衛星そのものの運用を衛星運用(連載第5回参照)と呼ぶのに対し、観測する天体の公募やスケジューリング、観測後のデータ処理と較正データの最適化など、主として観測の科学的な側面に関係するオペレーションを「科学運用」と呼んでいます。XRISMでは、「すざく」やASTRO- H(「ひとみ」)など過去の衛星で得られた教訓をもとに、プロジェクト発足の早い段階から、Resolve、Xtendの開発チームなどとは独立に「科学運用準備チーム」を立ち上げ、ミッションにおける科学成果を最大限に引き出す体制を構築しています。科学運用準備チームは、JAXAや大学・研究機関の職員及び学生、約30人で構成され、NASAのGoddard Space Flight Center(GSFC)やESAのEuropean Space Astronomy Centre(ESAC)スタッフとも協力しながら活動を進めています。科学運用のタスクは、大きく、i)観測前、ii)観測後、iii)データ配布後の3つに分類できます。それぞれの準備状況について紹介します。

i ) 観測前

打上げ後10ヶ月目以降から、Guest Observerからの観測提案による観測を実施します。提案が採択され、観測天体が決まった後、およそ4 ヶ月分に渡る長期観測計画や、1週間分の短期観測計画を立て、観測に臨みます。現在は、公募観測前の初期科学観測期の天体(連載第3回参照)について観測スケジュールを立て、8月に行われた衛星熱真空試験のデータも使って、システムの検証や実運用に向けた訓練を実施しています。また、超新星やガンマ線バーストなどの突発天体の観測についても、観測の要請から48時間(平日)/ 72時間(休日)以内の観測を目指した体制を準備しています。

ii ) 観測後

衛星の運用記録は全て観測データベースに保存されます。取得されたテレメトリデータから、天文学研究に用いるFITS形式に整形されたデータを生成します。この作業は、生成タイムスケールが1日程度の即時データ処理と、1 ~ 2週間程度の高次データ処理に分けられます。即時データ処理にて観測機器の状態をチェックし、異常の早期発見や運用へのフィードバックをかけます。またその際には、観測視野に偶然含まれた突発イベントをサーチし、イベントが見つかれば天文コミュニティ向けに速報を流します。一方、高次データ処理では、観測後の解析で得られる精確な時刻・姿勢・軌道情報を加味したFITSデータを作成します。それをNASA/GSFCに送り、エネルギー・座標といった物理情報を付与します。その後、観測データは、1年間のデータ占有権とともに観測提案者に渡されます。これらシステム内の個々のツールは、科学運用準備チームのメンバーが開発し、外注したソフトウェアと組み合わせて、1つの処理プロセスを完成させました。衛星熱真空試験の際には即時データ処理を施し、取得されたデータを全てFITS化してResolve、Xtend開発チームへ提供しました。現在は、このデータを使って時刻精度の検証を進めているほか、検出器の健康診断を可視化するツールの開発・検証を進めています。また高次データ処理についても、ISASで作成したFITSデータをNASA側に送り、NASA側での処理後、再びISASに送り返すインターフェイス試験を実施中です。

iii ) データ配布後

観測提案者にデータ配布後、衛星情報などの共通の情報と、1年間のデータ占有期間を終えたデータは、ISASやNASAのウェブサイトで公開されます。解析パフォーマンスの向上のため、観測機器の軌道上較正計画を立て、Resolve、Xtend開発チームと協力しながら、較正内容の更新やユーザーが利用する解析ツールの作成・改修を行います。こうした内容をドキュメント化し、XRISM関連の学会・論文などの情報と共に公開します。現在は、Resolve、Xtendの地上試験データを用いた較正作業のサポートや、軌道上較正計画を実施していくための文書類を選定しています。検出器特有の事象に対するシミュレータの開発とその論文化、XRSIM Quick Referenceの作成・公開なども行なっています。

これらの作業計画や内容は、運用計画書などの管理文書に定められています。その資料は、プロジェクトの審査会資料としても参照され、後の計画や作業にフィードバックをかけます。また現在は、観測計画から観測データ処理までの一連の運用を模擬した、総合運用性試験を実施しているところです。科学運用準備チームは、来年度の打上げに向けて着実な科学運用を実施できるよう日々奮闘中です。

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久々のface -to- faceでの議論・作業場面@ISAS (遠隔地参加や参加できなかったチームメンバーも多数います)。

【 ISASニュース 2022年11月号(No.500) 掲載】