「実ミッションで失敗になる現象の再現が、この実験における成功なんですね」、実験機放球前にいただいたこの言葉は、RERAプロジェクトの本質を端的に表していました。アイヌの言葉で「風」を表すRERA(レラ)は、Rubber balloon Experimentfor Reentry capsule with Aeroshell(ゴム気球を用いた大気突入カプセルの自由飛行実験)のアクロニムです。JAXA気球実験機会を利用して、新しい大気突入技術である深宇宙サンプルリターンカプセルの姿勢不安定挙動を実際に近い環境で再現し、不安定のメカニズム解明、さらにはその低減化を目指します。実ミッションの大気突入においてカプセルが姿勢不安定に陥ることは、減速性能の逸脱や機体破損、パラシュート開傘不良などの深刻な状況を招きかねないため、避ける必要があります。これを実験時にあえて再現することで、姿勢不安定とは何か?に対する答えを探求します。

姿勢不安定現象とその危険性

近年はロケットを用いた宇宙輸送手段の確立が大いに進んでいます。一方でもうひとつの宇宙輸送、宇宙から地上に帰ってくる大気突入過程では、大気突入カプセルが主役です。たとえば「はやぶさサンプルリターンカプセル」はその代表例でしょう。宇宙機が安全に地上に帰還するためには、地球低軌道であれば7.8km/sの軌道速度を、何らかの方法で減じなければなりません。しかし、多くの大気突入カプセルは、自動車の車輪ブレーキのような減速手段をもちません。代わりに惑星大気の空気抵抗を用いた空力減速が主要な手段となります。そして空力減速を適切に行い、地表に無事にたどり着くのには、カプセルの姿勢安定性の確保がとても重要になります。

このような地に足がついていないカプセルにとって、姿勢安定の鍵は空気力です。しかし、これは案外むずかしいのです。図1に深宇宙サンプルリターンカプセルに働く空気力と機体運動の様子を示しています。姿勢安定には静的・動的の2種類あり、静的姿勢安定は重心位置調整によって比較的容易に確保できる一方、動的姿勢は機体姿勢運動と機体背後に回り込んだ気流が背面に衝突する時間差(位相遅れ)によって不安定化することがあり、残念ながらまだ十分な現象解明や低減に至っていません。

図1

図1:深宇宙サンプルリターンカプセルにおける動的な姿勢不安定の概略図

大気突入においてカプセル近傍の流れ場は、極超音速から亜音速、層流から乱流、希薄気体から連続流と、大きく変わっていきます。このような多様な速度域のすべてにおいて、予期した姿勢を空気力によって確保する必要があります。たびたび問題になるのは遷音速から亜音速にかけてです。カプセル近傍の流れ場からエネルギーを受けとるかたちで、カプセル姿勢運動が成長し続けることがあります。これを適切に制御できなかった場合、飛行中に姿勢発散し、回転し続けるような事態に陥ることがあります。実際に米国Genesisカプセルでも深刻な姿勢不安定が生じました。このような課題に対し、大気突入ミッションを行う前に、実際に近い環境を再現して、姿勢安定の設計解を見出す入念な準備が肝要です。

不安定を理解するために不安定を再現する

姿勢安定や空力特性の研究では、従来から風洞実験と数値解析が主なアプローチとして利用されてきました。しかし、これらの方法だけでは、実際の飛行環境を完全に再現することは困難です。風洞実験は、模型を固定したり、特定の運動しか再現できなかったりするため、実際の飛行で起こりうるすべての現象を捉えることができません。また、風洞模型を支える支持部が、風洞気流に影響を与えてしまうこともあります。コンピューターを使った数値解析も現在は強力なツールですが、正確にシミュレーションするには、膨大な計算資源と緻密なモデリングが必須です。それはカプセル近傍の高速な非定常流れと、比較的ゆっくりした機体運動が共存することに由来します。また、解析モデルが正しいかどうかを検証するためにも実測データが不可欠です。

そこで重要になるのが、「実際の飛行環境を再現した実験を行う」ことです。これによって、風洞実験や数値解析では見過ごされがちな現象を直接観測し、データの信頼性を高めることができます。しかし、本物のカプセルを飛ばすことは、コストや準備期間の面で非常にハードルが高いのが現状でした。

小型成層圏気球投下による自由飛行環境

RERAプロジェクトはこのような背景に基づくものです。RERAでは、先に紹介した深宇宙サンプルリターンカプセルを対象とし、小型成層圏気球を用いることで実験のコンパクト化、すなわち低コスト性、迅速性、即応性を実現しました。この低コスト性は、バッテリーや電子回路、計測系などの実験機共通部をモジュール化し、開発要素を最小限に抑えたことにも起因します。さらに、実験場の北海道大樹町に入ってから一週間程度で放球、データ取得、撤収を行うといった迅速性にも繋がりました。これは小規模で目的を絞ったことにより実施機会の頻度が上がった帰結でもあります。一方で、軽量であることから自由飛行時の速度域は亜音速(低速領域)に限られます。ただ、パラシュートを使用しない今回のような大気突入機において、低速はむしろ未開拓の領域でした。

RERAは、JAXA気球実験機会を利用して2022年度から始め、現在まで学生が主体的に進めています。この実験概要を図2に示しています。北海道の大樹航空宇宙実験場にて早朝に放球を行います。実験は高層風に加えて、天候にも左右されます。大樹町の朝は、晴天の日もあれば、雲の散乱によって淡い光に包まれる日もあります。RERA-1では薄明の青い背景のもと放球されました。放球自体は静かに終わります。そのあと実験機は成層圏に向け上昇し、我々は地上でダウンリンクデータを確認しながら待機します。高度25kmにてカプセルを切り離し、自由飛行を開始します。加速度、温度や姿勢、画像データなどを見ながら、実験機がどのような状況か把握していきます。基本的に見ている以上のことはできず、この孤立系が宇宙ミッションらしさを感じさせるものです。

図2

図2:RERA-1実験概要

カプセル姿勢不安定化への軌跡

RERAでは、2022年から2025年までに、6機(RERA-1、RERA-2、RERA-3、RERA-4、RERA-5、RERA-MAW-1)の放球を実施しました。この中で、研究目的である姿勢不安定を再現する、という点で、RERA-1からRERA-4までは期待を外してしまったと言えるでしょう。RERA-1では、風洞実験において、静的には安定だが動的には不安定、と予測した質量特性の実験機を用意しました。ところが、実際に自由飛行実験を行うと、実験機は安定して飛行してしまったのです。すなわち姿勢運動を復元する効果が強く現れたことを示しています。この結果は、風洞実験が実際の飛行環境を完全には再現できていないことを示唆しており、改めて自由飛行実験の重要性を痛感しました。

翌年以降のRERA-2、RERA-3、RERA-4では、姿勢不安定化を起こしやすい質量特性の調整を重ねました。しかし、それでも実験機は安定したままです。これではミッションの目的である姿勢不安定化を再現することができません。「静的に安定な範囲では、動的にも安定なのだろうか?」と筆者は内々に不安を抱えながらRERA-5実験提案書を書いたのを覚えています。並行して、JAXA落下棟で短時間飛行試験を行うなど、様々な知見を統合しました。

RERA-5は、実際のカプセルと比べて背面の円筒部が長く、まるで椎茸のような形をしています。これでダメなら後がない、という思いを抱えつつ実験に臨んだところ、自由飛行中に姿勢振動が成長し、ついには実験機がひっくり返る様子が観測されました。図3がRERA-5の姿勢運動を表す履歴です。比較としてRERA-1結果[1]も載せています。RERA-5において機体角速度が増加し、ついに発散する様子が確認できます。実際の大気突入としては失敗となる挙動ですが、研究目的としては成功として再現することができました。もちろんRERA- 4までの飛行データが無駄になるわけではありません。姿勢安定・不安定データいずれも分析することによって、姿勢挙動の理解の深化に繋がります。さらに、カプセルとして姿勢安定は必須であり、それを確保するための信頼できる設計パラメータを得られたことになります。

図3a

図3b

図3:自由飛行中におけるRERA- 5とRERA-1の角速度履歴の比較(preliminary data)。なお、RERA- 5のような姿勢挙動でも軌道予測内を飛行した。

学生のための実飛行実験教育プログラム

RERAは、研究成果だけでなく、若手研究者の育成という面で教育的効果の創出も意図しています。図4に示すように、この実験の中心メンバーは学生や若手研究者で、飛翔機会を多く獲得することによってメンバーが短期間で飛翔試験を経験できます。実験終了後の研究室学生の様子を見るとたしかに一定の良い影響がもたらされているようで、頼もしく感じることもあります。

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図4:大樹航空宇宙実験場にてRERA-1実験チーム

翻って、筆者の大学院生時代を思い出すと、シミュレーションのためのプログラミングに没頭しており、それはとても楽しい時期でありましたが、実際の飛行実験やハードウェア開発にはあまり関わってきませんでした。だからこそ、いまの学生には実際に飛ぶものを体験し、何かしら作り出してほしいとも考えています。現在は徒弟制度のような研究室はほぼなくなっていますが、青は藍より出でて・・が示すように、学生が教員を越えていくことは大きな喜びであり、この取り組みを継続する糧にもなります。

現行の多くの大学のカリキュラムでは、実際のフライト実験を経験する機会はなかなか得られないのではないでしょうか。しかし、宇宙工学の分野で活躍するためには、座学や解析、シミュレーションだけでは不十分です。複雑なシステム全体を見通し、現場で発生する様々な問題に対応できるシステム工学人材の養成が不可欠です。

RERAでは、複数の大学や研究機関から学生が集まり、計画立案、実験機組み立て、飛行実験、データ解析のすべてを数か月で体験できます。こうした経験は、将来の宇宙開発を担う人材にとって大きな財産となると信じています。これは、研究を進めるプラットフォームであると同時に、若手研究者が実機開発の醍醐味と難しさを肌で感じ、成長するための教育プログラムでもあります。

次のステップ:剛体構造と柔軟構造の共通項・相違項とは?

大気突入カプセルの姿勢不安定は、いまなお主要な課題として研究が続けられています。今回は我々の研究グループが取り組んでいる、ゴム気球投下による自由飛行実験について紹介しました。今回の新しい形状のカプセルについては姿勢不安定も再現できたので、ゴム気球実験として一区切りしたと感じています。一方、このカプセルは空気力による形状変形が生じない剛体でしたが、形状変形してしまう柔軟構造大気突入機でも姿勢不安定は大きな課題です。いま我々は、姿勢挙動において剛体と柔軟構造カプセルの共通点・相違点とはなにか?について気球実験を遂行しています。2025年7月に柔軟機を対象としたRERA-MAW-1の放球も実施しました。やはり安定飛行しましたが、また継続して姿勢不安定やその低減方針を探求していきます。

謝辞

RERA実施にあたり、JAXA大気球実験グループメンバーの皆様に、計画から実験機開発、フライト実験に至るまで、多大なご協力やご支援を継続していただきました。深く感謝申し上げます。

文献
[1] Takasawa, et al., "Balloon Flight Demonstration for Deep Space Sample Return Capsule with Thin Aeroshell", Journal of Spacecraft and Rockets, 2025.
https://doi.org/10.2514/1.A35787

【 ISASニュース 2025年11月号(No.536) 掲載】