小惑星に天体が衝突することで地表がコーティングされ、望遠鏡による観測では小惑星の本当の姿を知ることができないのかもしれません。
今から数十億年以上前の太陽系では、マイクロメートルサイズのダストが付着・合体を繰り返し、数キロメートルサイズの微惑星へと成長するという変化が起こっていたと考えられています。ダストが成長した天体のサイズが大きくなると、天体内部で発生した熱によって溶融が起こり、天体内部が層に分かれます。そのような天体(分化天体)は中心部に鉄の核を持つと考えられています。さて、分化天体は、別の天体との衝突・合体でより大きな天体に成長する場合もあります。同時に、天体との衝突で破壊され、金属の核のみが残った天体が生じることもあると考えられています。金属核のみが残った天体は、現在の太陽系において金属でできた小天体として見つかるはずです。
1980年代に発表された小惑星の分類法では、金属が豊富とみられるM型に多数の小惑星が分類されていました。しかし、その後行われた望遠鏡による観測やレーダーによる反射率を調べた調査によると、60-70%のM型小惑星は、金属は豊富だが主たる構成物は金属ではないと指摘されていました。さらに金属に富むと考えられている小惑星の可視光・近赤外線観測から、その表層にケイ酸塩や含水鉱物が存在することがわかっていました。
Guy Libourel氏(コートダジュール大学)が率いる研究チームは、ある可能性を検証しました。金属からなる小惑星に岩石質の天体が衝突し、表面の物理・化学状態が変化した可能性です。
小惑星の表面が天体衝突の影響で、小惑星の本来の特徴がカモフラージュされているという仮説を調べるために、研究チームはJAXA宇宙科学研究所の大学共同利用施設である超高速衝突実験施設の飛翔体加速装置を用いた実験を行いました。実験では、鉄鋼や鉄隕石のターゲットに対して、岩石の弾丸を秒速3-7kmで衝突させました。この速度は、小惑星帯での典型的な衝突速度と考えられています。
実験の結果、衝突によって溶けた岩石の弾丸の成分が、ターゲットに作られたクレーターの底部を覆うことがわかりました。衝突条件を変えると、発泡したガラス質の皮膜、あるいは、鉄とケイ酸塩の不混和性液体が固化したものが、クレーターの底部を覆いました。そして、衝突実験後、ターゲットの可視光・近赤外線スペクトルを調べると、衝突実験前に見られた金属物質の特徴を示す部分がかなり変化していることがわかりました。
望遠鏡で取得したスペクトルは小惑星表面の物理・化学状態を示します。衝突による表面のコーティングによって、下の金属部分が隠されてしまい、リモート観測では「見かけ上」鉄が豊富な小惑星が少なくなってしまうことを本研究結果は示唆しています。
すなわち表面と地下の物質が異なっていると、リモート観測では天体全体を理解することはできないということになります。2022年、NASAは鉄が豊富な小惑星プシケに向けて探査機を打上げ予定です。その探査機がプシケに到着すると天体衝突が小惑星表面にどのような影響を及ぼすのか直接調べることができると期待されます。
本研究成果は2019年8月29日にScience Advances に掲載されました。
論文情報
論文タイトル:
"Hypervelocity impacts as a source of deceiving surface signatures on iron-rich asteroids"
著者:
Guy Libourel(コートダジュール大学等), 中村昭子(神戸大学), Pierre Beck(グルノーブルアルプス大学), Sandra Potin(グルノーブルアルプス大学), Clément Ganino(コートダジュール大学等), Suzanne Jacomet(パリ国立高等鉱業学校), 小川諒(神戸大学), 長谷川直(JAXA宇宙科学研究所), Patrick Michel(コートダジュール大学等)
URL: http://advances.sciencemag.org/content/5/8/eaav3971
DOI: 10.1126/sciadv.aav3971