プラズマ圏は、ジオスペースの中に存在する、冷たい高密度のプラズマで満たされた領域です。電離層上層から流出した電子、陽子、ヘリウムイオン、酸素イオン等の荷電粒子が地球の磁場にとらえられ、プラズマの濃い領域が形成されています。プラズマ圏はジオスペースの中で最もエネルギーが低いプラズマ群であり、これ自体が宇宙機や宇宙飛行士の安全を脅かすものではありません。しかし存在比が高いため、ジオスペースの背景環境を決める役割を担っています。ジオスペースで最も高エネルギーで危険といわれる放射線帯粒子は、その生成・消失メカニズムにプラズマ波動が関与しているといわれており、その波動の発達や伝搬の条件を決めるのがプラズマ圏です。このようにジオスペースの複雑なプラズマ環境を理解するためには、低エネルギーのプラズマ圏の研究が欠かせません。

プラズマ圏の荷電粒子が電離圏からどのような物理過程を経て供給されているのか知るためには、磁力線沿いのプラズマ密度分布を調べる必要があります。しかし、多くの衛星が赤道面付近を飛行するために、観測も赤道面付近に偏っており、磁力線沿いのプラズマ分布に関する情報は不足しています。

「あらせ」とVan Allen Probes衛星は、同じ磁力線上の異なる二点をほぼ同時に通過することがあり(共役イベントと呼びます)、Van Allen Probesは赤道付近を、「あらせ」は高緯度側の場所を飛行します(図1)。この時、それぞれの衛星の位置におけるプラズマ密度を比較すれば、磁力線沿いのプラズマ分布を調べることができるはずだ、と私たちは考えました。

図2

図1:観測の概念図。同一の磁力線上の赤道付近をVan Allen Probe(s RBSPのラベルで示してある)が、高緯度領域を「あらせ」が同時に飛行した時に、それぞれの場所の電子密度を比較することで、磁力線沿いの電子密度分布の情報が得られる。

図1

図2:(a) 2017年9月8日23:30 UT頃の「あらせ」(赤線)とVan Allen Probe-B (青線)の位置。L値-磁気地方時平面への投影で上方が太陽方向。緑色の領域は電子密度の観測結果から推定されるプラズマ圏の形状を示す。(b) 「あらせ」(赤点)とVan Allen Probe-B (青点)の位置における電子密度。横軸はL値(磁力線が最も遠方を通過する点の地心距離を、地球半径を1としてあらわした数値)。

図2(a)は2017年9 月8 日23:30 UT頃の「あらせ」(赤線)とVan Allen Probe-B(青線)の位置を示しています。数分の時間差でほぼ同一の磁力線上を通過していることが分かります。図2(b)は「あらせ」、Van Allen Probe-Bそれぞれで観測された波動を使って算出した電子密度です。横軸はL値(磁力線が最も遠方を通過する点の地心距離を、地球半径を1としてあらわした数値)です。Lが3.3 ~ 3.4 付近では電子密度が50 ~ 100個/cm-3と低い値を示しているのに対し、Lが3 . 5以上の領域では、150 ~ 300 個/cm-3と高い値を示しています。これらはそれぞれ、プラズマ圏の外側の低密度領域(プラズマトラフ)と、プラズマ圏が細長く伸びた高密度領域(プリューム)をみていると考えられます。図2(a)に、推測されるプラズマ圏の形状を緑色で示しましたので参考にしてください。

二つの衛星で電子密度を比較すると、低密度領域では密度に倍近くの差があります。この情報から、低密度領域は電子密度が磁力線沿いに急激に変化する「無衝突状態」に近い状態であることが分かりました。また高密度領域ではVan AllenProbe-Bの電子密度がやや拡散していて分かりにくいですが、密度の差がそれほど大きくありません。この情報から、高密度領域は電子密度の変化が小さい「拡散平衡状態」に近い状態であることが分かりました。

同様の解析をほかの共役イベントについても行い、磁気嵐の後に刻々と変化するプラズマ圏のさまざまな密度構造を明らかにしました。その中には磁気嵐によって磁束管中のプラズマが失われた後、元の状態に回復していく途中のプラズマ圏もありました。この時、赤道付近の方が高緯度よりも電子密度が高い、奇妙な現象もみつかりました(プラズマ圏の源は電離圏なので、本来は地球近い高緯度側の方が高密度になります)。今後の更なる研究が必要とされています。