観測ロケット実験FOXSI-4が切り拓いた新しい太陽フレア観測
2024年4月17日、息も凍るようなアラスカの曇天に、2本の煙炎が伸びていきました。そのとき太陽では、中規模のフレア(太陽表面で起きる爆発的な現象)が発生していました。その煙炎を描いたのは、太陽フレアを観測するために打ち上げられた2機の観測ロケットです(図1)。
そのうちの1機が、日米共同で開発した太陽フレアX線集光撮像分光観測ロケット実験FOXSI-4です。FOXSI-4はFocusingOptics X-ray Solar Imagerの4回目の飛翔実験にあたります。FOXSI-4は約15分間の弾道飛行を行い、そのうち高度150km以上に到達した約6分間に、太陽フレアから飛来した1,000万個以上のX線光子を1個ずつ捉え、各光子の発生場所、到来時刻、エネルギーを記録しました。これは、太陽フレアのX線集光撮像分光観測に世界で初めて成功した出来事でした。
図1:アラスカの射場から打ち上げられた2本の観測ロケット(動画を合成して作成)。左がFOXSI -4、右がその1分後に打ち上げられた高解像度極端紫外線観測ロケット実験Hi-C Flareの軌跡。この2本の打上げは、観測ロケットで太陽フレアを観測するNASA 初の試みとして、「フレアキャンペーン」と銘打って実施された。
FOXSIは、NASAの観測ロケットを用いて継続してきたシリーズ実験です。その集大成ともいえるFOXSI-4では、満を持して太陽フレアを観測対象としました。科学目標は、次の3つです。第一に、太陽フレアのX線集光撮像分光観測という新しい観測技術を実証すること。第二に、その観測からフレア領域の詳細な温度構造や、そこで加速された電子のふるまいを捉えるという新しい科学成果を生み出すこと。第三に、得られた観測データや解析ソフトウェアを公開し、この新しい研究手法を広く普及させることです。
FOXSIがシリーズを通して切り拓いてきたのは、太陽に対するX線帯域での集光撮像分光観測という新しい観測手法です。これは、X線がどこから来たかを知る空間分解能、いつ来たかを知る時間分解能、どのようなエネルギーを持つかを知るエネルギー分解能、さらに非常に明るい場所と暗い場所を同時に観測できる高いダイナミックレンジを同時に実現するものです。これにより、太陽の高エネルギープラズマ、すなわち高温の熱的成分*1と加速された非熱的成分*2の両方について、これまでにない質と量の情報が得られます。私たちの日米共同グループは、この観測を世界に先駆けて実現し、太陽コロナの観測を通じて世界第一級の科学成果を挙げてきました。そしてFOXSI-4は、ついに太陽フレアの本格観測に挑みました。
7本すべてが異なる望遠鏡
FOXSI-4の観測装置は、高精度X線ミラーと高速度X線カメラから成る7本の望遠鏡で構成されています。X線をミラーで集光し、画素化またはストリップ化した検出器を持つ高速度カメラで、X線光子を1個ずつ計測します(図2)。これらの望遠鏡には、さまざまな高度な技術が用いられています。例えばX線用ミラーでは、Wolter I型*3という特殊な形状を実現しなければなりません。さらに、その鏡面はX線の波長に対応するナノメートルレベルの精度で仕上げる必要があります。一方、検出器とエレクトロニクスからなるカメラにも厳しい性能が求められます。太陽フレアの時間変化を追跡するために高速でデータを取得できることに加え、検出器でX線のエネルギーを正確に測るため、ノイズや信号欠損を低く抑えなければなりません。さらに、太陽フレアの構造を空間的に分解するため、検出器は微細に画素化またはストリップ化されている必要があります。このようなX線集光撮像分光観測を支えるキー技術が成熟し、整ったことで、FOXSI-4の実現に至りました。
図2:観測ロケット実験FOXSI- 4の観測装置。
さらに、観測性能を十分に引き出すため、迷光を除去するプレ・コリメータ、可視光を遮断するフィルター、光量を調整する減光フィルターなども搭載されています。FOXSI-4は最新技術の実証実験の場でもあり、7本の望遠鏡はすべて構成が異なります。このうち2本が軟X線帯域(約0.8〜10keV)、5本が硬X線帯域(約5〜20keV)を観測します。
日本からは、名古屋大学が電気鋳造型の高精度X線ミラー2本と各種フィルターを、国立天文台がCMOS検出器を用いた軟X線用高速度カメラ2台と金属3Dプリンター製の迷光除去用プレ・コリメータ2台を、さらに東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構とJAXA宇宙科学研究所がCdTe検出器を用いた硬X線用高速度カメラ4台を提供しました。さらに、データ収集系には日本の提案によりSpaceWireアーキテクチャが全面的に採用されました。つまり日本は、太陽フレアのX線集光撮像分光観測に必要な技術とシステムを、国内で一通り担える段階に達しました。
またFOXSI-4では、太陽フレアを観測するために観測性能を大きく引き上げました。電気鋳造型X線ミラーはFOXSIシリーズ最高の空間分解能を達成しました。軟X線用高速度カメラはシリーズ最高の感度と分光精度を、硬X線用高速度カメラはシリーズ最高の読み出し速度と位置決定精度を達成しました。こうして、FOXSI-4は世界最高レベルの性能を備えたX線観測装置として仕上がりました。
FOXSIの観測装置の全長は2mあり、目指す空間分解能は3〜5秒角です。そのため観測ロケットには、このサイズの装置を搭載できることに加え、秒角レベルの姿勢安定度が求められます。FOXSIでは、これらの条件を満たすNASAの観測ロケットを用いてきました。また、米国で打ち上げれば観測装置の回収が可能で、再飛翔も行えます。こうしてFOXSIはシリーズとして継続されてきました。FOXSI-1では、日本からの提供は硬X線検出器のみでしたが、シリーズの展開とともに、日本が担う観測装置の種類は増え、性能も向上しました。日米の協力関係も深まり、共同で太陽フレア観測に挑めるまでになりました。その到達点がFOXSI-4です。
太陽フレアが起きたら、すぐ打ち上げる
観測ロケットの有効観測時間は、弾道飛行中の数分間に限られます。一方で、太陽フレアの発生を分単位で正確に予測することは、現時点では不可能です。そのため、あらかじめ決めた時刻に打ち上げる従来の方式では、フレアを観測できません。
そこで今回は、ロケットを打上げ可能な状態で待機させ、米国の気象衛星GOESが計測する太陽X線フラックスをほぼリアルタイムで監視し、中規模以上のフレアの発生を検知した直後に打ち上げるという方式を採用しました。この挑戦的な打上げ手順は、米国チームがNASAと協力して構築しました。
ただし、それだけでは十分ではありません。観測成果を最大化するには、できるだけ規模の大きなフレアを狙うこと、さらに太陽面上に複数の活動領域(黒点群)がある場合には、どの領域でフレアが起きそうかを事前に予測しておくことが重要です。前者は、大きなフレアほどエネルギー解放や粒子加速が長く続き、それらを観測できる可能性が高くなるためです。後者は、観測装置が最高性能を発揮できる視野に限りがあるため、打上げ後にフレアの発生場所を探すことなく、直ちにフレアの観測を始めるためです。
そこで、打上げオペレーションに対する日本からの貢献として、草野 完也 特任教授(名古屋大学・宇宙地球環境研究所)が開発し、伴場 由美 博士(情報通信研究機構)が宇宙天気予報への実用化を進めている、磁場観測データと物理モデルを用いた予測手法を活用し、各活動領域について、フレアの起こりやすさと想定されるフレアの規模を事前に予測しました。
こうした入念な準備のうえで行われた打上げにより、FOXSI-4は太陽フレアのX線集光撮像分光観測に世界で初めて成功しました。観測したフレアは中規模(Mクラス)のフレアで、発生場所も含めて事前予測と一致しており、観測開始とともにフレアを捉えることができました。フレアのピークは過ぎていたものの、なおMクラス相当のX線フラックスを保つ時間帯から観測を開始できました(図3(d))。
図3:FOXSI-4が検出した太陽フレアからのX線光子データ(a)と、その解析例(b)、(c)。FOXSI -4はフレア後半を観測した(d)。(a)の2つの円は、CMOS検出器上でそれぞれ半径50 画素と100 画素の円を示しており、太陽面上ではおおよそ4万kmと8万kmに相当する。(b)のフレア画像は、およそ450 秒角×300 秒角の領域を示しており、太陽面上ではおよそ33万km×22万kmに相当する。
1,000万個を超えるX線光子がもたらす新しい科学
FOXSI-4 は、フレア領域を約5分間、活動領域を約1分間、合わせて約6分間観測しました(下図参照)。日本から提供した6台のカメラはすべて正常に動作し、軟X線帯域で1,000万個以上、硬X線帯域で2万個以上のX線光子を計測しました。
日米共同観測ロケット実験FOXSI-4が観測した太陽フレアと活動領域 (ISASニュース2026年4月号 表紙)
左図は、FOXSI-4が計測した1,000万個を超えるX線光子を使って点描画のように描いた画像。右図は、同時観測を行った太陽観測衛星「ひので」のX線望遠鏡による通常の撮像画像。同じX線画像でも、FOXSI-4のデータにはX線光子1個1個の情報が含まれている。白の円弧は太陽の縁を示している。
FOXSIの観測データの最大の特徴は、取得した光子をあとから自由に選んで解析できることです。たとえば、あるエネルギーのX線の空間分布を調べることも、X線スペクトルの時間変化を追うことも、特定の領域ごとのX線スペクトルを詳しく調べることもできます(図3)。
軟X線帯域では、1,000万度を超える超高温プラズマが放射する鉄の輝線も検出されました。硬X線帯域では、15keVを超えるX線も検出されています。このように、これまでの太陽観測では難しかった超高温プラズマの精密診断が可能になります。
観測時間中には、主たるフレアだけでなく、マイクロフレア(小規模なフレア)の発生や、磁場構造の再構成に伴うプラズモイド(プラズマの塊)の噴出も捉えました。これらのデータから、今後は、フレア領域における加速電子(非熱的成分)の調査、マイクロフレアにおけるエネルギー解放の調査、フレアループやプラズマ噴出領域周辺、非フレア活動領域におけるプラズマ加熱の精査、さらには恒星フレアとの比較研究など、さまざまな科学成果が期待されます。
現在、取得したデータの較正処理、観測装置の追加較正、解析ソフトウェアの整備、データ公開の準備を進めています。FOXSI-4は、先に述べた第一の目標である新しい観測技術の実証を達成し、続く新しい科学成果の創出、新しい研究手法の普及へと歩みを進めています。観測データの解析も進んでおり、初期科学成果が得られつつあります。
さまざまな連携と、次世代への広がり
2020年冬にキックオフしたFOXSI-4計画は、ちょうどコロナ禍のさなかに進められました。太陽コロナを研究する私たちが、別の「コロナ」に悩まされることになったわけです。対面での議論や試験立ち会いは難しかったものの、その制約を乗り越える過程で、日米間の連携はむしろ強まりました(図4)。
FOXSIは太陽を観測対象としていますが、その科学テーマは高エネルギープラズマにあります。また、観測装置にはX 線観測の最先端技術が求められます。このため計画は、太陽物理学にとどまらず、高エネルギー宇宙物理学や地球磁気圏プラズマ物理学の研究者も加わる学際的なプロジェクトとして進められました。さらに、最新技術を多数取り入れる必要があったことから、産学連携も大きく進展しました。加えて、フレア予測という観点から、宇宙天気研究との連携も始まっています。こうした連携は、科学と技術の両面で新たな展開を生み出しています。
また、FOXSI計画には多くの大学院生や若手研究者が、責任ある立場で参加しました。その成果は、博士論文2編、修士論文6編として結実しています。さらに、国際光工学会SPIE 主催のシンポジウムSPIE ASTRO 2024では、大学院生2名がFOXSIの成果により論文賞(Paper Prizes)を受賞しました。最先端の装置開発と科学研究の現場が、そのまま次世代研究者を育てる場にもなりました。
図4:観測ロケット実験FOXSI-4とHi-C Flareの打上げに携わった人々。アラスカの射場で、2本のロケットとともに。日本からは、国立天文台 成影研究室、名古屋大学 Uxg研究室 三石グループ、東京大学カブリIPMU 高橋研究室、JAXA宇宙科学研究所 渡辺研究室・坂尾研究室が参加した。米国からは、FOXSI-4の研究代表者(PI)であるDr. Glesener氏を中心に、ミネソタ大学、カリフォルニア大学バークレー校、NASAマーシャル宇宙飛行センター、NASAゴダード宇宙飛行センターなどが参加した。
将来展開 ― FOXSI-5、そしてその先へ
FOXSIシリーズは、FOXSI-4で終わりではありません。2026年5月には、FOXSI-4の再飛翔実験であるFOXSI-5の打上げが予定されており、2回目の太陽フレア観測に挑みます。FOXSI-5では、ミラーのひとつをより高性能なものに置き換えました。さらに、打上げ手順も改善し、FOXSI-4よりもフレア発生に近い段階から観測を始めることを目指します。
さらに、FOXSIで培われた技術は、キューブサット計画(科研費・基盤研究(S)「CubeSatによる定常的太陽X線集光撮像分光観測で拓く宇宙プラズマ・宇宙天気研究の深化」)やフルサイズの衛星計画(PhoENiX)への展開も視野に入っています。観測ロケット実験は短時間の観測に限られる一方で、新技術を素早く宇宙実証できる大きな強みがあります。そこで得られた知見を小型衛星や本格的な宇宙望遠鏡へとつなげていくことができれば、太陽フレアを舞台とした高エネルギープラズマ研究は新しい段階へ進むでしょう。
太陽フレアは、太陽が持つ磁気エネルギーが突発的に解放される現象であり、宇宙空間における粒子加速やプラズマ加熱の代表的な舞台のひとつです。そこでは何が起きているのかを、X線光子を1個ずつ捉えて測ることで解き明かす――。FOXSI-4は、そのための新しい扉を開きました。次の飛翔、そしてその先の宇宙科学へ向けて、挑戦は続いていきます。
謝辞
本計画は、日米の多くの研究者、技術者、学生、関係機関の協力によって実現しました。観測装置の開発、打上げ運用、データ解析に携わったすべての皆さまに深く感謝します。また、本研究は、JAXA宇宙科学研究所小規模計画とJSPS 科研費JP22H00134, JP21KK0052, JP21H04486, JP18H03724,JP17H04832, JP15H03647, JP24244021の助成を受けたものです。
*1 プラズマ中の粒子が全体的にエネルギーを獲得して加熱され、高温になった成分。
*2 プラズマ中の一部の粒子が特別にエネルギーを獲得して加速され、高エネルギーになった成分。
*3 X線を反射させるためには、全反射条件を満たす小さな角度でX線を鏡面に入射させる必要がある。加えて、光軸外で生じる像の収差を小さくするため、回転放物面鏡と回転双曲面鏡で2回反射させる光学系。
【 ISASニュース 2026年4月号(No.541) 掲載】
