米国航空宇宙学会(AIAA)が選ぶロケット工学の歴史的論文100編(AIAA Collection: A Century of Rocketry)に、宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所の観測ロケットS-520-31号機 デトネーションエンジン実験の成果論文が選定されました。AIAA Collection: A Century of Rocketryは、世界初の液体燃料ロケット打上げから100周年を記念して、ロケット工学に対する不朽の貢献を称えるものです。
回転デトネーションエンジンは、燃焼反応を格段に速めることができる次世代のロケットエンジンとして世界各国で活発に研究が進められています。しかし従来の回転デトネーションエンジン(注1) 研究は地上燃焼試験に留まり、宇宙機へ適用した際の作動特性が未解明となっていました。なお当時、世界では回転デトネーションエンジンの流体力学的機構解明を目的とした基礎研究が中心であり、そのフライトシステム応用への橋渡しはほとんど行われていない状況でした。
JAXA宇宙科学研究所と名古屋大学、慶應義塾大学、室蘭工業大学による共同研究グループは、観測ロケットS-520型機のペイロードに回転デトネーションエンジンシステムを統合することで、2021年7月27日に宇宙航行環境(注2)での回転デトネーションエンジン作動に世界で初めて成功しました。
(Credit: Nagoya University/JAXA)
観測ロケットS-520-31号機を用いたデトネーションエンジンの世界初の宇宙作動の瞬間
その結果、宇宙航行環境における回転デトネーションエンジンの燃焼効率およびロールトルク(注3)発生量が明らかになりました。
今後は深宇宙探査機や軌道間輸送機、イプシロンロケット上段エンジン等への適用を目指し、JAXA宇宙戦略基金事業・SX研究開発拠点(SX-CRANE)活動として大型専用設備構築、更なる観測ロケット実験のための開発試験、宇宙軌道実証を進めていく計画です。
用語解説
(注1) デトネーションエンジン: デトネーション(爆轟)とは、衝撃波にともなって、化学反応による熱開放が行われる燃焼現象です。その伝播速度は2 km/sにもなるため、燃焼器内の推進剤を高速燃焼させることが可能です。回転デトネーションエンジンでは、デトネーション波面を燃焼器内で連続回転させることで、連続的な推力を得ることができます。パルスデトネーションエンジンでは、デトネーション波面伝搬と燃焼ガス排気を交互に繰り返すことで、間欠的な推力を得ることができます。
(注2) 宇宙航行環境: 宇宙機やロケットが実際に宇宙空間を飛行している環境のことです。地上の試験設備とは異なり、真空に近い状態、無重量に近い状態、飛行中の加速度や振動など、宇宙飛行中ならではの条件が加わります。本実験では、観測ロケットにエンジンシステムを搭載し、実際の飛行中に作動させることで、地上試験だけでは分からない特性を確認しました。
(注3) ロールトルク: ロケットをスピン運動させる力の大きさを表します。回転デトネーションエンジン作動時に、燃焼ガスがエンジン壁面に与える摩擦力で機体がどの程度回転しようとするかを把握することは、宇宙機の姿勢制御や安全な運用を考えるうえで重要です。
論文情報
【ロケットの歴史100編 選定論文】
雑誌名: Journal of Spacecraft and Rockets
論文: Space Flight Demonstration of Rotating Detonation Engine Using Sounding Rocket S-520-31
著者: K. Goto(名大特任助教), K. Matsuoka(名大准教授), K. Matsuyama(名大特任教授), A. Kawasaki(名大助教), H. Watanabe(名大助教), N. Itouyama(名大特任助教), K. Ishihara(名大博士後期課程院生), V. Buyakofu(名大博士前期課程学生), T. Noda(名大博士前期課程学生), J. Kasahara(名大教授), A. Matsuo(慶応大), I. Funaki(JAXA宇宙研), D. Nakata(室蘭工大), M. Uchiumi(室蘭工大), H. Habu(JAXA宇宙研), S. Takeuchi(JAXA宇宙研), S. Arakawa(JAXA宇宙研), J. Masuda(JAXA宇宙研), K. Maehara(JAXA宇宙研), T. Nakao(JAXA宇宙研) and K. Yamada(JAXA宇宙研) (所属・肩書は掲載時)
DOI:10.2514/1.A35401
