木村智樹研究員(宇宙航空研究開発機構)が率いる研究チームは、惑星分光観測衛星「ひさき」による木星の長時間連続観測によって、オーロラの突発的増光(オーロラ爆発)を捉え、この現象が木星自身の高速自転によって引き起こされることを世界で初めて示しました。

木星は、その内部構造のために地球磁場の約2万倍の規模に達する非常に強力な磁場を持っており、その磁場は、木星と共に高速自転(一周約10時間)しています。そして、太陽系で最も活発な活動がある木星の衛星イオからは、平均すると毎秒約1トンのプラズマが放出され続けています。木星では、衛星イオ由来のプラズマや太陽風と木星磁気圏との相互作用によってオーロラが常時発生しているのが観測されていました。しかし、地球で見られるようなオーロラ爆発は、断片的にしか観測できておらず、それが地球のように太陽風が原因なのか、それとも木星自身が原因なのか、わかっていませんでした。

研究チームは「ひさき」を用いた観測によって太陽風が静かなときにも木星のオーロラが突然明るくなる爆発現象を連続的に捉えることに成功しました。これは、オーロラ爆発が木星の磁力と高速自転によって引き起こされる事を示唆します。さらに、ハッブル宇宙望遠鏡で得た木星のオーロラの詳細な撮像データから、木星のオーロラ爆発は木星磁気圏の全体が急速に活性化して起きている可能性が高いことがわかりました。

本研究成果は、米国惑星科学専門誌「Geophysical Research Letters」に掲載されています。

惑星分光観測衛星「ひさき」とハッブル宇宙望遠鏡による木星オーロラ観測の想像図惑星分光観測衛星「ひさき」(左下)とハッブル宇宙望遠鏡(HST、右下)による木星オーロラ観測の想像図。木星の極域、リング状に見えているのがハッブル宇宙望遠鏡で観測された木星のオーロラ。オーロラから伸びている磁力線を青い筋で表している。HSTの背後に見えている天体が木星の衛星イオであり、木星周囲の赤いプラズマガスが、オーロラ爆発を引き起こす磁気圏の擾乱を表す。

発表者

木村 智樹(JAXA/ISAS,(独)日本学術振興会特別研究員PD)
Dr. Sarah V. Badman (Lancaster University, UK)
垰 千尋 博士 (Université de Toulouse, CNRS, France.)
Prof. John T. Clarke (Boston University, US)
藤本 正樹 主幹(JAXA/ISAS)
山崎 敦 助教(JAXA/ISAS)

掲載論文

Transient internally-driven aurora at Jupiter discovered by Hisaki and the Hubble Space Telescope
T. Kimura et al.
Geophysical Research Letter

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惑星分光観測衛星「ひさき」(左下)とハッブル宇宙望遠鏡(HST、右下)による木星オーロラ観測の想像図(TIFF、21.5MB)

木星オーロラ観測の想像図(TIFF、11MB)

ご使用の際は必ずクレジットを表記してください。copyright: JAXA

解説

オーロラは、磁気圏がさまざまな影響を受けた結果生み出される発光現象です。オーロラの形状や強度を調査することで、惑星を取り巻く磁気圏が、何から、どのような影響を受けているのかを知ることができるのです。

地球では、太陽風の影響でオーロラが突発的に増光します。一方、木星のオーロラは、地球の100倍以上もの明るさ、かつ、何倍もの広さで常に発光しています。

これまでに、常に発光している木星のオーロラには、太陽風だけでなく、衛星イオと木星磁気圏の相互作用も影響していることが知られています。衛星イオでは、太陽系で最も活発に活動している火山が噴火しています。その火山からは、平均すると毎秒1トンという大量の荷電粒子が放出されています。衛星イオからの放出された荷電粒子は木星の周辺領域に充満し、高速に自転する木星の磁場に引きずられて、木星の極域に強い電場をつくることになります。これにより荷電粒子が加速され、X線から電波に渡る、様々な色(波長)でオーロラが発生します。

地球と同様に、木星オーロラも突発的な増光(オーロラ爆発)を起こすことが知られていました。しかし、太陽風の影響でオーロラ爆発が起こるのか、それとも、衛星イオとの相互作用が原因なのか、木星自身が原因なのか、明らかになっていませんでした。

地球のように人間の目で見ることの出来るオーロラに加えて、木星では極端紫外線といった短い波長でもオーロラが強く発光しています。これらの短波長の光は、オーロラの素となる荷電粒子の情報を直接反映する重要なものです。しかし、それらは人間の目で見ることはできません。また、このように波長の短い光(正確には電磁波)は大気に吸収されてしまい、地上から観測することもできないのです。そのため、極端紫外線等の観測装置をもつ宇宙望遠鏡での観測が不可欠です。しかし、極端紫外線の観測装置の開発は容易ではなく、高度な技術が要求されます。また、オーロラ爆発の時間変化を捉えられる連続的な観測をするための、宇宙望遠鏡の長時間専用が非常に困難でした。そのため、本格的な研究は行われてきませんでした。

惑星分光観測衛星「ひさき」は、太陽系内の惑星を極端紫外線で観測するための宇宙望遠鏡です。「ひさき」によって極端紫外線による木星オーロラの連続観測を行い、研究者たちは木星オーロラの爆発現象が起こる原因解明に挑戦しました。

研究チームを率いた木村氏は次のように語っています。
「我々は昼夜を問わずひさきを木星に向け続け、連続観測を実現させました。そして、ひさきの観測データから得たオーロラ強度と、太陽風シミュレーションを比較した時、予想外の結果を目の当たりにして、非常に驚きました。」

データは、太陽風が非常に静穏な時期に、急速なオーロラ爆発が自発的に起こったことを示していたのです。

木村氏は続けます。「地球のオーロラ観測では、『太陽風の変化が激しい時にオーロラが明るい』ことが常識でした。しかし「ひさき」のデータは、この常識から逸脱するものでした。データを見た当初は信じられませんでした。」

詳細に検討した結果、データは紛れも無い事実だということがわかりました。非常に幸運なことに、ハッブル宇宙望遠鏡が、木星のオーロラ爆発の瞬間に最高解像度のオーロラ撮像を行っていました。ハッブル宇宙望遠鏡による撮像データから、爆発の瞬間、実に様々なオーロラ形状が現れている事がわかりました。これは、木星磁気圏全体が何らかの理由で、太陽風など外的な影響なしに、活発化している事を示唆しています。つまり、木星と衛星イオの相互作用によって磁気圏が活発化し、オーロラ爆発が起こったということが本研究によってわかりました。

研究チームは今後、さらにこの研究を進め、木星の磁気圏で何が起こってオーロラ爆発が起こるのか、その原因を特定したいと計画しています。

参考

木星のオーロラの想像図。