科学衛星の1号機になります。SPRINTバスの基本構造は四角い箱形をしており、その基本型にいろいろなモジュールを組み合わせていくことで、さまざまな科学ミッションに対応しようとしています。各モジュールは、スペースワイヤと呼ばれる人工衛星などの宇宙機器に搭載する通信ネットワーク装置の国際的な規格によって繋がれているため、モジュールを組み替えるだけで新しい衛星本体を作ることができるのです。より短時間、低コストでの開発が可能になり、スピードが要求される国際競争に勝ち残っていく大きな武器となります。
衛星は、どの衛星にも必要な通信・電源・姿勢制御など基幹となるバス部と、観測などの独自の目的を達成するためのミッション部から成り立ちます。従来の衛星は、設計段階から一体で開発を進めてきましたが、今回はバス部とミッション部を個別に開発しました。搭載ミッション部のみを変更すれば他の目的の衛星として姿を変えることを念頭に、バス部は標準化したセミオーダーメイド型のSPRINTバスを開発し、開発期間の短縮とコストの削減というダブル効果を狙っています。

しかし技術的な課題も残っています。SPRINTバスは1m立方、200kg級の小型バスであり、このサイズの衛星の平均的な姿勢指向精度は、厳密な制御を行う場合でも5分角程度が普通です。これに対し、地球周回から各惑星を見込む角度が10から60秒角であるため、観測側から5秒角の指向精度が要求されました。この課題を克服するために、ミッション部に観測目的ではない視野ガイドカメラを搭載し、取得データを姿勢制御装置にフィードバックする特殊な仕組みを追加することにしました。スペースワイヤーというネットワーク規格で衛星内のデータ通信を統一していたこと、観測的研究をする理学研究者と衛星技術を研究する工学研究者が一体となった宇宙研の体制面の特徴が活きました。
ミッション部は、感度や角度分解能などの観測要求から、主鏡の大きさ焦点距離が確定し、全体の構造が決定されました。筒先の鋭角な角度は、太陽離角最少の水星を観測できるように定められました。フード部から導入された惑星からの光は、ミッション部底面の主鏡で反射され、肩に載った極端紫外分光装置で各波長に分かれて検出されます。取得される画像は、一次元の位置情報と波長情報を含み、スペクトルイメージと呼ばれます。

宇宙での将来技術実験

「ひさき」(SPRINT-A)は、主ミッションに加えて、余裕の範囲内で、宇宙実験の場を研究者に提供することを目的として、搭載スペースを用意しました。具体的には、NESSIE(ネッシー)と呼ばれる電源技術の実験モジュールが搭載されています。

NESSIEネッシー

NESSIEでは次の2つの部品について性能評価・実証実験を行っています。
未来の衛星や探査機のデザインは、これらの成果により大きく変わる可能性があります。

  • 1.薄膜太陽電池
    性能が良く薄く曲げることができる特徴をもつ
    温度が±100℃の間で変化し、強い紫外線や放射線にさらされる過酷な宇宙空間で性能評価する実験
  • 2.リチウムイオンキャパシタ(LiC) 蓄電池
    発火しない構造のため安全で、使用温度範囲が広く、長寿命で大電流の入出力ができる新しい蓄電池の実証実験

開発

-2010年 3月〜7月

熱構造モデルの各種試験

フライト品の熱構造設計を確定させるための各種実地試験を行いました。

バス・ミッション部の初めての機械的インタフェース確認。無事に結合できました。
振動試験。打上げ時のロケット
振動に対する耐性の確認。
熱真空試験(ミッション部)。
宇宙での熱環境の模擬。
静荷重試験。打上げ時の横加速度
に対する耐性の確認。

-2012年 3月〜5月

一次噛み合わせ試験

フライト品を用いた衛星システム全体での電気的インタフェース試験です。

ミッション部へのNESSIE搭載。
電気試験。衛星の形状に組み上げる
前に、展開したまま実施。
電気試験風景。
一次噛み合わせ試験終了。

-2012年 10月〜2013年5月

フライトモデル総合動作試験

衛星の機能確認しながら、フライト状態に組み上げていく、地上での最後の試験です。

熱真空試験。
振動試験。
フライト状態で確認。
SAP展開試験。万が一の飛び散り
に備えて、衝立整備。
衛星完成。

-2013年 6月〜9月

フライトオペ@内之浦

最終電気試験・外観チェック完了。
衛星班単独作業終了。
ロケットと結合。
クリーンブースから出てきた
頭胴部。
打上の瞬間。
打上時の衛星管制室。緊張の一瞬。
第一可視成功。
もちろん神棚も準備しました。

成果

太陽風の影響、太陽系最強のバリアをくぐり抜ける
-「ひさき」太陽風の影響が木星磁気圏の内部にまで及んでいることを証明-

惑星分光観測衛星「ひさき」の観測から、太陽系最強を誇る木星磁気圏の内部にまで太陽風が影響を及ぼしていることが示されました。強力な木星磁気圏の内部深くに守られている木星の近くには太陽風の影響など及ぶはずがないという従来の考えを覆す観測結果です。太陽風が木星の磁気圏に及ぼす影響を調べるには、長時間、継続して、木星磁気圏を観測する必要があります。惑星観測専用の宇宙望遠鏡である「ひさき」の特徴を生かした、一ヶ月以上にもわたる観測によって達成できた「ひさき」ならではの成果と言えます。太陽風が木星磁気圏内部まで入り込むプロセスを明らかにするため、研究チームは現在、NASAの木星探査機「JUNO」とJAXAの「ひさき」による同時・その場観測を行うべく、海外の研究者らと協力して、準備を進めています。 本研究成果は、アメリカ地球物理学専門誌 Geophysical Research Letters に掲載されました。 (Murakami, et al. 2016, "Response of Jupiter's inner magnetosphere to the solar wind derived from extreme ultraviolet monitoring of the Io plasma torus", DOI: 10.1002/2016GL071675)

プレスリリース
http://www.isas.jaxa.jp/topics/000832.html

木星を取り囲む高温のプラズマリング
-イオからの大気流出と加熱現象-

日本の惑星観測用宇宙望遠鏡衛星「ひさき」によって、木星の衛星イオの大気から宇宙空間に放出され、プラズマ状態になったガスが詳しく観測されました。その温度を調べてみると、イオの回りで非常に高温となっていることが明らかになりました。「ひさき」衛星の観測結果は、イオのような天体と宇宙空間の相互作用によって生じるプラズマの加熱機構を解明する手がかりとなります。(東北大学ウェブサイトより)
本研究成果は、アメリカ地球物理学専門誌 Journal of Geophysical Research に掲載されました。 (Tsuchiya et al. 2015, "Local electron heating in the Io plasma torus associated with Io from HISAKI satellite observation", DOI: 10.1002/2015JA021420)

外部リンク
http://www.tohoku.ac.jp/japanese/2016/05/award20160512-01.html

太陽風が引き起こす、木星の強力なオーロラ
-X線オーロラの協調観測-

木星のX線波長域で観測されるオーロラ(以下、X線オーロラ)は光速に近い速度の酸素や硫黄のイオンが木星大気に衝突して発光すると考えられています。しかし、イオンが光速近くまで加速されていなければなりません。どのようにして加速されているのか。太陽風変動のタイミングを見積もるため、「ひさき」は太陽風との関連が強いオーロラを観測し、「チャンドラ」X線望遠鏡では木星直径を100分割できるほどの高解像度でX線オーロラの空間構造とその時間変化を捉え、「XMMニュートン」の分光観測では木星の衛星イオの火山ガスや太陽風に存在しうる酸素原子が放つX線を捉えました。この観測から太陽風の速度と木星オーロラの明るさは深く関わり合っていることがわかり、理論数値計算からX線オーロラを貫く磁力線は木星磁気圏と太陽風の境界面に繋がっていることがわかりました。このことは、X線オーロラは太陽風の影響で発生している可能性が高いことを示唆しています。
本研究成果は、アメリカ地球物理学専門誌 Journal of Geophysical Research に掲載されました。 (Kimura et al. 2016, "Jupiter's X-ray and EUV auroras monitored by Chandra, XMM-Newton, and Hisaki satellite", DOI: 10.1002/2015JA021893)

プレスリリース
http://www.isas.jaxa.jp/topics/000262.html

高速自転が引き起こす、木星のオーロラ爆発
-ハッブルとの協調観測-

オーロラ発光は惑星周囲の宇宙空間(磁気圏)中の電磁的エネルギーの解放過程を可視化する重要な現象です。地球のオーロラは、太陽起源の電磁場とプラズマガス(太陽風)が磁気圏に蓄積される「外部駆動型」の現象です。木星のオーロラは、衛星イオ起源のプラズマと、木星の強力な固有磁場と自転が、太陽の代わりとなって磁気圏にエネルギーを供給する「内部駆動型」の磁気圏であるといえます。太陽風静穏時に「ひさき」で捉えた突発的オーロラ増光は、同時に行ったハッブル宇宙望遠鏡の高解像度のオーロラ画像から、磁気圏の各領域と結合している複数種類のオーロラ形状の卓越を伴うことが判明しました。これは、内部駆動源により、木星磁気圏全体が急速に活発化し、各領域で何らかのエネルギー解放が起きることを示唆しています。
本研究成果は、アメリカ地球物理学専門誌 Geophysical Research Letters に掲載されました。 (Kimura et al. 2015, "Transient internally driven aurora at Jupiter discovered by Hisaki and the Hubble Space Telescope", DOI: 10.1002/2015GL063272)

プレスリリース
http://www.isas.jaxa.jp/topics/000203.html

太陽系最大の粒子加速器(木星磁気圏)を解剖する
-「ひさき」のスペクトル診断による木星周辺宇宙空間の理解-

木星周辺の宇宙空間は強い木星の磁場で満たされ、太陽系内最大の粒子加速器となっています。それらの粒子がどのようにして高いエネルギーを獲得しているのか。木星の強力な磁場に取り囲まれた領域(木星内部磁気圏)において、高温の電子が木星側に向かって流れているという証拠を「ひさき」の観測によって世界で初めて捉えました。これは従来の学説を裏付ける重要な証拠です。
本研究成果は、アメリカ科学誌 Science に掲載されました。(Yoshioka et al. 2014, "Evidence for global electron transportation into the jovian inner magnetosphere", DOI: 10.1126/science.1256259)

木星とイオプラズマトーラス
プレスリリース
http://www.isas.jaxa.jp/topics/000186.html