共同記者発表会の様子

共同記者発表会の様子 (c)中央大学

中村太郎教授・山田泰之助教(中央大学)と 羽生 宏人准教授(JAXA 宇宙科学研究所)が率いる研究グループでは、人工筋肉(※1)と生物規範デザインを用いてロケットの固体推進薬製造プロセスを抜本的に見直すことを目標として研究を行っています。

この度、本研究で開発した蠕動(ぜんどう)運動型混合搬送装置を用いて、ロケット用の固体推進薬の混錬と地上燃焼試験に成功しました。このような装置での燃料製造は世界で初めての試みです。

蠕動運動型混合搬送装置

蠕動運動型混合搬送装置 (c)中央大学

世界各国で打上げ費用が安いロケットの開発競争が活発に行われています。固体燃料ロケットの場合、ロケット打上げ費用が高額になる要因の一つに、機体重量の大半を占める固体燃料が挙げられます。 イプシロンロケットの燃料などに使用されている現在の固体燃料は、金属鉢と攪拌ブレードを用いて材料を攪拌し製造しています(※2)。この製造手法は、製造装置の維持管理、工程管理の観点 でコスト低減へのハードルが高く、新たな製造手法の検討が進みにくい状況でした。

中村教授らの研究グループでは、人工筋肉(※1)と人間の大腸などの蠕動(ぜんどう)運動を手本にしたデザインを用いてロケット用固体燃料製造プロセスを抜本的に見直すことを目標に、研究を行ってきました。そして、この度、本研究で開発した蠕動運動型混合搬送 装置(以下、「本装置」)を用いて、ロケット用固体燃料の製造に成功しました。

今回開発した本装置は、中村教授らが独自に開発した「軸方向繊維強化型人工筋肉」(※3)を用いた、 非金属の柔らかいソフトアクチュエータ(※4)で構成されており、圧縮空気で駆動できる構造的に安 全なシステム構成です。また、人間等の大腸の蠕動運動を模した「包み込むように揉み解しながら搬送する動き」を用いているので、攪拌ブレードの必要なしに固体燃料を安全かつ連続的に混合し、 ロケット本体まで搬送することが可能です。

本装置によってロケット用固体燃料を製造できることを示すため、2017年12月26日に、日本カーリット(株)赤城工場にて、本装置による実用組成燃料材料の混合ならびに搬送実験を行いました。 さらに、2018年2月23日に、本装置で製造した固体燃料を試験用のロケットモーターに搭載して地上燃焼試験を行い、ロケット用固体燃料として、実用可能なレベルであることを確認しました。

地上燃焼試験の様子

地上燃焼試験の様子 (c)中央大学

これにより、我々はソフトアクチュエータによる固体燃料の製造と自動搬送・搬送に、世界で初めて成功しました。ロケット用固体燃料の製造・自動搬送の実現に向けた大きな一歩になりえます。

本研究は経済産業省 宇宙技術情報基盤整備研究開発事業である「民生技術(人工筋肉)を転用した固体推進薬の製造技術に関する研究開発」の採択をうけて実施しています。

 

※1 人工筋肉
人工筋肉は、筋肉の物理的機能を模倣することを目指して開発されているアクチュエータ(空圧、油圧、電機などで入力されたエネルギーを、回転運動、直進運動などの物理的な動きへと変換する機構のこと)の一種です。人工筋肉には、圧電式、形状記憶合金、静電式、圧空式など様々なタイプが存在しますが、特にここでは、空気圧人工筋肉を指しています。

※2 金属鉢と攪拌ブレードを用いて材料を攪拌して製造
固体推進薬は、一般にプラネタリミキサ(金属のブレードを金属ボールの中で回転させて攪拌する混合装置)を用いて捏和して、別途人力で搬送するバッチ式で製造されており、原料ロット管理から製造工程管理まで全体で保証することによって信頼性を担保します。

※3 軸方向繊維強化型人工筋肉
軸方向強化型人工筋肉は、ゴム管の軸方向にガラスロービング繊維を内包した構造であり、空気圧の供給によって、半径方向に膨張して軸方向へ収縮を発生するアクチュエータです。中央大学の独自技術により、従来のマッキベン型人工筋肉に比較して同圧力で4倍の力を発生します。

※4 ソフトアクチュエータ
ソフトアクチュエータは、柔軟な材料を用いたアクチュエータおよび柔軟な動きを発生するアクチュエータです。この中で、筋肉の物理的機能の模擬を目指すものを特に人工筋肉と分類しています。