第3回宇宙科学研究所賞(2016年度)

第3回宇宙科学研究所賞は以下3名の方々に平成29年1月、2月に授与されました。
JAXA宇宙科学研究所はこのような機構外からの協力・支援に心から感謝するともに、 今後とも外部との連携をより一層重視していく所存です。

木村 勇気

北海道大学 低温科学研究所 准教授

受賞理由

『S-520観測ロケットを用いた微小重力環境下での宇宙ダストの核生成に関する研究』

木村氏は、S-520観測ロケット28号機及び30号機を用いた微小重力実験により、地球を含めた太陽系天体の材料の初期状態を知ることを目的に、オリジナリティの高い搭載機器を自ら開発し、打ち上げ成功の結果、晩期型巨星で生成するダストの核生成過程の一端を解明しました。

鉄は宇宙に豊富に存在していますがその存在形態は分かっていません。

木村氏は、独自に開発し搭載した二波長干渉計を用いて核生成環境の計測することで、鉄の蒸気からダストが生成する過程を模擬して核生成理論と直接比較できる均質核生成実験に成功ました。
これにより均質核生成には非常に高い過飽和(~1200 Kもの超高過冷却)が必要であることを明らかにしました。

また、ダスト形成論や核生成シミュレーションの専門家とのグループを構築し、実験データの解析に取り組むことで、鉄原子同士の核生成時の付着確率は0.001-0.01%程度と非常に低い確率であることを求め、それ以外の大部分は星間空間において他のダスト中に不純物として取り込まれたり、化合物ダストとして凝縮したりすることを示しました。

さらに、独自に開発した『浮遊ダスト赤外線スペクトルその場測定装置』を小型化して搭載することで、天体周辺に浮いているダストの赤外線スペクトルを実験的に直接比較できる手法を確立しました。これにより、恒星風の化学組成や密度、温度環境など、様々な物理・化学パラメータを厳密に決定できるようになると期待されます。

S-520観測ロケット28号機及び30号機の実験成果は、同氏な多大な貢献なしでは出なかったものです。

木村 勇気(きむら ゆうき)
学術振興会海外特別研究員(NASAゴダード宇宙飛行センター)、東北大学地学専攻助教などを経て2014年4月より現職。
透過電子顕微鏡を用いた“その場”観察法を駆使して、ナノ領域特有の物性や特異現象に関する物質科学の研究を背景に、惑星科学や天文学、結晶成長学へと実験的研究を学際的に展開してきた。特に、宇宙に存在するダストと呼ばれるナノ粒子の成因を解明するカギがナノの特異性にあると考え、ナノ領域に特徴的に現れる物性やナノ領域特有の成長様式を惑星科学や天文学の研究に取り入れ、アストロナノミネラロジーとして分野を開拓している。

笠原 禎也

金沢大学 総合メディア基盤センター教授(電波科学)

受賞理由

『磁気圏観測衛星「あけぼの」低周波プラズマ波動観測装置(VLF) データ解析による磁気圏プラズマ波動現象の研究』

笠原氏は、2015年に26年間の運用を終了した衛星「あけぼの」に搭載された、低周波プラズマ波動計測装置(VLF)の運用、データ解析、データベース構築及び科学成果創出に多大な貢献をされてきました。

VLFは、加速されたオーロラ発光粒子に関連したプラズマ波動及び地球磁気圏内で起こる波動とプラズマ粒子との相互作用の研究を目的に搭載された、20KHz以下の電磁界波動観測を行う機器です。

笠原氏は、このVLFの長期間の運用に携わると共に、26年間分のVLFのデータベースを主導し構築しました。

VLFのデータによって多くの研究が行われ、イオンサイクロトロン波動観測による内部磁気圏のイオン組成の研究、ホイッスラー波動の研究、プラズマ圏の広範な電子密度分布及び赤道領域で観測されるELF波動の成因など、地球磁気圏の課題において重要な発見がなされました。

また笠原氏は、衛星「あけぼの」のプラズマ波動観測の経験をもとに、衛星「かぐや」搭載の月レーダサウンダーや水星磁気圏探査機(MMO)搭載のプラズマ波動・電場観測装置でも主力メンバーとして開発に貢献されました。さらに衛星「あらせ」搭載のプラズマ波動・電場観測器の責任者も務め、VLFで推進された波動とプラズマ粒子相互作用に関する研究のさらなる発展が期待されます。

衛星「あけぼの」プロジェクト及び関連分野の科学成果の多くの創出に、同氏は多大な貢献をされました。

笠原 禎也(かさはら よしや)
京都大学工学部助手、同情報学研究科助手、金沢大学工学部助教授、同総合メディア基盤センター助教授を経て、2008年より現職。
「あけぼの」打上げ直後よりVLF観測器によるELF/VLF帯プラズマ波動の研究と、同観測器の運用・データベース化に携わる。
「かぐや」月レーダーサウンダーの波形捕捉器(LRS/WFC)、「MMO」プラズマ波動観測器(PWI)、「あらせ」プラズマ波動・電場観測器(PWE)で、機上処理ソフトの設計・開発を主担当し、2015年より「あらせ」PWEの責任者(PI)を務めている。

Richard L Kelley

Astrophysicist
NASA Goddard Space Flight Center

受賞理由

X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」搭載の軟X線分光検出器(SXS: Soft X-ray Spectrometer)の開発と軌道上運用への多大な貢献

X線マイクロカロリメータの歴史は、1984年のMoseley、 Mather、 McCammonによる発表(MMM論文 J.Appl. Phys.56、1257)に始まります。ケリー博士は、その直後から NASAゴダード宇宙飛行センターにおいて、X線マイクロカロリメータの研究開発を開始しました。以来、これらの検出器の基礎物理及び、ASTRO-H SXSに搭載の半導体型X線マイクロカロリメータなどの装置を先駆けて研究開発する大規模なチームをリードしてきました。

1988年頃には、XQCロケット実験で採用されたバイリニア マイクロカロリメータ アレイを開発し、同時に、この分野で広く用いられる最適なエネルギー分解能を達成するための信号処理アルゴリズム開発にも貢献しました。この検出器素子と信号処理装置はASTRO-E XRSのプロトタイプとなりました。ケリー博士は研究に従事するだけでなく、ASTRO-E2 XRSと ASTRO-H SXSにおいて、多くの日本の科学者と密接な連携をとりながら米国PIとしてこれらのプロジェクトを推進しました。

このように、SXSの優れた性能とその科学的成果は、ケリー博士のライフワークとも言うべき1984年からのX線マイクロカロリメータの研究開発の積み重ね無しには成しえませんでした。このような素晴らしい功績に加え、ケリー博士は1984年のMMM論文以来、SXSの成功に大きく寄与し、多くの米国の研究者を代表する存在としても、称賛を受けるに値します。

SXSは、これまでにないエネルギー分解能で、最高の天体X線スペクトルを観測することに成功しました。この並外れた業績は、X線天文学で探索する新しい世界への扉を開き、次世代の宇宙計測への道のりを築くものです。

Richard L Kelley (リチャード・ケリー)
1977年にラトガーズ大学で学士号を、1982年にマサチューセッツ工科大学にて物理学の博士号を取得。
1983年にゴダード宇宙科学研究所に着任以来、あらゆるX線天文衛星のプロジェクトに携わっている。
1984年からはX線マイクロカロリメータの開発に着手。着実に改良を進め、ASTRO-H("Hitomi")にて100倍以上分解能を向上させたマイクロカロリメータの宇宙実証に成功した。
NASAの"Outstanding Leadership and Exceptional Scientific Achievement"賞を受賞し、アメリカ物理学会の特別会員に選出されている。