近日参上「はやぶさ2」
〜リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。〜

●合運用

2018年11月〜12月、リュウグウは地球からは太陽の向こう側に見えることになります。このような状況のことを「合」と呼び、太陽の影響で「はやぶさ2」と地球との通信ができなくなります。「はやぶさ」ミッションでは、イトカワに向かう途中の公転軌道において合が起こりましたが、小惑星でホバリングをしているときに合が起こるのは今回が初めてです。合の期間は、合運用遷移軌道をとることになりますが、軌道制御量がなるべく少なくなり、かつ探査機が常に視野にリュウグウを捉えることができる、太陽方向に100 kmほど延びた軌道になっています。

探査機が合運用遷移軌道上にいる期間は約30日間になります。まず、準備期間(2018年11月18日〜29日)において、2018年11月23日に合運用遷移軌道に投入するための軌道制御(COI:Conjunction Orbit Insertion)が行われます。この期間中にSEP角(太陽--地球--探査機がなす角)は6度から3度まで減少しますが、通信はまだ可能です。次の軌道制御(TCM-1:TCM=Trajectory Correction Maneuver)は2018年11月30日に行います。また、合の後は太陽、地球、小惑星の位置関係が鏡像のように反転するのに対応するために、探査機の姿勢を180度回転させる姿勢制御も行います。次に、合期間(2018年11月30日〜12月21日)ですが、この期間ではSEP角が3度以下となり、探査機との通信が難しくなります。軌道制御は行いませんが、探査機との通信は試みます。この期間は「はやぶさ2」からの電波を用いて太陽の周囲を調べるための貴重な機会となります。これを過ぎると復帰期間(2018年12月22日〜2019年1月1日)となります。2018年12月25日に軌道制御(TCM-2)が行われ、さらに2018年12月29日にホームポジションへ復帰する軌道制御(HPR:Home Position Recovery)が行われます。

「はやぶさ2」ミッション解析担当 Stefania Soldini(ステファニア・ソルディニ)
(日本語訳 吉川 真)

図 ホームポジション座標系での合遷移軌道

図 ホームポジション座標系での合遷移軌道。この座標系ではZ軸が小惑星から地球の方向になるが、太陽もZ軸方向に位置することになる。

 

●虎視眈々と準備を ─ サンプラ

2018年10月25日、「はやぶさ2」は今年最後のタッチダウン運用リハーサルの真っ最中。徐々に高度を下げリュウグウに近づいています。このリハーサルで得られた成果、理学データを基に、いよいよ本番に向けた最後の準備が始まります。

想えば長い道のりでした。「はやぶさ」からの理学目標変更に伴う設計変更、オールメタルのコンテナシール機構の開発から始まって、フライト品開発中の清浄度維持。リュウグウから採ってきたサンプルを汚さないために、サンプルに触れる部品はサンプラチームで精密洗浄し、組立て時、試験時、射場作業中でさえも、常にサンプラチームが細心の注意を払って清浄度維持に努めました。

工学的な観点では、サンプラホーンがリュウグウに接触した場合の挙動をシミュレーションするためにホーンのバネ特性を計測、また、「はやぶさ2」で追加した数ミリメートルサイズの粒子をホーン先端にひっかけて持ち上げる折り返し部品の試験。ドイツまで行って、落下棟を使った微小重力試験でその有効性を確認しました。サンプラは初号機と基本的な設計は同じといえども、開発要素は盛りだくさんで手のかかる子でした。

2014年12月に打ち上げた後、しばらくサンプラチームとして出番はなかったのですが、実際に動かす日が着々と近づいています。最後の確認試験として、10月のリハーサルで得られた表面の詳細画像解析結果を基にターゲット土壌を準備し、それに対する弾丸射出試験を計画しています。この試験でリュウグウに弾丸を撃ち込んだときのサンプルの挙動を確認することができます。

サンプラチームの役目はリュウグウでの運用だけではありません。裏ではサンプルが帰ってきた後の準備が始まっていて、地球に帰還したカプセルの回収後に必要な装置の開発もスタートし、慌ただしい毎日です。

タッチダウン本番に向けて、さらにサンプルが地球に帰ってきた後に向けて、サンプラチームの物語はまだまだ序章、リュウグウから持ち帰った玉手箱を開けた後も物語は続きます。

「はやぶさ2」サンプラ担当 澤田 弘崇(さわだ ひろたか)

図 種子島宇宙センター 第1衛星組立棟にて、プロジェクタイル(弾丸)を装填している様子

図 種子島宇宙センター 第1衛星組立棟にて、プロジェクタイル(弾丸)を装填している様子。

【 ISASニュース 2018年11月号(No.452) 掲載】