太陽以外の恒星の周りをまわる惑星、太陽系外惑星(以下、系外惑星)が発見されてから25年以上がたつ。当初、恒星の近くをまわる巨大ガス惑星、いわゆるホットジュピターが主な観測対象であった。しかし早くも2010年代には、爆発的と表現できるほど多種多様な惑星が見つかった。ここではいくつか例を挙げるにとどめるが、連星の周りをまわる周連星惑星、中心星の光の反射よりも自らの輻射が卓越している若い惑星、水星軌道より内側に多数の惑星を宿すコンパクト惑星系、ハレー彗星のように極端な楕円軌道を持つ惑星といった具合である。一方、太陽系の木星のように、中心星から数au以上離れた巨大ガス惑星の普遍性も実証された。2009年に打ち上げられたケプラー宇宙望遠鏡は、地球の1~2倍程度のスーパーアースと呼ばれる種族が1au以下に普遍的に存在することを発見した。宇宙では普遍的な惑星が、太陽系には存在しない点も注目に値する。このように惑星の多様性と普遍性の知見が同時に得られたのが2010年代である。
上記の夥しい発見は、系外惑星が天文学の新分野としての地位を確固とするのに十分なものであったが、系外惑星研究が真に革新的たるのは、それが生命の存在しうる惑星の探査と結びついているからである。この特徴こそが系外惑星研究が一過性の流行ではないことを担保する。つまり系外惑星研究は、「我々は宇宙で孤独なのか」というこれまでは思弁的に考えるしかなかった問いを科学的に探究可能な設問に焼き直すことを通じて、宇宙科学に新たな学問的意義を与えてくれる。2010年代を通じて、系外惑星における生命探査に関する知見も着々と積み上げられてきた。例えば、表面に海洋が存在可能な領域、すなわちハビタブルゾーン内に存在する地球型惑星が太陽型星のまわりに存在する確率は数十%のオーダーであること、太陽よりも低温・低質量の晩期型星のまわりにもそのような惑星が同じ程度存在していることも明らかとなってきた。
JAXA宇宙科学研究所に公募型小型3号機として選定されたJASMINE(Japan Astrometry Satellite Mission for INfraredExploration)は、位置天文学を通じた銀河系考古学を行う(ISASニュース2019年11月号※「小型JASMINEで迫る銀河系考古学」河田大介氏)と同時に、生命探査のコンテクスト上に位置付けられる系外惑星探査を行う科学目的を持つ。このJASMINEを用いた系外惑星探査計画のことをExo-JASMINEと呼んでいる。系外惑星の生命探査は、まず探査のターゲット惑星となるハビタブルゾーン内に、地球程度のサイズの惑星を発見することからはじまる。これは、我々は液体の水が存在する惑星環境での生命の形態しか知らないためと、地球より大きいとガスだらけの惑星となってしまい生命探査には適さないからである。惑星表面の温度は恒星から受け取る光量によりおおまかに決まり、恒星が小さく暗いとハビタブルゾーンは相対的に内側へと移動する(図1)。系外惑星自体が多様であったように、生命の存在できる惑星も多様であるかもしれず、さまざまな恒星のまわりのハビタブルゾーンが生命探査のターゲットとなっていることは自然である。しかし、恒星の大きさ(もしくは質量)によって探査手法や最適な装置は大きく変化する。太陽はスペクトルの分類でG型星とよばれるが、それより少し大きいF型星、少し小さいK型星を合わせたFGK星は、太陽半径の0.6〜1.3倍くらいの大きさの範囲に収まる。図1にあるようにFGK星周りの探査はAstro 2020[1]で推薦されたような大型宇宙望遠鏡による直接撮像探査[2]で探すのがもっとも有力である。一方、それより低質量(小半径・低温度)の恒星(M型星)周りの惑星に対しては「トランジット法」を用いたほうが有利である。トランジット法とは、惑星が恒星の前面を通過することによる一時的な減光、すなわち惑星の影を検出する手法である。例えば、太陽の前面を地球が通過すると、地球は太陽の1/ 100の半径であるので隠す面積比はその自乗、すなわち1/ 10000=0.01%の減光を起こすことになる。トランジット惑星の場合、大気中の分子の吸収により減光の波長依存性が生じるため、これを利用して惑星の大気探査を行うことができる。
近年、このトランジット法でハビタブルゾーン内に大気探査が可能なトランジット惑星の発見があり、生命探査のための具体的なターゲットが得られてきた。1つは晩期型星の中でももっとも質量・半径・光度が小さく、ほぼ褐色矮星に近い恒星TRAPPIST-1の周りに見つかった複数のトランジット惑星である。TRAPPIST-1系の発見の経緯は今後の生命探査に対し示唆的である。まずTRAPPIST-1中心星に近い、ハビタブルゾーン外の2惑星が、地上望遠鏡による探査で発見された。一般に地上望遠鏡によるトランジット探査は、大気の影響で宇宙からの観測よりも測光精度(どれくらい減光したかを検出する能力)が低い。しかし太陽の1/10程度の半径しかないTRAPPIST-1中心星の前を通過すると、恒星の半径に対する地球型惑星の比が太陽より10倍大きくなり、減光は1%にもなる。これは地上からでも十分に検出可能な減光度だ。ただし、地上では昼夜や天候が存在するため継続的な観測は難しい。そこでTRAPPIST-1に対してSpitzer宇宙望遠鏡による宇宙からの継続的なモニタリングが行われ、さらに外側に5つの惑星がまわっていることが発見された。このうち2、3個はハビタブルゾーン内に含まれていることが分かった。惑星系は軌道面が揃っていることが多いため、内側の惑星による減光が見つかれば、より発見が困難な外側の未知の惑星も恒星面を横切り減光を起こす可能性が高い。そのため追観測のメリットが大きいことがポイントである。
M型星は太陽半径の0.1〜0.5倍くらい、温度が3,000K弱から3,500K程度の範囲にあり、それゆえFGK星より暗い。最も小さい晩期M型星と最も大きい早期M型星では大きさに5倍も違いもあるが、歴史上の経緯でひとまとめにM型星と呼んでしまっている。先に述べたTRAPPIST-1はM型星の中でも最も小さい晩期M型星である。最も大きい早期M型星のまわりの地球型惑星を探すには地上の測光精度では不十分であり、宇宙からの広視野探査であるトランジット系外惑星探査衛星TESSが有利である。近年見つかったもう1つのハビタブルゾーン内のトランジット惑星、TOI- 700bは、TESSにより早期M型星のまわりに見つかった。TESSは口径が10.5cmしかないものの早期M型星くらいまで大きくなってくると、比較的明るくなるので精密な測光が可能になってくる。しかし実は、図1の斜線領域が示すようにTRAPPIST-1 系とTOI-700b の間には中心星の質量(および半径)と惑星の公転周期に対して広い未探査領域が存在する。実際にこの領域には、地球近傍に、ハビタブルゾーン内の地球型惑星が数十程度、未発見であると予想されている。この未探査領域に存在する地球型惑星がJASMINEによる系外惑星探査計画Exo-JASMINEのメインターゲットとなる。
JASMINEは近赤外線の位置天文・測光観測衛星であり、1年のうち約半分を銀河中心方向の位置天文観測を行い銀河系の起源等の解明を目指している。残りの約半分の季節は銀河中心方向を観測することはできず、この季節を利用して宇宙からの近赤外線精密測光を行う。JASMINEは上記の未探査領域を探査するのに適している。それは、天気や昼夜に左右されない継続的かつ大気の乱れの影響をうけない精密な測光が可能であること、TESSの10. 5cmよりも大きい30〜40cmクラスの口径、かつ低温のM型星に適した1.1~1.6ミクロン帯の測光であることの3点の利点があるからである。未探査領域は、TESSにとっては暗く、地上探査では精度と継続的な観測期間が足りないため探索が難しかったわけであるが、それが両方とも解決される。ただし、JASMINEの視野は、ブラインドサーベイ(あらかじめターゲットを決めず、ある領域の多数の恒星を見続けるサーベイ)をするには狭すぎるので、TESSや地上探査で内側の惑星が見つかっている系にしぼり、モニターしていく必要がある。これはまさに地上+Spitzer宇宙望遠鏡で見つかったTRAPPIST-1系の発見経緯をモデルとしているともいえる。図2に、JASMINEでこのような惑星がどのように観測されるかシミュレートした光度曲線を示す。地球サイズの惑星のトランジットが0.2〜0.3%の減光となり、JASMINEによって検出されうることが見て取れる。
ハビタブルゾーン内に探査可能なトランジット惑星系が見つかったとしても、これはあくまで生命探査のためのターゲットとなる惑星が見つかったということに過ぎない。例えば火星はハビタブルゾーン内に位置するが海洋をもっていない。そこで多数のハビタブルゾーン内の惑星を探査することが肝要であると同時に、その後、ターゲット惑星がどのような環境であるのかを調べられることが必要である。図3で示したように、大気は存在するか?バイオマーカーは存在するか?といったことを順次詳細に調べていくことになる。惑星が大気や海を持つ確率、生命の発生確率、さらに水を利用した大規模な光合成を行うまで進化する確率がどれくらいかは現時点では全く分からない。これらを調べるためには、数多くのターゲット天体を発見する必要があるだろう。その中には生命の存在に適する惑星が見つかるかもしれない。この詳細観測には口径の大きいフラグシップレベルの宇宙望遠鏡が必要である。その第一号ともいえるのがジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)であり、例えばTRAPPIST-1系の大気探査が可能である。宇宙研の参加する国際協力プロジェクトWSO-UVによる紫外分光を用いた大気探査も詳細観測の強力な手段である。系外惑星の大気観測専用衛星ARIELも控えており、2030年代には詳細観測はさらに本格化していくであろう。いずれにせよ現在の我々の課題、そしてExo-JASMINEの目的は、詳細探査の時代までに生命探査に適したターゲット惑星をなるべく多数発見しておくことである。
ここまでExo-JASMINEの生命探査に関する意義を説明してきた。加えて、近赤外線の精密測光というJASMINEの持つ特徴は、例えば褐色矮星(主に近赤外線で光っている)や星団での若い惑星探査(黒点による光度変動の影響を抑えられる)といった生命探査以外にも独自性のある観測も可能である。また、系外惑星探査では、ブラインドサーベイでないターゲット型の宇宙精密測光の果たす役割は国際的にも大きい。宇宙からの系外惑星トランジット観測の種類を整理すると、ケプラーやTESSのようなブラインドサーベイを行う広視野モニタリング観測、HSTやJWSTのような大口径望遠鏡によるスペクトル観測、そしてこれまでSpitzer宇宙望遠鏡が担ってきたターゲット測光観測の3つにわけられる。Spitzer宇宙望遠鏡は引退してしまったが、TRAPPIST- 1のほかにもさまざまな重要な発見をしてきた。Spitzer宇宙望遠鏡の強みは、地上や宇宙などさまざまな場所で次々に発見されていく新規惑星候補の高精度な光度曲線をフレキシブルに取得し、発見の確実な証拠や半径・周期やトランジットタイミング等の情報を得ることができた点であった。この役割は2019年に打ち上げられた可視測光衛星のCHEOPSに引き継がれている。2020年代末以降は、国際的な系外惑星探査ネットワークにおけるこのkey roleを日本主導の系外惑星探査計画Exo-JASMINEで引き継いでゆきたい。
※ ISASニュース2019年11月号
[1] 最近発表されたアメリカの天文・天体物理学分野の今後の大型計画のあり方を述べたDecadal Survey
[2] 中心の恒星と惑星を分離するほどの高解像度で撮影する方法
【 ISASニュース 2021年12月号(No.489) 掲載】