宇宙航空研究開発機構宇宙科学研究所 主任研究開発員の長谷川直を中心とする国立天文台、東京大学、日本スペースガード協会、神戸大学、マサチューセッツ工科大学、ヨーロッパ南天天文台、カレル大学、コートダジュール天文台、ハワイ大学、アメリカ航空宇宙局、リエージュ大学、マルセイユ天体物理学研究所、ディエゴ・ポルタレス大学、ソウル大学の国際研究チームは、火星と木星の間にある小惑星帯の小惑星596シーラに2010年12月に起こった天体衝突時においてその表層が新鮮な物質に覆われたこと※1を利用し、実時間スケール(約10年間)における宇宙風化作用※2によるスペクトル※3の変化具合を観察しました。その結果、観測の不確かさの範囲内で、観測されたスペクトルは2010年の衝突イベント直後に観測されたスペクトルと一致しました。

このことから、暗い小惑星の表面の色は、約10年にわたる宇宙風化作用によって顕著に変化していないことがわかりました。本研究は、太陽系内の実際の小惑星表面における宇宙風化作用によるスペクトル変化を調べた初めての例です。

本研究成果は、2022年10月27日(木)(日本時間 10月28日)に米国天文学会が発行する学術誌 Astrophysical Journal Letters に掲載されました。

背景

現在では、雨風のない大気のない天体である小惑星の表層はいつも新鮮ではなく、宇宙風化作用によって、その表層の色は変化していることが知られています。但し、その事実がはっきりと確定したのはここ10年程になります。

隕石と小惑星のスペクトルを比較した研究が始まった1970年代ではある謎がありました。地球で最も多く発見されている隕石(発見数の約9割)である普通コンドライトと似たスペクトルを持つ小惑星が小惑星帯には存在しなく、それより赤いスペクトルを持つS型小惑星が存在していたことです。このS型小惑星※4の正体に対して、その当時2つの説がありました。同様なスペクトルを持つ石鉄隕石(但し、隕石の発見数は1 %未満しかない)か、それとも、宇宙風化作用によりスペクトルが変化した普通コンドライトかです。ここで、これを解決した1つの手法が宇宙風化作用を再現した室内実験になります。

国内外の研究者が普通コンドライトに対して、宇宙風化作用を再現した室内実験を行い、そのスペクトルを比較したところ、S型小惑星のスペクトルを見事に再現していました。また、その表層には、宇宙風化作用を受けている月の砂の表層に存在する微小鉄と同等の微小鉄も確認できました。その後「はやぶさ」がS型小惑星イトカワから持ち帰ったサンプルが普通コンドライトであったことから、S型小惑星の起源については決着がつきました。このように、宇宙風化作用を再現した室内実験の成果がその決着に重要な役割を果たしたのは明白です。

室内実験は科学の推進には非常に重要な手法でありますが、こと、宇宙風化作用の実験に対しては、1つ、実際の天体表層上で起こっている現象とは異なる点があります。それは宇宙風化作用が作用する「時間」です。宇宙風化作用によるスペクトルの変化は千年〜数千万年で時間をかけて起こると考えていますが、室内実験では上述の時間で作用する宇宙風化作用を数秒〜数時間でサンプルに及ぼしています。即ち、単位時間あたりに換算して、ざっと10桁より多い宇宙風化作用をサンプルに及ぼしていることになります。但し、これは人間の歴史より長い可能性のある宇宙風化作用を再現するには仕方がないことになります。

しかしながら、もし、小惑星の表層に新鮮な表層があったのであるならば、話は別になります。

研究成果

2010年12月、T型小惑星※4596シーラに数十mの小惑星の衝突が起こり、表層が一新されました。近赤外域(0.8-2.5ミクロン)のスペクトルの傾きは衝突後に更に赤く変動し、その表層が新鮮になったと考えられています※1。即ち、596の表層で宇宙風化作用が進むとスペクトルは青くなるということが判明しました。596のような暗い小惑星を起源にしている始原的な隕石に対する宇宙風化作用の実験を行った室内実験の結果も同様な結果を得ており、両者の宇宙風化作用に対するスペクトル変化の傾向は一致しています。

さて、今年(2022年)はこの衝突現象が起きてから約10年過ぎたことになります。つまり、596シーラ表層は2010年12月に新鮮になってから、約10年間、宇宙風化作用に晒されたことになります。つまりこの約10年間で、宇宙風化作用で、どのようにスペクトルが変化するかを観察できる絶好の機会になります。

そこで、我々はアメリカ航空宇宙局(NASA)赤外線望遠鏡施設(IRTF)の3.0m望遠鏡と国立天文台石垣島天文台の1.05mむりかぶし望遠鏡で、それぞれ近赤外域と可視光域のスペクトルを取得し、596の宇宙風化作用によるスペクトルの変化を調べました。

可視光域の波長では衝突前後でスペクトルの形の変化はありませんでしたが、衝突後10年経った今回も同様にスペクトルの変化はありませんでした(図1)。近赤外域の波長でも、10年前のスペクトルと比較して、変化はありませんでした(図1)。即ち、596のようなスペクトルを持つ暗い小惑星では10年では宇宙風化作用によって、スペクトルは変化しないことがわかりました。

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図1 衝突前後で 596シーラのスペクトルの変化を示した図。
横軸が波長、縦軸が波長0.55ミクロン規格化した反射率の強度になります。波長が長くなるにつれ、強度が上がると、「赤く」なると言います。逆に波長が長くなるにつれ、強度が下がると、「青く」なると言います(Hasegawa et al. 2022bより改変)。緑データは衝突前に得られた(長い年月宇宙風化作用を受けた表面の)データ、赤データは衝突直後に得られた(新鮮な表面の)データ、黒データは衝突後約10年後に得られた(約10年間宇宙風化作用を受けた表面の)データ。図の右側の矢印は観測誤差範囲を示している。

本研究の科学的意義

今回、約10年間の宇宙風化作用に晒されてもスペクトルが変化しなかったことは、過去に行われた室内実験の予測の範囲ではありました。しかしながら、約10年間の時間スケールで宇宙風化によるスペクトル変化がないことを、実際の小惑星を対象に、曝露時間が正確にわかる条件下で観測的に確認したのは、今回が初めてのことになります。また今回の観測結果は室内実験の正当性(少なくとも10年程度の時間スケールでは)も示しています。

次にスペクトルの変化が時間に対して線形的かもしくは対数的に起こるのかを調べました。調べた結果、宇宙風化作用におけるスペクトルの変化は線形的起こることがわかりました(図2)。ある単位面積を考えた場合、宇宙風化作用によってスペクトル変化する領域が宇宙風化作用を受けていない領域を覆い尽くさない場合は線形的に変化することが予測されますが、これを証明したことになります。

また、図2から判断するに、千年程度では宇宙風化作用によるスペクトルの変化は顕著に起こらないことがわかりました。このことは、もし、表層年代が千年の程度の596のようなスペクトルを持つ暗い小惑星があるとわかった場合にはその表層はあまり宇宙風化が受けていないということにも使えることになります。同様な手法を用いて、例えば、D型小惑星よりも赤い天体※5のスペクトル変化は数百年では変化しないことも本研究でわかりました。

最近(2022年9月26日)にNASAは小惑星65803ジジモスの衛星ジモルフォスに探査機DARTを衝突させる実験を行いました。その表層から大量のイジェクタが飛び出したことが探査機や望遠鏡の観察でわかっています。即ち、少なくとも、ジモルフォス表層は596シーラと同様にリフレッシュされたことがわかります。欧州宇宙機関はこの小惑星とその衛星を観察するために、Hera※6という探査機を2026年にはランデブーさせる予定で、Heraにははやぶさ2で搭載された熱カメラの姉妹機も搭載される予定です。ジジモスとジモルフォスはS型小惑星で今回の研究で観察された596とはスペクトルもアルベドも異なりますが、室内実験では数千年程度の宇宙風化作用ではスペクトルは変化しないであろうことがわかっています。今回の成果から組み合わせると、少なくともジモルフォス表層はHera探査機到着後も新鮮な表層を観測できることが期待されます。

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図2  596シーラのスペクトルの傾きと宇宙風化年代を示した図。
横軸が宇宙風化年代、縦軸がスペクトルの傾きになります。緑データは衝突前に得られた(長い年月宇宙風化作用を受けた表面の)データ、赤データは衝突直後に得られた(新鮮な表面の)データ、黒データは衝突後約10年後に得られた(約10年間宇宙風化作用を受けた表面の)データ。衝突前の宇宙風化作用年代はメインベルト小惑星の衝突確率と2010年に596に衝突した小惑星のサイズ(数十m)のメインベルトでの個数と596シーラの断面積から導出されました。青線が線形的変化をたどった場合の線、橙線は対数的変化をたどった場合の線を示している(Hasegawa et al. 2022bより改変)。

用語解説

※1 新鮮な表層を持つ天体
https://www.isas.jaxa.jp/topics/002901.htmlをご覧ください。

※2 宇宙風化作用
太陽風や微小隕石の衝突の影響で表面物質の見た目(色や明るさ)が変化することを宇宙風化と呼んでいます。
https://www.isas.jaxa.jp/j/snews/2006/0907.shtmlをご覧ください。

※3 スペクトル
スペクトルとは「虹」のように光をそれぞれの波長成分に分けたものを指します。分光とはスペクトルを得るために「虹」のように光を波長に対して分割することを言います。
赤いスペクトルを持つということは、光の波長が長くなるにつれ、その反射率が上がっていくスペクトルを指します。反対に反射率が下がる場合は青いスペクトルを持つと言われます。

※4 S型小惑星、T型小惑星、D型小惑星
https://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20161125/ をご参照ください。

※5 D型小惑星よりも赤い天体
https://www.isas.jaxa.jp/topics/002673.htmlをご覧ください。

※6 二重小惑星探査計画 Hera
https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/developing/hera.htmlをご覧ください。

論文情報

原題:Spectral evolution of dark asteroid surfaces induced by space weathering over a decade
雑誌名:Astrophysical Journal Letters
出版日:2022年10月27日
DOI:
10.3847/2041-8213/ac92e4

主著者名・所属:長谷川直 JAXA宇宙科学研究所
共著者・所属:
Francesca E. DeMeo マサチューセッツ工科大学
Michaël Marsset ヨーロッパ南天天文台
Josef Hanuš カレル大学
Chrysa Avdellidou コートダジュール天文台
Marco Delbo コートダジュール天文台
Schelte J. Bus ハワイ大学
花山秀和 国立天文台
堀内貴史 東京大学
Driss Takir アメリカ航空宇宙局
Emmanuel Jehin リエージュ大学
Marin Ferrais マルセイユ天体物理学研究所
Jooyeon Geem ソウル大学
Myungshin Im ソウル大学
Jinguk Seo ソウル大学
Yoonsoo P. Bach ソウル大学
Sunho Jin ソウル大学
石黒正晃 ソウル大学
黒田大介 日本スペースガード協会
Richard P. Binzel マサチューセッツ工科大学
中村昭子 神戸大学
Bin Yang ディエゴ・ポルタレス大学
Pierre Vernazza マルセイユ天体物理学研究所