ResolveはXRISMの搭載機器の1つで、X線反射望遠鏡とX線マイクロカロリメーターを用いた検出器システムで構成されます。本稿では後者についてご紹介します。

X線マイクロカロリメーターとは、X線光子を熱量(カロリー)として検出する装置です。光子を吸収するとそのエネルギー分だけ素子の温度が上昇するので、この温度変化から光子のエネルギーを計測します。Resolveでは素子を絶対温度0.05 度(単位ケルビン:K)に冷やすことで、X線光子のエネルギーを0.1%の精度で決定します。これは現在広く使用されている半導体検出器より30 倍も優れた性能です。元素は決まったエネルギー(波長)を持つ光を出すので、そのエネルギーと強さを調べることで、銀河をとりまく高温ガスの中にどんな元素がどのくらい存在するのか、どのような物理状態にあるのかがわかります。ドップラー効果により光の波長が変化することを利用すると、高温ガスの運動、いわば銀河を吹く「風」の速度もわかります。Resolveを使えばこれまでにない精度でそれらを測定できるようになるのです。

X線マイクロカロリメーターを用いた衛星搭載装置の開発は、ASTRO-E、ASTRO-EⅡ(「すざく」)、ASTRO-H(「ひとみ」)の3衛星にわたって、日米国際協力によって進められてきました(注:ASTRO-Hからは欧州も加わりました)。しかしながら2000年打上げのASTRO-Eはロケットの不具合により軌道投入に失敗、2006 年打上げのASTRO-EⅡでは打上げ後に装置の不具合により液体ヘリウムが失われ、観測を開始することができませんでした。冷却システムの設計や開発体制を抜本的に見直したASTRO-Hでは、ペルセウス座銀河団を観測し、「30倍優れた」スペクトルデータを取得することに成功しました。世界で初めて目の当たりにする本当に素晴らしいデータでした。しかしながら今度は衛星の不具合により機能が停止しました。XRISM搭載のResolveは私にとって4 度目の挑戦です。

Resolveの特徴の1つは極低温です。Resolveの設計は基本的にASTRO-Hと同じで、液体ヘリウムで1 Kの熱浴を作り、そこから断熱消磁冷凍機を用いて素子を0.05 Kに冷やします。ヘリウムタンクの周囲を機械式冷凍機で冷やすことにより、30 Lの液体ヘリウムを3 年以上保持する計画です。ResolveのX線受光部の大きさはわずか5 mm角しかありませんが、それを0.05 Kに冷やすために非常に「大掛かりな(質量約300 kg)冷却装置」と「質量」が必要になるのです。また、ASTRO-EⅡの失敗を踏まえて、ASTRO-HやResolveでは万が一液体ヘリウムが失われても機械式冷凍機と断熱消磁冷凍機だけで0.05 Kに冷却して観測を続けられる設計にしています。もう1 つの特徴は、X線マイクロカロリメーターは感受性が高く、X線だけでなく振動や電磁ノイズ等、あらゆるノイズ擾乱を拾ってしまう可能性があり、ノイズ対策が重要であるという点です。ASTRO-Hでは開発当初、機械式冷凍機の振動の影響で本来の性能がまったく出ず、大変苦しめられましたが、その対策はASTRO-Hで実施済みであり、Resolveでは大きな問題にはなっていません。もちろん、Resolveで苦労したこともあります。最大の危機は、NASAで製作されたセンサと断熱消磁冷凍機を含むモジュールを組み込んで、真空断熱容器の組み立てが完了した後に、低温での液体ヘリウムの漏れが見つかったことです。極低温に冷やした時だけ発生するいちばん厄介な漏れで、結局真空断熱容器の蓋を開けてNASAのモジュールを組み込んだ直後の状態まで戻し、日米チームで検討・試験を繰り返して漏れ原因を探して塞ぎました。コロナ禍の影響もあってチームメンバーの往来にも苦労があり、問題解決に1年以上かかりました。Resolveの開発フェーズの中でも非常に苦しい時期でした。幸いなことにその後は大きな問題はなく、2022年3月には装置としての試験を終え、現在は衛星としての試験を実施中です。

Resolveという言葉には分解するという意味の他に決意や不屈という意味があり、X線のエネルギーを高い精度で分解するという装置の特性を示すと同時に、今度こそX線マイクロカロリメーターによる精密X線分光観測を実現させるというチームメンバーの強い思いが込められています。打上げまであと一息のところまで来ました。XRISMがもたらす宇宙の新たな発見にご期待下さい。

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NASAで製作されたモジュールを、日本側で製作した真空断熱容器に組み込む瞬間の様子。2019年11月25日に住友重機械工業(SHI)新居浜工場にて、SHI/NASA/JAXA共同で実施。後方右端で青いマスクをつけて確認しているのが筆者。

【 ISASニュース 2022年10月号(No.499) 掲載】