近日参上「はやぶさ2」
〜リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。〜

●「はやぶさ2」探査のサイエンス意義

小惑星・彗星・カイパーベルト天体などの太陽系小天体探査が、飛躍的に進展をみせている。そのサイエンス意義は、小天体に刻まれた太陽系形成過程の記録を獲得することにある。この文脈の中で「はやぶさ2」は、内外太陽系の氷の有無を分ける境界であるスノーライン(2‒3天文単位)付近にあったリュウグウの母天体の姿を、リモートセンシング観測、着陸機その場観測、人工衝突実験、帰還試料の分析を駆使して、総合的に解明することにある。

地球表層の水や有機物は、地球形成最終期になって集積した微惑星(〜100 kmのサイズの惑星材料天体)あるいはその破片によって、スノーライン付近からもたらされた可能性が高い。地上に落下する炭素質隕石は水・有機物を含んでいるが、隕石よりもはるかに多くの量の物質が、より細かな微粒子(惑星間塵)として地球に降下していることが、近年明らかになっている。惑星間塵は破壊された小天体の破片粒子である。つまり、地球への供給物質の量と内訳は、単に起源天体の組成だけではなく、その壊れやすさ(力学強度)や構成粒子サイズ分布に強く影響されるはずである。

「はやぶさ2」の探査で、リュウグウはより大きな小惑星の破片が集積したラブルパイル天体で、過去の高速自転によってコマ(独楽)型の形状になったことが明らかになった。近赤外分光計(NIRS3)の観測から、表面にはほぼ一様に含水鉱物が存在していることがわかり、また反射率の低さから有機物含有量が高いと予測されている。リュウグウの平均密度(バルク密度)は1.2 g/cm³と低く、空隙率は50%を超える。表面には多くの岩塊がほぼ一様に分布しているが(図)、中間赤外カメラ(TIR)の観測から、岩塊も空隙の高いものが多いと推定される。これらは力学強度の弱さを暗示するが、今後行われる衝突実験によって、より直接的な強度推定を目指している。これは、帰還試料分析とあわせて、地球への物質供給過程解明の鍵となるだろう。

「はやぶさ2」プロジェクトサイエンティスト
名古屋大学大学院環境学研究科教授 渡邊 誠一郎(わたなべ せいいちろう)

図 リュウグウ表面の高解像度画像

図 リュウグウ表面の高解像度画像。2018年10月15日撮像。数センチから1m程度の角張った岩塊に被われている。(クレジット:JAXA、東京大学、高知大学、立教大学、名古屋大学、千葉工業大学、明治大学、会津大学、産業技術総合研究所)。

●エピローグ

2018年4月号から始まった「はやぶさ2」についての2回目の連載ですが(1回目の連載は2014年2月号〜2015年2月号)、今回で終了となります。今回の連載では、最初に津田 雄一プロジェクトマネージャが「プロローグ」というタイトルで書いていますので、最後は「エピローグ」としました。もちろん、「はやぶさ2」ミッションはこれからも続きますので、ミッションのエピローグではありません。

連載が始まってからのこの1年間、「はやぶさ2」プロジェクトとしては、激動の1年でした。連載が始まった頃、小惑星リュウグウは約130万km彼方から眺めた"点"でした。そして、2019年2月22日、「はやぶさ2」探査機はついにリュウグウへのタッチダウンに成功したのです。リュウグウからの距離はまさにゼロ(図)、リュウグウ表面の様子がミリメートル単位で把握できるまでになりました。

これまで、小型ローバMINERVA-II1の2機や小型着陸機MASCOTをリュウグウに着陸させることに成功するなど「はやぶさ」で達成できなかったことを実現してきましたが、「はやぶさ」では思うようにできなかったタッチダウンにも成功しました。「はやぶさ」でできなかったプロジェクタイル発射にも今回は成功しました。これで、13年越しの"宿題"に回答できたことになります。

またミッションは、今後、衝突装置(SCI)を使って人工クレーターを作る実験を行ったり、可能ならばその人工クレーター(付近)にタッチダウンをしたり、3機目の小型ローバMINERVA-II2を分離したりと、まだまだやることがたくさんあります。そして、2019年末にはリュウグウから出発し、2020年末に地球帰還となります。「はやぶさ2」の激動の時間はまだ続きます。

リュウグウの乙姫殿、お宝はいただきました。お宝は大切にリエントリカプセル("たまてばこ")の中に入っています。この"たまてばこ"を開ける日を楽しみにして、この2回目の連載を終わりにすることにします。温かい応援を多数いただきまして、本当にありがとうございました。

「はやぶさ2」ミッションマネージャ 吉川 真(よしかわ まこと)

図 タッチダウンの瞬間

図 タッチダウンの瞬間。2019年2月22日07:29に小型モニタカメラ(CAM-H)で撮影。明るい点はLRF-S2による光。

【 ISASニュース 2019年3月号(No.456) 掲載】