2025年5月第3週 オーストラリア宇宙庁のJAXA相模原キャンパス & 大阪・関西万博オーストラリア館にて

◆5月20日(火)晴れ
「月面で犬の散歩? ― 南半球の仲間と描く、未来の宇宙科学・探査の姿」

朝から空は柔らかな青に染まり、5月の陽光はまるで木漏れ日のようにやさしく差し込んでいた。新緑が輝く相模原キャンパスは、若葉の薫りと鳥のさえずりに包まれ、宇宙へと続く人類の歩みを静かに見守っているようだった。そんな初夏の陽気のなか、JAXA宇宙科学研究所(ISAS)は特別な来訪者を迎えた。

南半球からやってきたのは、オーストラリア宇宙庁(ASA)のエンリコ・パレルモ長官とキャサリン・ベネル=ペグ宇宙飛行士をはじめとする代表団。緑に縁取られたキャンパスの門をくぐる一行の姿に、未来の宇宙科学・探査の国際協力への希望が重なった。

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ISAS会議室での冒頭セッションでは、藤本所長よりSLIMやはやぶさ2などの成果を踏まえ、MMXを含むISASの宇宙科学・探査に関する戦略や将来像が語られた。「宇宙」や「科学」という言語を介し、国を超えた対話が交わされる時間には、藤本所長の研究者としての誠実さと探究心がにじんでいた。

続く相模原キャンパス内の施設見学では、宇宙科学探査交流棟においてペンシルロケットやSLIM、はやぶさ2によるサンプルリターンなど、日本の探査技術の軌跡をたどるとともに、現在、宇宙戦略基金の資金で研究開発をしているエアロシェルの説明に聞き入っていた。

ベネル=ペッグ宇宙飛行士の眼差しは常にまっすぐで、説明を受けるたびに「人類の探査がどこへ向かうのか」を深く受け止めているようだった。

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ペンシルロケットについて説明する船木国際調整主幹

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はやぶさ2について説明する津田副所長

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ロケットの前で。

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火星への着陸を想定したソフトエアロシェルについて説明する藤本所長

また、アジア最大規模の探査フィールドの前においても、しっかりとした眼差しで説明に聞き入るパレルモ長官とベネル=ペッグ宇宙飛行士の眼差しが印象的であった。

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さらに、MMX管制室となる部屋の見学スペースで、川勝MMXプロジェクトマネージャから、MMXプロジェクトについて詳細な説明が行われた。

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ASA代表団一行と川勝MMXプロジェクトマネージャ。

そして、いよいよこの日のハイライトへ。
1階ロビーにて行われたのは、「無人・有人ミッションの統合」を象徴する公開デモンストレーション。テーマは"It's like walking a dog -- but on the Moon(月面で犬の散歩をするようなもの)" 。

軽やかな比喩で始まったその瞬間、会場の空気がふっと和らいだ。
ベネル=ペッグ宇宙飛行士がSORA-Qをリモート操作し、月面探査の未来像を描くようにロボットが動き出すと、拍手が自然と湧き起こった。

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SORA-Q操作中のベネル=ペッグ宇宙飛行士

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SORA-Qで映した写真を掲げるベネル=ペッグ宇宙飛行士

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SORA-Q操作後に、タスカー准教授からのインタビューに答えるベネル=ペッグ宇宙飛行士

イベントの最後には、JAXAからASAにSORA-Qの記念モデルが贈られ、ASAからはカンガルーのぬいぐるみが返礼された。所長室にちょこんと座るそのぬいぐるみは、今も相模原キャンパスの一角で、静かに国境を越えた友情を象徴している。

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カンガルーのぬいぐるみを受け取る藤本所長。

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藤本所長・パレルモ長官・ベネル=ペッグ宇宙飛行士の月面タペストリーの前での3ショット。SLIM 1/2とともに。

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参加者全員の集合写真。

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ベネル=ペッグ宇宙飛行士とSORA-Q。写真はSORA-Qが写したアイコニックな写真。

国際的な訪問団の来訪時にこのようなイベントを行うのはISAS内でも初めての試みであったが、ISAS内の大学院生や教職員など約150名が集まり、関心の高さが伺えた。今後の一般の方々へのアウトリーチの方法論の一環としても手応えが得られた。

◆5月24日(土) 万博での再会
「宇宙と科学を歩く仲間、ふたたび大阪で」

数日後、大阪・関西万博のオーストラリア館において、彼らと再会した。科学と信頼が形になっていく瞬間を目の当たりにした。

オーストラリア館は、オーストラリアの多様性豊かな明るい人びと、その才能、創造性、雄大な自然環境を表現するとともに、先住民文化や再生可能エネルギーなどの強みを世界に向けて発信しており、パビリオンの外観はユーカリの花から着想を得たデザインで、国の活気と多様性を象徴している。

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夜にライトアップされた、オーストラリア館の外観

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宇宙の将来像や子供たちへのアウトリーチについて語り合う藤本所長とベネル=ペッグ宇宙飛行士。
背景の白黒写真は、1970年の大阪万博当時のオーストラリア館の様子。

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レセプション参加者の写真

■編集後記:「歩く、つながる、未来へ」

木々が芽吹き、風がやわらかに吹いた初夏の日。人と人が言葉を交わし、ロボットと人間が月面で「共に歩く」未来を描いた。宇宙や科学に国境はない。そして、科学と友情があれば、私たちは宇宙のどこまでも、ともに歩いていける。

(2025/06/11)