XRISMに搭載されるミッション機器の1 つ、XtendはX線望遠鏡(XMA)とCCDカメラ(SXI)から構成される軟X線撮像装置です。軟X線分光を担当するResolveとともにXRISMに搭載されます。Xtendの最大の特徴はその広い撮像視野です。30 mm四方の大面積CCDを「田の字」状に4枚並べることで、満月より広い38分角四方を一度に収めることができます。観測研究において天体の構造から新しい事実が見つかることは少なくありません。例えばResolveが狙った領域の周辺で何が起きているかを知るのに、Xtendの広視野撮像が大きな役割を果たします。

XtendのCCDカメラSXI は、すでに衛星システムへの組み込みを終え、衛星試験を行なっています。開発としてはひと段落といったところですが、そこに至るまでにはチームとして並々ならぬ苦労がありました。ここでは、Xtendのこれまでの開発の経緯を簡単に振り返ってみたいと思います。

Xtendの前身は、ASTRO-H「ひとみ」に搭載されたSXIです。基本設計はこれを踏襲しています。ただしASTRO-Hで明らかになった課題に対処するため、Xtendでは多少の設計変更を行いました。少しでも質の高いデータを手に入れたいというのは研究者の本然の欲求です。しかし、たとえ変更箇所が僅少であったとしても、それがフライト要求を満たすかどうかを確認するには、ほぼ一から性能検証をやり直す必要があります。

XRISM 打上げまでの短いタイムスケールで、メーカーと綿密にやりとりしつつ基礎データを収集し、仕様確定していくスケジュールの過密さが、Xtend開発における第一の山場でした。このような多事多端に対応するために、Xtendチームは全国の研究者や学生が一丸となって取り組みました。北は東北から南は九州まで、実験メンバーが相互に補助しながら試験・解析を進めることで、この過密スケジュールをなんとか乗り切ることができました。

第二の山場は、フライト素子の選定から地上較正までの一連の機能試験でした。X線CCDカメラを駆動するには、熱雑音を低く抑えるために素子をー100℃以下に冷却し、結露を防ぐためカメラ筐体を真空に保つ必要があります。試験は24時間運転で行うため、停電などの不測の事態に備えて常時チームメンバー数名が張り付くことになります。折り悪しくCOVID -19で国内の行動制限が非常に厳しい時期でした。当番を確保するだけでも大変な状況が続きましたが、とにかく動ける人員が最優先で試験に臨むことで、この第二の山場もどうにか乗り越えることができました。

組み上がったフライト品カメラの機械環境試験が第三の山場でした。その間に、これまでチームを率いてくれていた大阪大学の林田 清先生が急逝されるという大変悲しい出来事もありました。しかし、試験自体は不思議なほど問題なく終えることができ、衛星システムへの引き渡しを滞りなく行うに至りました。これまでに築いてきた体制の強固さが功を奏した形です。

ここで強調しておきたいのは、Xtend開発において、大学所属の若手研究者や学生の果たす役割が非常に大きかったということです。CCDのデータ取得から性能評価・検出器較正まで、目に見えにくい地道な作業はたくさんあります。Xtendチームが膨大な仕事を大過なくこなせているのは、彼らの八面六臂の活躍に負うところが大きく、それを通じて技術継承もうまく行え、多くの若手が育ってきたことを実感します。

こうして無事に衛星に組み込めたことで、Xtend開発としてはひと段落です。しかし今後の衛星試験から初期運用までが本当の正念場と言えます。引き続き気を引き締めて試験を行い、XRISMが打ち上がった暁には、天文学に新風を吹き込むような、大きな展望が拓ける( Xtend!)ことを期待しています。

図1

図1:(左)CCD素子をフライト品に組み込む林田清先生。(右)4枚のCCDが並んだフライト品カメラ内部の様子。

図2

図2:つくばで実施した機能試験の様子。手前がフライト品カメラ。

【 ISASニュース 2022年8月号(No.497) 掲載】