ULF波動は、数十から数百秒の周期を持つ地磁気の固有振動です。ULF波動は磁力線沿いに伝搬する波が南北半球それぞれの電離圏で反射され、地磁気の磁力線が弦のように振動することによって引き起こされると考えられています。ULF波動は、宇宙空間に磁場と電場の変化を引き起こし、ULF波動は衛星や地上で取得される磁場データ上で、正弦波のような特徴のある波形として観測されます。このULF波動が引き起こす電磁場の変化は宇宙空間を運動しているプラズマに影響を及ぼします。

地球周辺の宇宙空間には数MeVの高いエネルギーを持つプラズマが集まる「放射線帯」と呼ばれる領域が存在します。この放射線帯を構成する電子は、数百秒程度で地球をぐるりと一周する東向きのドリフト運動をしています。この電子がドリフトする周期とULF波動の周期がおおよそ一致していることから、電子はULF波動からエネルギーを授受し加速を受けると考えられています。ULF波動は放射線帯電子の加速機構の一つです。

ULFによって電子が加速を受けている場合、電子と電磁場観測には、数秒周期の振動がみられるはずです。しかし、打ち上げ直後の「あらせ」の観測データを確認したところ、電子フラックスには特徴的な振動がみえているにも関わらず、電場・磁場データにはULF波動が観測されないという不思議な事例が多く観測されました。我々はこの現象がなぜ起きているかを解明するために、「あらせ」とNASAのVanAllen Probes衛星、ロシア-北米-ヨーロッパの地磁気観測網を用いた国際協調観測を実施しました(図1上)。

図1下に、放射線帯の朝側に位置する「あらせ」が実際に宇宙空間で観測した電子と磁場・電場を示しています。電場・磁場には同周期のULF波動は全く観測されていない一方で、電子には0.5 MeVから3.0 MeVの高いエネルギー帯で、特徴的な振動が観測されていることがわかります。また電子データにみられる振動をよくみると、高いエネルギーを持つ電子ほど早く振動が起きていることがわかります。地球周りをぐるりと一周するドリフト運動の速度は、電子が高いエネルギーを持つほど速いことが知られています。「あらせ」の観測は、「あらせ」衛星とは別の場所で加速を受けた電子が、その"履歴"を残したまま放射線帯をドリフト運動した結果、高いエネルギーを持つ電子の振動から順に「あらせ」で観測したことを示唆しています。

我々は加速領域を特定するために、地球を挟んで「あらせ」とは反対側・放射線帯夕方側に位置するVan Allen Probes衛星のデータを確認しました。その結果、高エネルギー電子データに100秒周期の振動を観測すると共に、磁場データにはULF波動を観測しました。これはVan Allen Probes衛星の位置でULFによる電子の加速が起きていることを示しています。またロシア-北米-ヨーロッパの全経度方向をカバーする地上磁場の観測網によって、このULF波動の発生領域を特定したところ、夕方側のごく限られた領域でULF波動が発生していることがわかりました。これまでの研究では、ULF波動は経度方向の広範囲で励起され、広範囲で放射線帯の電子を加速すると考えられてきましたが、この研究によってULF波動による放射線帯電子の加速はごく限られた局所的な領域で起きていることがわかりました。

ULF波動によって加速を受けた放射線帯の電子を、異なる経度で精度良く同時に観測した研究は過去に例がありません。本研究は、放射線帯電子を精度良く観測できる計測器を搭載したVan Allen Probesと「あらせ」の協調観測によって世界で初めて実現されたといえます。残念ながらVan Allen Probesは2019年に運用を終了しました。そのため、放射線帯の電子と磁場を精度良く計測できる衛星は「あらせ」のみとなりました。「あらせ」は、現在も順調に放射線帯電子と宇宙空間の磁場や電場の計測を続けています。「あらせ」が積み重ねた長期観測データを解析することによって、ULF波動による放射線帯電子の加速メカニズムの解明が期待されます。

【プレスリリース】
https://www.kyutech.ac.jp/whats-new/press/entry-6994.html
https://www.isas.jaxa.jp/topics/002259.html

図1上

図1下

図1:(上図)本研究内容をまとめた概略図。宇宙空間の夜側から地球と放射線帯をみている。夕方側に広がっているULF波動によって、放射線帯の電子は夕方側で加速される。その現場をVan Allen Probes衛星で観測した。一方加速領域から離れた朝側にいた「あらせ」は放射線帯電子に加速の"履歴" を観測した(下図上段)。電子の0 . 5MeVから3 . 0 MeVに100 秒周期の変動が観測されているが、磁場・電場には同周期のULF波動は観測されていない。電子で観測される変動のタイミングが高エネルギーほど早く起きているのは、高いエネルギーの電子ほどドリフト速度が速く、加速領域から離れた位置にいた「あらせ」に早く到達できるためである(上図:© ERG science team)。