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前週までの夏のような陽気が嘘のように、10月6日(月)のアデレードは最高気温15度。前日5日(日)にサマータイムへ切り替わったばかりなのに、季節はまだ足踏みしているようだった。サマータイム当日は時計を1時間進めるため、その日は実質23時間(切り替えの午前2時が3時になる)。うっかりすると朝8時に起きても "実は9時"。大事な予定がある日は要注意である。

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歴史的建築と現代建築が共鳴するアデレードの街並み。過去と現在が同じ通りに息づく。

そんな中、IAC2025・シドニーで展示されていたリュウグウの粒子とはやぶさ2の模型が、オーストラリア宇宙庁(ASA)のマディ・パークスさんとスティーブ・キャンベルさんにより、ASA本部のあるアデレードへ移された。ASAはアデレード市内に「Australian Space Discovery Centre(ASDC)」を一般公開しており、今回ここに、はやぶさ2のサンプルリターンを紹介する新展示が加わる。模型とともに、リュウグウの "砂つぶ" も来場者の前に姿を見せることになった。

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ASA本部前のリングのオブジェ。宇宙全体を表し、白は「わかっている5%」、黒は「まだ謎の95%」。黒の環に、終わらない問いが巡る。宇宙科学者の挑戦を象徴しつつ、実は人気の撮影スポットでもある。

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アデレードのASA本部にある展示施設 「Australian Space Discovery Centre(ASDC)」

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オーストラリア初の宇宙飛行士、キャサリン・ベネル=ペッグさんがお出迎え。今年5月に、JAXA宇宙科学研究所を訪れた。(その時の様子はこちら

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Australia Space Discovery Centre (ASDC) はタッチパネルによるインタラクティブな展示が多数。

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地球の低軌道 (LEO: Low Earth Orbit) には2万6000個以上の人工衛星があることを示すインタラクティブな展示。

2020年12月、はやぶさ2は約52億4千万kmの旅路を終え、地球へ帰ってきた。回収隊はチャーター機で南オーストラリア州の州都・アデレードに降り立ったが、任務は分刻み。夜明け前のウーメラへ走り、火球の目撃とビーコンを頼りにカプセルを発見すると、リュウグウの粒子は、ウーメラの滑走路から直行便で日本へ向かった。リュウグウの粒子は "通過" しただけで、アデレードの街と出会う暇はなかった。

あれから5年、あの時、街の灯だけを見て去っていったリュウグウの粒子が、今度は "ゲスト"としてアデレードに戻ってきた。ASDCの展示室で、砂つぶが、研究者やアデレードの子どもたち、そして当時オペレーションを支えたASA関係者の前に姿を見せる。―そんな再会の景色が、これから始まる。

新しい展示のオープニングセレモニーには、フランシス・アダムソン南オーストラリア州総督、アダム・ウィン在アデレード日本国名誉総領事、エンリコ・パレルモASA長官、藤本正樹JAXA/ISAS所長らが出席した。

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新リュウグウ展示の除幕式。南オーストラリア州・ASA・JAXA/ISASの代表者が幕を引き、発表の瞬間を迎える。

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ASDCの新展示! 関係者がリュウグウ試料とはやぶさ2模型のコーナーを披露した瞬間。

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フランシス・アダムソン南オーストラリア州総督ご夫妻、藤本正樹JAXA/ISAS所長、アダム・ウィン在アデレード日本国名誉総領事。

式典に続いて藤本所長の特別講演が行われ、話題は小惑星探査機「はやぶさ2」、小型月着陸実証機SLIM、2026年度打上げ予定の火星衛星探査計画MMX、さらには火星圏サンプルリターンへと広がった。最先端の科学と技術をユーモアを交えて軽やかに語る30分間に、会場は終始あたたかな空気に包まれた。

講演の冒頭では、太陽系初期の姿を映す「始原的小天体」の重要性が解き明かされ、サンプルリターンこそが太陽系の起源に迫る道だと強調された。はやぶさ2が人工クレーターを作って二度のタッチダウンに挑み、到着後にリュウグウの表面の状況を見て作戦を組み替える柔軟さと、探査機を失わないことを最優先に据えたリスク設計で成果を引き寄せた経緯も紹介。岩だらけのリュウグウを「とても不親切」と表現した直後に「でも、オーストラリアの人たちは不親切じゃない」とウィットを利かせ、会場を和ませる一幕も。二度目のタッチダウンは若手主導で、「たとえ試料が採れなくても探査機喪失のリスクはほぼゼロ」という明確な根拠に支えられて実施され、リュウグウの地下にある物質を含む可能性の高い試料の獲得につながった。

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スクリーンに映るリュウグウ表面の画像を前に、タッチダウンの難しさを説明する藤本所長

さらに、2020年のウーメラでの回収を振り返り、COVID-19によるパンデミック下にもかかわらず日本とオーストラリアの緊密な連携が成功を支えたことを強調。再突入カプセルの目視観測からビーコン追尾、ヘリでの捜索に至るまで、現地チームの機動力が光ったと述べた。

SLIMについては、画像照合によるピンポイント着陸が「小さく賢く狙って降りる」時代を切り拓いた意義を示し、はやぶさ2の「その場で作戦を再設計する」知恵と合わせ、次世代の小天体・月・火星圏探査の基盤技術になると位置づけた。はやぶさ2のカプセル回収で築いた実績は今後のMMXカプセル回収にも直結し、オーストラリアの地理・制度・信頼性はサンプル回収の強みであるとして、日本とオーストラリアの友好関係を改めて強調して締めくくった。

リュウグウの展示が公開されたことを記念してつくれらたショートムービー。はやぶさ2のカプセル帰還とリュウグウからの試料の回収を支えた日本とオーストラリアのパートナーシップを紹介(英語のみ)

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「Big catch!」 ― はやぶさ2のサンプルカプセルの写真を指しながら、採取成功の意義を語る藤本所長。

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はやぶさ2/SLIMの成果を踏まえ、MMXと日本とオーストラリアの連携、そして "みんなで太陽系探査へ" のメッセージを伝える藤本所長。

質疑応答では、まっ先に手を挙げた子どもが「うまくいかなかないかもしれないと心配じゃなかったの?」と尋ねる。藤本所長は「打上げの前に多くの準備をする。同時に何があるか分からない場所を探査する。どれだけ準備しても未知なことは残る。あらゆることを心配したが、何が起こってもチームメンバーで困難を乗り越えるから大丈夫と思えた」と答え、「火星へのミッションについて、どう感じているのか?」という質問には、「火星は本当に魅力的で、誰もが心惹かれる。だからこれまでも各国が多くの探査機を送ってきた。一方で、火星への着陸はとても複雑で、決して簡単ではない。価値があることだと多くの関係者を説得しなければならないし、それは、私たちがやるに値するやり方である必要がある。とても優秀なエンジニアたちのおかげで、これまでとは "異なるやり方で意味のある新しい技術" を考案することができた」と語った。

いま、オーストラリア・アデレードのASDCにはリュウグウの粒子が届けられ、来場者と豪州の人々がその快挙を自分たちの誇りとして喜びを分かち合っている。

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講演後、女の子の質問に優しく答える藤本所長。仕事の現場では見られない笑顔!(おっと。これは内緒で)

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ASDCの新展示。「はやぶさ2」模型とリュウグウ試料の解説が並び、タブレットでは粒子の拡大画像も見られる。

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全日程を終えて、アデレードからでシドニーで乗り継ぎ。"SYD Departures" を背に、ミッション完了。

(2025/11/12)