XRISM衛星は今、来年度の打上げに向けて着々と準備が進んでいます。これまで準備してきたシステムがいよいよ稼働し、わくわくするサイエンスを楽しむ時も近づいています。ミッションの成功には、こうした手堅い技術開発や先駆的なサイエンスだけでなく、努力を重ねてきた「人」や、国を超えた「人脈」も大切です。今回は、国際的な「人脈」を活用した科学成果創出と、将来に向けた「人」の育成にスポットを当てます。

思い起こせば、2000年にAstro-E衛星を喪失した頃は、「あすか」も運用が終了し、日本に新たな観測データが無い時代でした。そんな中、欧州から、当時、最新鋭のX線衛星XMM-Newtonの観測時間の一部が日本に提供され、感激したのを思い出します。こうした、先人が築き上げた友好的な国際協力の人脈が、次の「すざく」「ひとみ」に受け継がれ、XRISMに繋がります。協力的ながら、同時に、厳しくもあった国際競争の中で、今のXRISM開発メンバーも育て上げてもらったのです。

XRISMが拓く新たな精密X線分光観測の時代は、2030年代のAthenaやSuper-DIOS等の衛星計画へと発展します。また現代の宇宙物理学は、複数の波長の電磁波や粒子、重力波を用いた観測で、相補的かつ多角的に攻める時代です。次世代を担う若手研究者は、こうした国際的なマルチメッセンジャーの時代を生き抜かないといけません。

幸い、XRISMでは日本学術振興会の国際研究交流拠点事業のサポートを得て、今年度から、海外との協力体制を活かした科学成果創出の強化と若手研究者の育成を行う事業を展開しています。本事業は、XRISM研究主宰者(PI)や科学運用チームのリーダーがいる埼玉大学と、米国NASAのゴダード宇宙飛行センター、欧州ESAの欧州宇宙技術研究センターを3つの拠点として結び、それぞれに各国の大学や研究機関を集結させる国際ネットワークを形成します。科学観測に向けた検出器較正の補強、XRISMの精密分光データに耐えるプラズマモデルの強化、多波長の観測者や理論の研究者らとの交流の促進など、盛りだくさんの事業です。もちろん、次の世代の育成を目的に開催する若手研究会や、大学院生を含む若手研究者を海外に長期派遣するプログラムも目玉の1つです。

初年度となる今年度は、2022年10月に埼玉大学にて、若手研究者主体の第1 回XRISM core-to-coreサイエンスワークショップを開催しました。ISASのシンポジウム助成の補助も受けています。コロナの影響で海外からの講師は限定的な参加でしたが、83名の現地参加者に遠隔からの76名が加わって大いに盛り上がりました。また、海外長期派遣プログラムは、漫然と若手を海外に送り出すのではなく、この研究会で互いの講演の質を競わせ、優秀者に海外渡航権を渡す審査会の形式をとりました。どのポスター講演も優劣つけがたい状況でしたが、最優秀賞3名、優秀賞4名が表彰されました。最優秀賞の3名は、それぞれ米国やオランダの研究機関に1 ~ 2 ヶ月間、渡航する予定です。

続く12月には、エポカルつくば国際会議場にて、第5回XRISMサイエンスミーティングに続く形で、XRISM core-to-core多波長ワークショップを開催しました。国内外から98名の現地参加と86名の遠隔参加がありました。開発期からの日米欧の科学者に加え、今回、XRISMゲスト科学者という新たな仲間を迎え、打上げ後の天体観測をより良くする議論を行いました。多波長観測、理論モデルなど、互いの得意分野を持ち寄り、XRISMの初期観測の成果を最大化しようとする意気込みは熱く、新たな精密X線分光時代の幕開けを予感させるものでした。

来年度にXRISMが打ちあがった後も、こうした取り組みを続ける予定です。応援よろしくお願いします。

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写真1: XRISM core-to-core Science Workshop 2022

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写真2: XRISM core-to-core Multiwavelength Workshop 2022

【 ISASニュース 2023年1月号(No.502) 掲載】