2024年8月22日、米国航空宇宙局(NASA)から宇宙科学研究所に、NASAの小惑星サンプルリターンミッション「OSIRIS-REx」(オサイリスレックス)が小惑星Bennu(ベヌー)から回収したサンプルの一部が宇宙科学研究所に受け渡されました。相模原キャンパスにおいて、JAXA宇宙科学研究所の臼井寛裕地球外物質研究グループ長とNASAジョンソン宇宙センターのDr. Francis McCubbin宇宙物質キュレーターの間で受渡しの署名が行われました。

JAXAのはやぶさ2とNASAのOSIRIS-REx間での協力覚書により、JAXAはBennuサンプルの総重量の0.5%を地球帰還後1年以内に受け取ることとなっていました。

OSIRIS-RExは、NASAによる初めての小惑星サンプルリターンミッションであり、B型小惑星Bennuからサンプルを採取し、持ち帰ることを目的としています。サンプルから、生命の起源や太陽系の形成の重要な要素についての手がかりを得られることを期待されています。2016年に打ち上げられた探査機は、2018年に目標である小惑星Bennuに到着し、2020年には表面物質の採取に成功しました。そして、2023年9月24日にBennuから121.6グラムのサンプル回収に成功し、地球に届けました。

今後、JAXAではBennuのサンプルの公募による試料配布だけでなく、戦略的な試料配布もリードしていく予定です。OSIRIS-RExチームによるBennuサンプル分析の第一弾報告では、BennuサンプルとRyuguサンプルの類似性が明らかとなり、両者の比較研究が今後重要になってきます。比較研究により、サンプルリターンミッションによって初めて明らかになっていく太陽系の事実があると期待されます。 「はやぶさ」「はやぶさ2」で培われた経験を基に、Bennuサンプルがより効果的に研究がなされるように試料配布を行うとともに、さらに将来のミッションに繋がるキュレーション技術開発につながる活動も行い、全てのリターンサンプルの科学的成果の創出を図って参ります。

【JAXA宇宙科学研究所地球外物質研究グループ 臼井寛裕グループ長のコメント】
貴重な小惑星試料を、ベンヌから地球へ、そして日本へと無事に持ってきてくださり、ありがとうございます。日本への分配前には、NASAジョンソン宇宙センターにおいて厳密な管理のもと、試料の観察・分取作業が行われていることを確認しております。同じキュレーターとして、これらの作業がどれほど緊張感や責任感を伴うものなのか、理解しております。8月22日に、NASAおよびJAXAの立ち合いの元、両機関間の取り決め通り、分配試料の代表性 "representativeness" と 保存性 "unprocessed" が確認され、無事にJAXAへと引き渡されました。今度は我々JAXAの出番です。貴重な試料から、多くの科学成果を創出できるよう、計画通りに作業を進めてまいります。

【JAXA宇宙科学研究所地球外物質研究グループ 矢田達主任研究開発員のコメント】
この度はOSIRIS-REx試料のJAXAへの配布を実現できたことを大変うれしく思います。昨年9月の試料帰還以降、NASA/JSCキュレーションチームが最大限の労力を尽くして、試料コンテナの蓋のボルトがなかなか外れない、などの困難を乗り越えて、今年3月のカタログ公開、国際公募開始などのマイルストーンを着実にクリアしてきました。
その実績について、JAXAキュレーションではやぶさ2のキュレーションにあたってきたものとして、心からの敬意を表すると共に、課題を解決しスケジュールを遵守してきたチームとしての底力に感嘆する次第です。JAXAキュレーションとして、渡されたバトンをしっかりと受け取り、気を引き締めて今後のOSIRIS-REx試料キュレーション作業にあたっていきたいと思います。

【JAXA宇宙科学研究所地球外物質研究グループ 西村征洋主任研究開発員のコメント】
私たち(地球外物質G)はこの日を楽しみにして、万全の準備を整えてきました。OSIRIS-RExキュレーションでは、これまでの「はやぶさ」および「はやぶさ2」で得た知見を再評価し、今後のリターンサンプルミッションも視野に入れた積極的な姿勢でキュレーションを展開してまいります。具体的には、試料管理体制を見直し、管理品質や基準の定量化を進めてきました。試料の初期記載・カタログ化においても、先端機器の導入により高精度を達成します。加えて、多様なデータも公開する予定です。引き続き、太陽系科学コミュニティーへの貢献を目指すとともに、一般の方々にもBennu試料やその成果を身近に感じていただけるようにアピールしてまいりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

【NASA本部 Dr. Kathleen Vander Kaaden宇宙物質キュレーション チーフサイエンティストのコメント】
私たちは、たえず科学的な成果の向上と、これらおよび他のミッションのリスク軽減のために、小惑星試料回収ミッションにおけるJAXAとの連続した協力を大切にしています。 JAXAは豊富なキュレーション能力を持っており、OSIRIS-RExのサンプルの共同分析から得られる知見を楽しみにしています。

8月22日にJAXA宇宙科学研究所(相模原キャンパス)で行われたBennuサンプルの受渡しの署名交換の様子 (クレジット:JAXA)

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イーグル容器の窓越しに試料を確認する様子。顕微鏡の画像をモニターに映し出した試料をJAXANASAのキュレーションスタッフが確認している。(クレジット:JAXA)

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バルク試料容器内のBennu試料 (クレジット:JAXA)