宇宙航空研究開発機構(JAXA)、理化学研究所(理研)、國立彰化師範大學、東京大学宇宙線研究所、広島大学、情報通信研究機構(NICT)、アメリカ航空宇宙局(NASA)の国際共同研究グループは、高速で自転する中性子星[1]「かにパルサー」で発生する「巨大電波パルス(GRP)[2] 」に同期して増光するX線を検出しました。

本研究成果は、過去20年にわたり複数のグループが挑戦してもなしえなかったものであり、宇宙遠方で発生する高速電波バースト(FRB)[3]の起源や発生メカニズムの解明にも貢献すると期待できます。

かにパルサーは、時折劇的に明るくなるGRPを発生します。このようなパルスの増光は電波でしか起こらないと考えられてきました。しかし近年、GRPに同期して可視光パルスがわずかに増光する現象が発見されたことから、よりエネルギーの高いX線やガンマ線でも同様の現象が起こるのかどうかに大きな関心が寄せられていました。

今回、国際共同研究グループは、国際宇宙ステーションに搭載されたアメリカ航空宇宙局のX線望遠鏡NICER[4] (ナイサー)と日本の二つの電波望遠鏡を連携させ、2017年からX線と電波の同時観測を続けた結果、GRPが発生する瞬間にX線パルスも4%ほど増光することを突き止めました。これにより、GRPがこれまで考えられていたよりもはるかに大きなエネルギーを解放することが分かりました。

本研究は、科学雑誌『Science』(4月9日号)の掲載に先立ち、オンライン版(4月8日付:日本時間4月9日)に掲載されました。

「かにパルサー」の巨大電波パルスに同期したX線増光の発見

「かにパルサー」の巨大電波パルスに同期したX線増光の発見(credit:ひっぐすたん)

1.背景

大質量の恒星がその一生を終えて超新星爆発[5]を起こすと、ブラックホールや中性子星が残されます。中性子星には、太陽質量の1.4倍もの物質が半径10kmほどの中に押し込められ、角砂糖1個の体積(1cm3)で1億トンにも達する超高密度状態となっています。中性子星の外側には強い磁場とプラズマに満たされた磁気圏があり、そこから電波やX線を放射しながら磁気圏とともに、1回転あたり数ミリ秒から数十秒という高速で自転しています。そのため、中性子星からの放射が地球を向いているときに、自転に伴う周期的なパルスが観測されます。このようなパルスを発生する中性子星は「パルサー」ともいい、"宇宙の灯台"と呼ばれることもあります。

おうし座の方向、地球から約6500光年の彼方で美しく輝く「かに星雲」は1054年に起きた超新星爆発の名残であり、この爆発は藤原定家の『明月記』にも記されています。星雲の中心には「かにパルサー」が存在しており、1968年に発見されて以来、電波、可視光、X線、ガンマ線といった電磁波のほぼ全波長で観測が行われてきました(図1)。

かに星雲とかにパルサーの多波長合成イメージ(提供:NASA)

図1 かに星雲とかにパルサーの多波長合成イメージ(提供:NASA)
かに星雲とかにパルサーの写真。X線観測衛星チャンドラが観測したX線(青)、ハッブル宇宙望遠鏡が観測した可視光(赤と黄色)、スピッツァー宇宙望遠鏡が観測した赤外線(紫)が合成されている。X線で明るい中心の点源がかにパルサーで、そこから周辺に高エネルギーのプラズマが吹き出している。

しかし、かにパルサーの放射のメカニズムはいまだによく分かっておらず、周期的な電波パルスが散発的に通常より10〜1000倍ほども明るくなる「巨大電波パルス(GRP)」も謎の一つです。ボース=アインシュタインの理論によると、電波の強度を上げるには放射源の実効的な温度を高くする必要があります。GRPの電波の強度を温度に換算すると1037K以上になることもあり、現代物理が扱える温度の上限(プランク温度1032K)を超えることから、通常の放射メカニズムでは説明できません。

地球のある銀河系には2,800個ほどのパルサーが見つかっていますが、そのうちGRPを発生するのは十数個だけです。これまで、GRPのようなパルスの増光現象は電波でしか発生しないと考えられてきました。しかし2003年、高速度カメラを使うことでGRPに同期して可視光のパルスが数%だけ明るくなる現象が発見され、天文学者を驚かせました注1)。というのも、その発見以前はパルサーにおける電波とそれ以外の波長(可視光、X線、ガンマ線)の放射メカニズムは異なると考えられていたからです。そのため、よりエネルギーの大きいX線やガンマ線でも同様の増光が見つかるのかどうかに、大きな関心が寄せられていました。しかし過去20年間、複数のグループが大規模な観測プロジェクトを実施しても、X線やガンマ線での増光は確認できませんでした。

注1) Shearer et al . Enhanced optical emission during Crab giant radio pulses. Science, 301(5632):493-5.(2003)

2.研究手法と成果

GRPに同期したX線やガンマ線を探索する上で最も難しい点は、これまでの望遠鏡では十分な数のX線光子やガンマ線光子を集められないことでした。中性子星内部の高密度な物質の状態を解明することを目的に、2017年に国際宇宙ステーションに設置されたアメリカ航空宇宙局(NASA)の新世代X線望遠鏡NICER(ナイサー)は、中性子星の観測に最適化されたエネルギー領域でかつてないX線の集光能力を誇り、高い時間分解能と、明るい天体でも検出器が飽和することなく測定可能という、GRPの探索に有利な性能を持ち合わせています(図2)。

図2 国際宇宙ステーションに搭載されているX線望遠鏡NICERの写真(提供:NASA)

図2 国際宇宙ステーションに搭載されているX線望遠鏡NICERの写真(提供:NASA)

国際共同研究グループは、2017年から2年ほどの間、X線望遠鏡ナイサーと日本の二つの電波望遠鏡(後述する)を連携させ、合計15回に上るX線と電波の国際的な同時観測を実施し、これまでで最大となる量のX線と電波の同時・多波長データを蓄積しました。解析の結果、GRPに同期してX線パルスが4%ほど増光していることが明らかになりました(図3)。

図3 かにパルサーのパルス波形と検出されたX線増光

図3 かにパルサーのパルス波形と検出されたX線増光
上図: X線望遠鏡ナイサーが観測したかにパルサーのX線パルス波形(黒線)を2周期にわたって示した。同時観測で検出した巨大電波パルス(GRP)発生のタイミングを青線で示している。1周期の中で、パルスにはメインパルス(パルス位相が0付近)と、インターパルス(パルス位相が0.4付近)の二つがある。
下図: 上図のメインパルス付近の拡大図。黒線は通常時のX線波形で、赤線はGRPが起きたときのパルス。GRPが起きたときに、わずかだが明るくなっていることが分かる。

今回のX線増幅率は可視光と同じくわずかだったものの、過去に行われたX線やガンマ線での観測よりも高い感度を持つナイサーを用いることで、初めて検出に成功しました(図4)。

図3 かにパルサーのパルス波形と検出されたX線増光

図4 巨大電波パルス(GRP)に同期した可視光とX線、ガンマ線の増幅率
電波帯域でのGRPの増幅率は左上のピンク線で示す。WHTとHaleは可視光、ナイサー、Chandra、Hitomi、SuzakuはX線、それ以外はガンマ線による観測結果である。可視光とナイサーの値は実際の検出値を、それ以外は上限値を示す。なお、上部四角中のphaseはパルス位相を表す。

X線での増光は4%と小さくても、X線は電波よりもはるかに大きなエネルギーを解放していることから、GRPの発生時に放出されるエネルギー量はこれまで考えられていたよりも数百倍以上大きいことが分かりました。現在、GRPの放射メカニズムとして、パルサー磁気圏における高速プラズマの激しい噴出などを起源とする理論モデルがありますが、今後はX線の増光を説明できるようにする必要があります。今回の発見は、プラズマ噴出・電波放射に伴う、パルサーでの高エネルギー粒子生成などについても新たな知見を与えます。

なお、本研究で使用した電波望遠鏡は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)が運用する臼田宇宙空間観測所(長野県佐久市)の64m電波望遠鏡(64mパラボラアンテナ)と、情報通信研究機構(NICT)が運用する鹿島宇宙技術センター(茨城県鹿嶋市)の鹿島34m電波望遠鏡(34mパラボラアンテナ)の二つです(図5-6)。二つの電波望遠鏡でのデータ取得には、JAXAとNICTが共同で開発した「広帯域デジタル信号記録装置」を活用し、高精度なデータ受信を実現しました。


臼田64m電波望遠鏡は、宇宙探査機の運用支援の中核としても使用されており、この記録装置は小惑星探査機「はやぶさ2」の軌道決定にも使用されています。また、鹿島34m電波望遠鏡は、電波天文学にとって重要な観測装置として使用されてきましたが、2019年の台風15号により甚大な被害を受け、運用を終了しました。そのため本研究は、鹿島34m電波望遠鏡が最後に残した貴重な成果の一つとなりました。

図5 鹿島の34m電波望遠鏡(左、提供:NICT)と臼田の64m電波望遠鏡(右、提供:JAXA)

図5 鹿島の34m電波望遠鏡(左、提供:NICT)と臼田の64m電波望遠鏡(提供:JAXA)

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図6 X線望遠鏡ナイサーと鹿島および臼田の電波望遠鏡の同時観測の様子(credit:ひっぐすたん)

3.今後の期待

今回の発見は、宇宙遠方で発生している謎の高速電波バースト(FRB)の解明にも重要な知見となります。高速電波バーストは、天文学の歴史で久々に発見された新種の天体現象で、ここ数年における天文学の最も注目度の高いテーマの一つです。GRPはFRBと似た現象であることから、FRBを説明する理論モデルの一つだと考えられてきました。しかし今回、GRPがこれまで考えられていたよりも莫大なエネルギーをX線で放出することが明らかになったため、単純なGRPのモデルではFRBの説明は難しいことが分かりました。

一方、中性子星の一種で、宇宙で最も強い磁場を持つ超強磁場中性子星(マグネター)のバースト活動は、FRBの候補として有力になりつつあります。若く活発なマグネターで発生したGRPを、電波とX線の多波長観測で調べていく上で、本成果は重要な知見を与えます。

4.論文情報

タイトル:"Enhanced X-ray Emission Coinciding with Giant Radio Pulses from the Crab Pulsar"
著者名:Teruaki Enoto, Toshio Terasawa, Shota Kisaka, Chin-Ping Hu, Sebastien Guillot, Natalia Lewandowska, Christian Malacaria, Paul S. Ray, Wynn C.G. Ho, Alice K. Harding, Takashi Okajima, Zaven Arzoumanian, Keith C. Gendreau, Zorawar Wadiasingh, Craig B. Markwardt, Yang Soong, Steve Kenyon, Slavko Bogdanov, Walid A. Majid, Tolga Guver, Gaurava K. Jaisawal, Rick Foster, Yasuhiro Murata, Hiroshi Takeuchi, Kazuhiro Takefuji, Mamoru Sekido, Yoshinori Yonekura, Hiroaki Misawa, Fuminori Tsuchiya, Takahiko Aoki, Munetoshi Tokumaru, Mareki Honma, Osamu Kameya, Tomoaki Oyama, Katsuaki Asano, Shinpei Shibata and Shuta J. Tanaka
雑誌名:Science
DOI:10.1126/science.abd4659

5.補足説明

[1] 中性子星
太陽よりも十分重い星が、その寿命を迎えると、超新星爆発を起こす。星の外側部分が吹き飛ぶ一方で、その中心部分は爆縮し、中性子星となる。これは質量が太陽と同程度、半径が10㎞程の高密度天体で、強い磁場を持っている。自転に伴い、周期的な電磁波のパルス放射が観測される場合、パルサーと呼ばれる。

[2] 巨大電波パルス(GRP)
周期的に観測される電波パルスが、時折その電波強度を数桁以上明るくする現象。かにパルサーの他、いくつかのパルサーから検出されている電波バースト現象。通常のパルスとは異なる観測的特徴を持つが、まだ多くのことが分かっていない。GRPはGiant Radio Pulseの略。

[3] 高速電波バースト(FRB)
突然、宇宙の一方向から1ミリ秒程度、強い電波が放たれる現象。我々の住む銀河の外の、宇宙論的な距離から到来していることが分かっている。電波で極めて明るく、その起源は分かっておらず、近年の天文学でのホットな研究対象になっている。これらのバースト現象のいくつかは、繰り返し同一天体から発生している場合も報告され、対応する母銀河が同定されているものもある。2020年には銀河系内の超強磁場の中性子星(マグネター)から、高速電波バーストと類似した電波放射が検出されている。FRBはFast Radio Burstの略。

[4] X線望遠鏡NICER
2017年に国際宇宙ステーションに搭載された大面積のX線望遠鏡。中性子星の質量と半径を精密に測定し、超高密度の中性子星内部の物質の状態(状態方程式)を観測的に解明することを目指すプロジェクトに用いられている。56個のX線望遠鏡が組み合わされており(軌道上では52個が稼働している)、1.5keV付近では過去最高の1,900cm2という有効面積を持ち、高い集光能力を持つ。NICERはNeutron star Interior Composition ExploreRの略で、ナイサーと読む。

[5] 超新星爆発
質量の大きい恒星が、星内部での核融合反応の燃料を使い果たし、重力崩壊を起こして潰れると超新星爆発が起きる。超新星は可視光で明るく輝くだけでなく、X線や電波まで多波長での観測が行われ、超新星SN1987Aでは超新星ニュートリノも検出された。超新星爆発の後には、中性子星やブラックホールが残されることがあり、周囲には超新星残骸が形成される。

国際共同研究グループ

理化学研究所 榎戸極限自然現象理研白眉研究チーム
理研白眉チームリーダー 榎戸 輝揚(えのと てるあき)
客員研究員 フー・チンピン(Hu Chin-Ping、胡 欽評)
(國立彰化師範大學 助教)

東京大学 宇宙線研究所
名誉教授 寺澤 敏夫(てらさわ としお)
准教授 浅野 勝晃(あさの かつあき)

広島大学大学院 先進理工系科学研究科
助教 木坂 将大(きさか しょうた)

宇宙航空研究開発機構 宇宙科学研究所 宇宙物理学研究系
准教授 村田 泰宏(むらた やすひろ)

情報通信研究機構 電磁波研究所 電磁波標準研究センター 時空標準研究室
研究マネージャー 関戸 衛(せきど まもる)

アメリカ航空宇宙局 ゴダード宇宙飛行センター
NICERチーム代表 キース・ジェンドルー(Keith C. Gendreau)
NICERチーム共同代表 ザベン・アルゾメニアン(Zaven Arzoumanian)

ほか31人

研究支援

本研究は、理化学研究所の理研白眉制度、京都大学の白眉プロジェクト、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金新学術領域研究「超高時間分解能・大統計X線ミッションNICERとの国際連携による中性子星観測(研究代表者:榎戸輝揚)」、同基盤研究(B)「中性子星種族の多様性とそれを作り出す中性子星磁気圏の多様性・変動性の起源の解明(研究代表者:柴田晋平)」、東北大学PPARC共同研究「大面積X線望遠鏡NICERとの連携による電波-X線でのパルサー同時観測(研究代表者:榎戸輝揚)」、日本学術振興会(JSPS)外国人特別研究員制度による支援を受けて行われました。