「はやぶさ」が小惑星イトカワ表面から採取し、地球に届けた試料から「水」が検出されました。小惑星表面に水(正確には含水鉱物)があることは間接的にはわかっていましたが、小惑星の表面物質から直接、水が検出されたのは、今回が初めてです。含有量は予想以上に多く、さらに水の特性は地球のそれと似ていることもわかりました。原始の地球に水をもたらしたにはイトカワのような小惑星かもしれません。
JAXA宇宙科学研究所にある地球外試料キュレーションセンターは、「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの試料が地球の物質に汚染されない状態で、一次的特徴を記載してカタログ化しています。これらの試料は、試料から得られる知見を最大化するために世界中の研究者や研究機関に分配されています。今回の研究で分析された試料も地球外試料キュレーションセンターからアリゾナ大学に提供されたものでした。
本研究チームが含水鉱物を見つけたのは、アリゾナ大学に提供された5粒の微粒子の内の2粒でした。物質組成や含有量などをより詳しく調べるため、わずかに含まれている物質も精密に測定できる装置を用いて分析は行われました。この測定により、イトカワで採取された試料に予想以上に水が多く含まれていることが判りました。イトカワのように「乾いている」と考えられているタイプの小惑星にも、人間が考えている以上に水が含まれている可能性があります。
イトカワはS型に分類されている小惑星です。「はやぶさ」による調査などから現在よりも10倍大きな母天体が一度破壊され、その残骸が集まってできた天体だと考えられています。
イトカワは加熱や衝突、分裂など荒々しい歴史をもつ天体です。その過程で、温度が上昇し、水を失ってしまう可能性もありました。さらに、現在の姿になった後も、イトカワは太陽風や微小天体の衝突にさらされます。そのときにも水を失ってしまう恐れもありました。しかし、今回の研究から、小惑星の物質に水が保たれていることがわかったのです。
さらに、分析した物質の水素同位体組成は地球のそれとほぼ同じでした。水素同位体の組成比は、地球の水がどのような天体からもたらされたのかを調べる際の指標の一つです。これまでにも地球の海水の水素同位体比と彗星や他の惑星の水素同位体比を比較するという研究が行われてきました。イトカワ由来の試料で地球の水と同じ水素同位体比が確認されたということは、イトカワやS型小惑星、それらの母天体が地球に水をもたらしたことを示唆しています。
本研究成果は、2019年5月1日にScience Advancesに掲載されました。
論文情報
論文タイトル:New clues to ancient water on Itokawa
著者:Ziliang Jin and Maitrayee Bose
URL: https://advances.sciencemag.org/content/5/5/eaav8106
DOI: 10.1126/sciadv.aav8106