欧州宇宙機関(ESA)が主導し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が開発した熱赤外カメラ(TIRI)を搭載する二重小惑星探査計画Hera探査機は、2024年10月7日(JST)にSpace X社のFalcon 9によって打ち上げられました1。打ち上げ直後には地球・月系の観測2、2025年3月には火星スイングバイと火星・衛星Deimosの観測3を実施し、DidymosとDimorphosの二重小惑星系へ向けた航行を行ってきました。Hera探査機は2026年10月から減速運用(Braking maneuver)を行い、11月4日(JST)に二重小惑星系に到着しました4。Hera探査機の今後の観測・運用計画は、こちらの記事5を参照ください。
図1に、2026年10月31日20:19:52 (JST)に二重小惑星系から距離57kmにおいてTIRIによって撮像された小惑星Didymosと衛星Dimorphosを示します。TIRIは、波長8-14ミクロンの熱赤外線を観測するため、天体表面の温度に応じて画像の輝度値(DN値)が変化します。この結果を、地上での校正試験から得られた変換式を用いることで、輝度値(DN値)を温度に変換することができます。このときの二重小惑星系の太陽からの距離は約1.2 au (au:天文単位=太陽と地球の平均距離で約1.5億km)で、小惑星Didymosの表面の温度は、現在解析中です。
この温度の時系列変化から、天体表面の熱慣性(※温まりやすさ・冷めやすさを表す指標)を推定することができ、更に熱慣性から天体表面の物理状態(砂か岩塊か)や空隙率を推定することができます。図1では衛星Dimorphosの表面の温度は相対的に低く見えますが、一部が小惑星Didymosの日陰に入っているためです。
ほぼ同じジオメトリ(探査機、太陽、小惑星Didymos、衛星Dimorphosの位置関係)である、二重小惑星系から距離60 kmにおいて可視カメラ (AFC)によって撮像された二重小惑星系を図2に示します6。この時の太陽位相角(太陽―小惑星―探査機のなす角)は約45°であるため、小惑星の太陽側の表面だけが観測できていることがわかります。衛星Dimorphosは三日月のように細く見えます。一方、TIRIは太陽が当たっていない夜の側の小惑星表面の様子を観測することができます。
図1:2026年10月31日20:19:52(JST)にTIRIが撮像した小惑星Didymosと衛星Dimorphos。(上)DN値、(下)温度変換画像。(c) ESA/JAXA
図2:二重小惑星系から距離60 kmでAFCが撮像した二重小惑星系の様子。(c) ESA
元画像:https://www.esa.int/articles/about-us/directorates/operations/space-safety/hera/hera-s-first-close-up-view-of-didymos-asteroids
図3には、TIRIが撮像した二重小惑星系の運動の様子を示します。この時の太陽位相角は約45°であり、可視カメラでは半月のように観測されています。一方、TIRIは日陰でも熱赤外線として検知できるため、全球の形状を把握することが可能です。動画では、DimorphosがDidymosの陰に入った瞬間、Dimorphosの温度が低下する様子がわかります。これは、可視カメラでは観測することができない様子であり、Dimorphos の物性推定において重要な観測に成功しました。
図3:2026年10月28日19:20:27~29日00:29:01(JST)にTIRIが撮像した二重小惑星系の運動の様子。(上)TIRIの全画面、(下)上図の切り出し画像。DimorphosがDidymosの日陰に入る際の輝度値の低下を強調するため、3×3ビニング処理を実施。(c) ESA/JAXA
(宇宙科学研究所太陽系科学研究系 准教授 /
Hera(二重小惑星探査計画)所内プロジェクトチーム長 岡田 達明 コメント)
「はやぶさ2」中間赤外カメラTIRでのリュウグウやトリフネの熱撮像に続いて、2020年からHera用に開発してきた熱赤外カメラTIRIで再び小惑星の観測がついに始まることに感激するとともに、ご協力やご支援を頂いた全ての方に感謝を表したいです。初の二重小惑星系のランデブ探査をTIRIと他の観測機器を総合して進めてゆきますが、プラネタリーディフェンスと惑星科学の両面をもつHeraの今後の成果に、乞うご期待!
(宇宙科学研究所太陽系科学研究系 特任助教 /
Hera(二重小惑星探査計画)所内プロジェクトチーム員 坂谷 尚哉 コメント)
Heraはこのあと、Didymos から距離 20 - 30 km まで接近し、詳細な観測を開始します。Dimorphos への DART 探査機衝突後の様子や Didymos への影響など科学的な観点に加えて、人類初の Planetary Defense への挑戦が始まります。どんな未来を造り出せるのか、今からワクワクします。
(宇宙科学研究所はやぶさ2拡張ミッションチーム長 三桝 裕也 コメント)
小惑星への到着おめでとうございます。主星Didymosの周りにDimorphosが回っている姿を実際に目にすると、心躍らさずにはいられないですね。
Dimorphosの近傍まで近付いて観測したり、一緒にまわりながらDidymosを観測したり、時にはDimorphosの軌道より内側まで行ってDydimosを観測してみたり!?難しそうだけど面白そうな様々な運用が頭に浮かんで、羨ましい気持ちでいっぱいになりました。どうか、これからのミッション期間を楽しんで下さい。また、Heraがこれから実施するミッションによって、科学だけでなく、プラネタリーディフェンスの分野にも多くの知見をもたらしてくれることを楽しみにしております。
参考
1. https://www.isas.jaxa.jp/topics/003853.html
2. https://www.isas.jaxa.jp/topics/003865.html
3. https://www.isas.jaxa.jp/topics/003967.html
4. https://x.com/deepbluedot/status/2118114691541315855
5. https://hera.isas.jaxa.jp/wp-hera/4802/
6. https://www.esa.int/articles/about-us/directorates/operations/space-safety/hera/hera-s-first-close-up-view-of-didymos-asteroids


