地球周辺科学の主たる目的は、地球周辺空間(磁気圏・電離圏など)の構造やそこで起きる物理過程を理解すること、そして惑星間空間を通 って地球周辺のそれぞれの領域にやってくる太陽からのエネルギーと運動量の流れを理解することです。
これらの大きな目的を達成するために、「あけぼの」には次のような特殊な目的が設定されました。
1、探査機を物理現象の起きている現場に送って直接観測を行う。
2、地球周辺空間における巨視的な構造と微視的な物理過程を、粒子分布関数、電場、磁場、波動などさまざまな観測を行うことによって、総合的に理解する。
3、さまざまな領域に探査機を送って、太陽風・磁気圏・放射線帯・極域をつなぐエネルギーと運動量の輸送に関する体系的なデータを獲得する。
4、観測データの解析と理論的考察に基づくコンピュータ・シミュレーション(磁気リコネクションや衝撃波など)によって、宇宙空間プラズマの微視的過程(粒子加速、加熱など)や磁気圏の巨視的な構造の時間変動を理解する。
5、太陽と地球の間の空間における大規模な構造とダイナミクスを理解するとともに、同時観測したさまざまな物理量を理論及びシミュレーションと結合することによって、微視的過程と巨視的プラズマ過程との関係を明らかにする。
1960年に始まった衛星による磁気圏の観測は、磁気圏物理学と宇宙プラズマ物理学の研究の発展に中心的役割を果たしてきました。これまで解明されたのは、太陽風から磁気圏へのエネルギーの輸送過程によって、極域の上層大気に惹き起こされる擾乱現象などです。
「あけぼの」と「GEOTAIL」衛星による観測は、プラズマ分布関数などの観測技術の改良によって、プラズマ物理学における微視的過程の理解に大きく道を拓きました。これらの衛星は期待どおり、研究対象そのものの現場に派遣され、地上でのコンピューター・シミュレーションと協力して、巨視的構造と微視的物理過程との間の関係を議論することを可能にしたのです。
ISTP(太陽地球系物理学国際共同観測計画)の多くの衛星による同時観測の結果をもとに、惑星や地球の磁気圏の全体的なイメージが再構成されつつあります。「あけぼの」による極域の観測は、「GEOTAIL」による観測結果と合わせて、サブストームなどの磁気圏現象の巨視的構造の時間変動について、徐々に理解を深めています。しかしながら、多くの数の衛星による同時観測をもってしても完全な理解に達するのは、軌道の制約もあって難しい問題です。
「あけぼの」がこれまでになしとげた主な科学は、次のとおりです。
・磁力線に平行な電場による粒子加速の実証
・極電離圏からのイオン流出についての定量的研究
・UHR波動が赤道で強まることについての詳細な研究
・低高度のプラズマ圏の熱的構造
・プラズマ圏の密度が磁気嵐の際に部分的に落ち込む現象の発見
・放射線帯の粒子の長期的変動の観測
機体データ
名称(打上げ前) | あけぼの(EXOS-D) |
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国際標識番号 | 1989-016A |
開発の目的と役割 | オーロラに関連した磁気圏の物理現象(オーロラ粒子の加速のメカニズムとオーロラ発光現象の観測)の解明 |
打上げ日時 | 1989年2月22日 8時30分 |
場所 | 鹿児島宇宙空間観測所(内之浦) |
ロケット | M-3SIIロケット4号機 |
質量 | 約295kg |
形状 | 高さ100cm 対面寸法126cm 4枚の太陽電池パドルがついた八角柱型 30m長のアンテナ/5m・3mの伸展マストを備える さらに詳しく |
軌道高度 | 近地点275km 遠地点10500km |
軌道傾斜角 | 75度 |
軌道種類 | 長楕円軌道 |
軌道周期 | 211分 |
主要ミッション機器 | ・磁場計測器(MGF) ・電場計測器(EFD) ・低周波プラズマ波動計測器(VLF) ・高周波プラズマ波動計測器(PWS) ・低エネルギー粒子計測器(LEP) ・低エネルギーイオン組成計測器(SMS) ・電子温度計測器(TED) ・放射線モニター(RDM) ・オーロラ撮像カメラ(ATV) |
運用停止日 | 平成27年4月23日 |
観測成果 | 太陽活動の完全な1サイクル(11年)の観測を達成した。これまで「磁力線に平行な電場による粒子加速の実証」「極電離圏からのイオン流出についての定量的研究」「UHR波動が赤道で強まることについての詳細な研究」「低高度のプラズマ圏の熱的構造」「プラズマ圏の密度が磁気嵐の際に部分的に落ち込む現象の発見」「放射線帯の粒子の長期的変動の観測」などの科学成果をあげている。 |