連載第3弾となる今回は、XRISMが目指すサイエンスや、科学成果の創出に向けた私たちの取り組みについてご紹介します。XRISMは、X線を使って宇宙の構造形成や化学進化のプロセスを解明することを目的とするミッションです。捉えるX線の波長は0.1-4 nm。人間の目に見える光と比べて3〜4桁短く、高いエネルギーを持ちます。光のエネルギーが高いということは、その放射源のエネルギーも高い、すなわち温度が高いことを意味します。具体的には、温度が約100万度を超えるプラズマ(電離気体)が、X線を放射します。したがって、XRISMの観測対象の多くが高温の天体です。

高温プラズマの観測は、宇宙の本質を知る上で不可欠です。なぜなら、宇宙に存在する陽子や原子核のほとんどが、X線帯域でしか観測できないプラズマ状態にあるからです。例えば宇宙最大の天体である銀河団には、差し渡し1千万光年ほどの範囲に、太陽質量の10兆倍を超える膨大な量のプラズマが存在します。これは、その銀河団に含まれる星や冷たいガスの総質量の5倍にも相当します。つまり銀河団は、X線で観測して初めて、その全体像を明らかにできるのです。

では、それほど大量の物質を高温にするためのエネルギー源は何でしょうか? それは、重力(万有引力)です。重力によって物質と物質が引き寄せ合うことは、高い場所から低い場所へと物が落ちることと本質的に同じです。この落下によって物質は運動エネルギーを獲得し、やがてそれが熱へと変換されるのです。したがって銀河団を構成する高温プラズマの観測は、宇宙最大の天体の成長過程を調べることに他なりません。これを行うのがXRISMです。XRISMは銀河団のX線観測を通して、宇宙の構造形成の仕組みを明らかにします。

この科学目標を実現する鍵となるのが、XRISMが搭載する観測装置です。その1つであるResolveは、X線マイクロカロリメーターと呼ばれる技術を使って、検出したX線の波長を正確に測ります。波長決定能力(エネルギー分解能)は、X線天文衛星「すざく」など、従来の装置の30倍。そのためResolveは、高温プラズマ中の重元素が放つ特性X線を、ひとつひとつの量子遷移に分離して検出できます(詳しくは、ISASニュース2019年9月号『「ひとみ」の科学成果』参照)。結果として、プラズマの温度や運動速度が、極めて正確にわかるのです。また、もう1つの搭載機器であるXtendは、Resolveと比べて160 倍も広い視野を持ち、銀河団のように大きく広がった天体を隅々まで調べます。

XRISMは、打上げ後の約3ヶ月間に機器の立上げや性能確認を行った後、6 ヶ月間の初期科学観測を行います。その期間の観測プランを検討・立案することが、私たちサイエンスチームの役割です。初期観測では、第一級の科学成果をあげることはもちろんのことながら、その後に続く公募観測期への指針を示す必要があります。そのため、銀河団だけでなく、ブラックホールや超新星残骸など様々な天体を観測し、XRISMができることを網羅的に実証しなければなりません。さらに今回は、NASAやESAの天文衛星とXRISMによる同時観測の計画も戦略的に検討しました。これらは決して簡単な作業ではありません。観測装置の特性や問題点をよく理解しながら、最適な観測計画をバランスよく決めなければならないからです。そのために、科学検討メンバーと開発メンバーが頻繁に顔を合わせながら、真剣に検討を行ってきました。こうして選ばれた初期観測天体のリストは、現在ウェブに公開されています。

さて、先ほど「顔を合わせながら」と言いましたが、2020年以降はいわゆるコロナ禍により、対面での会議を開けなくなってしまいました。それまでは半年ごとにメンバー全員が一堂に会して議論を交わしてきましたが、コロナ禍に入ってからはずっとオンライン開催です。この状況は、やはり好ましくありません。会議での議論が終わると「はい、さようなら」となってしまうからです。対面で実施していたころは、休み時間に雑談したり、夜は一緒に飲みに行ったりして、仲間との信頼関係を深めることができました。こうしたエクストラな時間は、大きな国際チームでは特に重要です。今年の冬に、おそらく打上げ前最後となるサイエンス会議を開催する予定です。3年ぶりとなる次こそは、メンバー一同が顔を合わせ、これまでの努力をお互いに労い合いながら、来るべき打上げに向けて一致団結を図りたいところです。

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(Before):サイエンスチームの会議 上/金沢 2018年10月、下/愛媛大学 2019年10月

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(After):オンライン会議 2021年12月 「正直、つらい。早く元の日常が戻りますように...。」

【 ISASニュース 2022年7月号(No.496) 掲載】