今回から、X線分光撮像衛星XRISM(X-ray Imaging and Spectroscopy Mission)の連載コーナーがスタートします。この連載では、XRISMが取り組む研究課題の紹介や展望、機器の開発状況、運用準備などをお届けする予定です。NASAとがっつり組んで取り入れたシステムズエンジニアリング、大学所属の研究者や学生たちの力が発揮されている軟X線撮像装置Xtendの開発、国際共同で開発を進めている軟X線分光装置Resolve、「確実に運用できる」仕組みを目指した運用準備、そして科学成果の創出に向けた取り組みなど、様々な角度からXRISMをご紹介します。
XRISMのミッションは、2016年に運用を停止したX線天文衛星ASTRO-Hが担っていたサイエンスのひとつ、「超高分解能X線分光による宇宙物理の課題の解明」を早期にかつ確実に回復し、世界に届けることです。現在、国内外40を超える大学や研究機関から100名以上の科学者や技術者が参加して、JAXA/NASA/ESA及びメーカーとともに開発や運用準備を進めています。
短命ではありましたがASTRO-Hは、X線マイクロカロリメータによる高精度分光観測の威力を示しました。例えば、銀河団ガスの運動エネルギーや物理状態を正確に知ることを可能にし、銀河団ガスの乱流が予想よりも小さいことや、銀河団ガスの元素組成が、全く異なる環境にある太陽系組成と似ていることも発見しました。打上げ後の初期機能確認フェーズに取得されたデータで、新たな時代の到来を感じた矢先、ASTRO-Hは通信不能に陥り、結局は運用停止となってしまいます。
JAXAは、ASTRO- Hの不具合事象に対して徹底した原因究明を行い、不具合の直接の要因とその背後にある要因を調べ、再発防止のための対策をしました。XRISM計画は、この再発防止策に基づいて計画されたプロジェクトです。
質 量 | 2.3 t |
---|---|
サイズ | 7.9m x 9.2m x 3.1m |
設計寿命 | 3 年 |
軌道高度 | 575 ± 15 km |
軌道周期 | 96 分 |
図1は軌道上の衛星外観、表は衛星の仕様をまとめたものです。ASTRO-Hの開発を通じ、従来の30倍のエネルギー分解能を有する分光装置、焦点距離12mの望遠鏡を保持する構体の熱歪制御などの高度な技術が軌道上実証されています。ASTRO-Hの開発成果を最大限活用し、受け継いだ教訓を確実に実行するという方針で開発と運用準備を進めており、XRISMの基本的なデザインはASTRO-Hのそれを踏襲しています。違うのは、XRISMが、観測エネルギー帯を軟X線に絞り、硬X線帯域は別のミッションに任せた点です。
軌道上でのXRISMは、X線の宇宙天文台です。図2は、X線・可視光・電波で観測した銀河団Abell 1775です。同じ天体を観測しても、波長によってその姿はずいぶんと異なります。その天体や宇宙で起こる現象をより的確に理解するために、様々な波長で観測することが不可欠なのです。これまでの研究から、X線で観測する高温のプラズマは、宇宙におけるエネルギーと物質の流れをトレースし、宇宙におけるあらゆる構造の形成の重要なプローブになっていることがわかってきました。XRISMは、銀河団やブラックホール、超新星爆発・超新星残骸など莫大なエネルギーを伴うダイナミックな現象や巨大な重力が関与する天体を調べます。
【 ISASニュース 2022年5月号(No.494) 掲載】