第2回宇宙科学研究所賞(2015年度)

第2回宇宙科学研究所賞は以下3名の方々に平成28年1月6日授与されました。
JAXA宇宙科学研究所はこのような機構外からの協力・支援に心から感謝するともに、 今後とも外部との連携をより一層重視していく所存です。

末松 芳法

国立天文台 ひので科学プロジェクト 准教授(太陽物理学)

受賞理由

『太陽観測衛星「ひので」可視光磁場望遠鏡の開発』

末松氏は、太陽観測衛星「ひので」(SOLAR-B)に搭載され、ひのでの学術論文の創出等の成果に大きな貢献をした、日本固有の宇宙望遠鏡技術を持つ50cm可視光磁場望遠鏡(SOT)の開発に関し、高解像度性能を実現する上で鍵となる望遠鏡光学系の開発を主導しました。

「ひので」に搭載した可視光磁場望遠鏡は、空間解像度0.2秒角(太陽面で150km)の安定した性能を実現させています。この性能は、強烈な太陽光を受ける太陽観測用の光学望遠鏡において国外宇宙望遠鏡では実現できていない日本固有の宇宙望遠鏡技術であります。

末松氏は当該望遠鏡の光学設計から、光学系個々の性能評価、地上試験での光学性能検証まで一貫して主導的な役割を果たし、その高解像度性能達成を追求しました。

特にフライト品の地上試験では許容を超えた大きな収差を見抜き、これを補正するためのレンズ系を設計し、回折限界性能を保証する望遠鏡に仕上げました。

さらに、焦点面装置フィルター系の光学性能の評価方法を確立して、日本での最終試験でこの手法を用いて高解像度性能を最終的に確認しました。

「ひので」は打上げ後9年で900編を超える査読学術論文が発表されていますが、その原動力こそ「ひので」可視光磁場望遠鏡が提供した高解像度画像、動画及び高精度磁場データであり、可視光磁場望遠鏡の優れた性能は、国内のみならず、国外でも広く認知されています。

可視光磁場望遠鏡の高解像度性能、即ち「ひので」の成功は、同氏の献身的な多大な貢献なしでは実現し得なかったものです。

末松 芳法(すえまつ よしのり)
滋賀大学教育学部助手、国立天文台太陽物理学研究系助手、助教授を経て、2006年より現職。
「ようこう」打ち上げ後の「ひので」計画の当初より、ひのでプロジェクトに参加。特に、可視光磁場望遠鏡(SOT)の軌道上回折限界性能達成のため、光学設計、光学系製作、光学性能評価試験の主担当として開発・製作に携わる。打ち上げ後より継続して「ひので」衛星運用(2011年よりSOT運用日本側責任者)に参加し、太陽観測ロケット、次期太陽観測衛星の検討に携わっている。

安藤 真

東京工業大学 理事・副学長(研究担当)
大学院理工学研究科教授(電磁波工学)

廣川 二郎

東京工業大学大学院理工学研究科教授(電磁波工学)
宇宙科学研究所宇宙機応用工学研究系客員教授

受賞理由

『金星探査機「あかつき」及び小惑星探査機「はやぶさ2」搭載 超遠距離通信用ハニカム構造ラジアルラインスロットアンテナの開発』

安藤氏、廣川氏は、金星探査機「あかつき」や小惑星探査機「はやぶさ2」の深宇宙探査機に搭載された、超遠距離通信用のハニカム構造ラジアルラインスロットアンテナの開発を主導しました。
ラジアルラインスロットアンテナは1980年に発明され、その後安藤氏、廣川氏お二人によって改良が続けられたアンテナであり、高効率で非常に簡単な構造を持ち、収納体積が大きく複雑な構造を必要とするパラボラアンテナと比較して、平面パネルだけで高利得アンテナが構成できる特長があります。

お二人は、深宇宙探査機搭載のために必要な更なる軽量化のために、スペーサとして誘電体ハニカムコアを採用し、その材料による電波損失やハニカム構造の六角形コア部分の電磁界への影響などを考慮した設計解析などを主導されました。

それにより、従来の「はやぶさ」探査機のパラボラアンテナは、直径1.6m、高さ 0.9m,重量6.8kgでしたが、「はやぶさ2」平面アンテナは直径0.9m,厚み1cm,重量1.2kgとなり、利得は22%低下しましたが、5.6kgの大幅な軽量化を実現し、 探査機の軽量化が必要な「あかつき」及び「はやぶさ2」のミッション成立に多大な貢献をされました。

安藤 真(あんどう まこと)
1979年東京工業大学博士課程修了。日本電信電話公社横須賀電気通信研究所、東京工業大学助手・助教授・教授を経て、2015年4月より現職。
電磁波回折・散乱現象の解析に関する研究に従事。2005年頃から「あかつき」「はやぶさ2」などの衛星搭載用マイクロ波帯・ミリ波帯高効率平面アンテナの研究に従事。

廣川 二郎(ひろかわ じろう)
1990年東京工業大学修士課程修了、1994年論文博士(東京工業大学)東京工業大学助手・助教授を経て、2015年より現職。
導波管型平面アンテナの解析・設計に関する研究に従事。2012年頃から衛星搭載用マイクロ波帯・ミリ波帯高効率平面アンテナの研究に従事。