近日参上「はやぶさ2」
〜リュウグウの乙姫殿、お宝をいただきます。〜
●サンプラホーンを見守る眼
10月に実施したタッチダウン(TD)リハーサルは大成功を収め、ターゲットマーカーも無事にリュウグウ表面に置いてくることができました。
この機会に小型モニタカメラ(CAM-H)の連続撮像リハーサルも実施し、こちらも大成功、カッコイイ連続画像を取得することができました。本来は、タッチダウン直前の自由落下開始時に撮像をスタートし、TDの瞬間を1秒に1枚の頻度で撮像する計画ですが、リハーサルでは本番とは異なり、上昇ΔV実施直後から撮像をスタートしました。
結果は「はやぶさ2」ホームページにて公開しております※1。サンプラホーンと共にリュウグウの石などがはっきり写っている画像を見たときには、本当に興奮しました(図)。
さて、ここにきて悩んでいることがあります。CAM-Hは本体の影の中にあるホーンを綺麗に撮るためにLEDの照明を備え、カメラの設定も決めていました。この条件で撮るとホーンがはっきりと写るし、人の目では見えないLRF-S2※2のレーザー光も写すことができます。ただ、非常に暗いものを撮ろうとしているので背景にあるリュウグウ表面は真っ白になってしまいます。
今回はリハーサルということもあり、リュウグウ表面が撮れる設定にしたのでホーンは影絵のように写っています。これはこれでカッコイイのですが、これではTDの瞬間のホーンの様子がわかりません。当初の計画通り、ホーンが写る設定にして表面を諦めるか、それとも表面に合わせた設定にするか、得られたデータをよく解析してから決定し、本番に臨みたいと思います。
下の橘さんの記事でも触れられていますが、この夏、サンプラを一緒に開発した岡本さんがご逝去されました。自分が携わった装置の出番を待ち望んでいたことと思います。この場を借りてご冥福をお祈りいたします。
CAM-Hはサンプラホーンを見守り、TDの瞬間を捉えるのがその役目です。彼女の想いと共にTD本番、サンプラの晴れ舞台を見守りたいと思います。
「はやぶさ2」CAM-H担当 澤田 弘崇(さわだ ひろたか)
※ 1 http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20181030_TD1R3_CAMH/
※ 2 http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20180905/
●リュウグウの声を聴くために
「はやぶさ2」が小惑星リュウグウに到着して、5カ月あまり経過しました。年が改まったら、いよいよ着地しての試料採取です。これまでの観測から、リュウグウは全球的に水を含んだ鉱物が少ないこと、地球上の多くの隕石より黒いことなどがわかってきました。着陸機MASCOTの表面観測・分析データももうすぐ全容が見えてくることでしょう。採取されるリュウグウ表面の試料の分析は、リュウグウの声を聴いて、観測から得られる地質情報を、物質科学の観点から理解するためのインタビュアーの役割を担います。また、試料分析を通じて、太陽系の歴史をその起源まで遡ることや、地球の海や生命の材料の供給源として、水や有機物を含む可能性のあるC型小惑星が果たした役割を明らかにすることをめざします。
リュウグウの声をよりよく聴くために、試料を可能な限り多く、綺麗な状態で持ち帰ることをめざして、先月も紹介されたように、「はやぶさ2」サンプラには、理学の観点から検討・開発した新たな要素が加わっています。リュウグウ表面試料に出合うことは当然楽しみですが、多くの議論や試験の末にできあがったサンプルコンテナに再会するのも楽しみにしています。
リュウグウの表面は岩塊だらけで、イトカワのミューゼスの海のように細かな粒子に覆われているというわけではなさそうです。とはいえ、弾丸発射型の「はやぶさ2」サンプラはあらゆる表面状態に対応できる設計になっており、試料採取は問題なく行われると期待しています。弾丸発射部の開発のための基礎実験も数多く行いました。その実験を中心になって進めてくださった岡本 千里さんが今夏ご逝去されたことを、この誌面をお借りして、お伝えしたいと思います。衝突の専門家である彼女のおかげで様々な実験が進み、サンプラは完成しました。試料採取をともに見守ることができないのが残念で仕方ありません。開発のなかで彼女が得たデータは、衝突の科学としても、「はやぶさ2」探査としても重要なものです。彼女に代わって、それを世に出すことをひとつの供養としたいと思っています。岡本さん、これまで本当にありがとう。サンプラの出番はもうすぐだよ。
「はやぶさ2」サンプラ・試料分析担当 橘 省吾(たちばな しょうご)
【 ISASニュース 2018年12月号(No.453) 掲載】