[ English ]

(写真(上)) 南半球の初夏、紫のジャカランダの花が咲くアデレード。

2025年12月、津田 雄一宇宙科学研究所(ISAS)副所長はオーストラリアを訪問した。はやぶさ2が種子島宇宙センターから打ち上げられたのが2014年12月3日、そしてオーストラリアのウーメラ砂漠に小惑星リュウグウのサンプルが入ったカプセルが帰還したのが2020年12月6日、と「はやぶさ2」ウィークであるこの節目に、はやぶさ2ミッションの歩みを振り返ると同時に、次なる火星衛星探査計画MMX時代の日豪宇宙科学・探査協力の現在地を見据えたものである。

南半球の空に広がる夏の青空と、やがて現れる南十字星。その星空の下で交わされる対話は、単なる訪問や式典ではなく、長年にわたり積み重ねられてきた信頼と協力の延長線上にあった。これらは、過去を祝うと同時に、未来への静かな決意を確かめる旅でもあった。

アデレード | 日豪宇宙協力の対話

津田副所長は、アデレードで、ローカルの日本人ビジネスパーソンらとともに、キャンベル・ペッグ 南オーストラリア州宇宙産業センター(SASIC)スペースディレクターを訪問した。はやぶさ2からのカプセルが着陸したウーメラ砂漠は南オーストラリア州に所在する。
ペッグ氏からは、同州が力を注ぐ宇宙産業の取組について説明され、津田副所長を含め日本人関係者から、MMXを見据えた日豪の宇宙科学に関する国際交流や、宇宙を通じた産業や起業促進に関する日豪協力などについて、活発な意見交換が行われた。

202601_01.png

左はキャンベル・ペッグ 南オーストラリア州宇宙産業センター(SASIC)スペースディレクターと現地の日本人関係者ともに。右はオーストラリア宇宙庁(ASA)近隣のアデレード大学キャンパス

アデレード | 公開講演 |「Mission Possible: Space Collaborations」

ASA(豪宇宙庁)が主催し、JAXA、豪日交流基金が共催した「Mission Possible: Space Collaborations」では、津田副所長から、はやぶさ2の構想からカプセルの着陸、リュウグウサンプルの回収までの歩みと、その先に続くMMXの物語を軸に、日豪宇宙協力の現在地が語られた。

探査機の成果は、研究室や管制室だけで完結するものではない。社会の中でどう受け止められ、次世代へどう手渡されていくのか。その問いに向き合う場として、この公開での対話の時間は重要な意味を持っていた。

一つのミッションの成功が、次の挑戦への扉を開く。国境を越えた協力が、科学の射程をどこまで広げられるのか。講演は、過去の成果を紹介するだけでなく、未来への問いを会場に投げかける時間となった。

202601_02.png

202601_03a.png

(左)ASDC(Australian Space Discovery Centre)のリュウグウサンプル展示の前で、講演者及び小川夏子豪日交流基金理事長らとともに。(右)オーストラリア宇宙庁(ASA)のエンリコ・パレルモ長官と津田副所長。

202601_04.png

(左)はやぶさ2の模型とともに展示されているリュウグウサンプル。(右)リュウグウサンプルの顕微鏡拡大。

公開オープニングセレモニー時のXポスト

https://x.com/ISAS_JAXA/status/1988426526988075277
https://x.com/ISAS_JAXA/status/1985889805985858050
https://x.com/ISAS_JAXA/status/1977940565057569251

メルボルン | 日本人コミュニティ向け講演

202601_05.png

初夏のメルボルン。クリスマスを迎える街に、青い空が広がっていた。

アデレードを離れ、初夏のクリスマスを迎えているメルボルンでは、現地の日本人コミュニティ向けの講演会を開催した。在豪法人の方々とその5周年という節目を共有しながら、津田副所長から、はやぶさ2が成し遂げた挑戦と歩み、MMXをはじめとする今後の国際協力の意義が語られた。宇宙科学・探査という専門的なテーマでありながら、世代や立場を越えて関心が寄せられ、会場には穏やかな中に熱気が満ちていた。遠く離れた地で暮らす人々にとって、宇宙科学・探査の物語は、日本とのつながりを再確認する一つの窓でもある。その共有の時間が、静かに心に残る講演となった。

202601_06.png

和やかな雰囲気の中で熱心に聞き入る在豪邦人の皆さん、最後に集合写真

メルボルン | Mission Possible: 「Space × Art」など

津田副所長が基調講演を行った「Space × Art」イベントでは、科学と文化・アートの交差がテーマとして提示されていた。宇宙科学・探査がもたらす感動や問いは、研究者だけでなく、表現者の想像力とも共鳴する。宇宙とアート、社会との接点について活発な対話が交わされ、会場では、豪先住民の感性に通じる京都の作家による切り絵作品も展示され、このほか、「Space × Medicine」「Space × Law」に関するイベントがそれぞれ開催された。数値やデータの向こう側にある宇宙の物語を、言語で伝える試みとして、この場は印象深いものであった。

202601_07.png

基調講演を行う津田副所長。

202601_08a.png

左は豪先住民の感性に通じる「切り絵」の前で、作家のMISAさんと関係者の皆さん。右は古谷総領事と津田副所長。

202601_09.png

左は小川日豪交流基金理事長をはじめ「Space × Art」関係者の皆さん。右は杉田精司 東京大学大学院教授など「Space × Law」の関係者の皆さん。

202601_10.png

「Space × Medicine」の関係者の皆さん。

メルボルン|在メルボルン日本国総領事主催歓迎レセプション

在メルボルン日本国古谷徳郎総領事主催の歓迎レセプションには、日豪両国の宇宙関連団体、政府、学術機関、産業界から多くの代表が集った。古谷徳郎総領事による主催挨拶、津田副所長、キャサリン・グレース オーストラリア宇宙庁(ASA)副長官(代行)の挨拶では、宇宙分野における日豪双方の歩みと、今後の協力の展望が共有され、会場は和やかな交流の場となった。

津田副所長は、関係者一人ひとりと対話を重ね、日豪の宇宙協力が研究や技術にとどまらず、人と人との信頼によって支えられていることを改めて実感された。

202601_11a.png

左は映像を交えて、はやぶさ2ミッションを説明する津田副所長。右は、日豪の国際協力の重要性について語るASAのキャサリン・グレース 副長官(代行)

202601_12.png

在メルボルン日本国総領事館主催レセプションにて。津田副所長の右側が古谷徳郎総領事。

メルボルン|研究交流及び人材育成

メルボルン大学では、宇宙科学・探査に関連する科学研究を行っているMAG Lab とMelbourne Space Labを視察した。メルボルン大学とは、MMX を契機とした豪州の宇宙科学探査分野との交流の一方策として、東京大学の交換留学プログラム制度を活用した人材交流プログラム(学生)の試行を進めることになっている。

https://sgeas.unimelb.edu.au/research/melbourne-analytical-geochemistry
→MAG Lab (メルボルン大学 メルボルン分析地球化学)

https://melbournespace.research.unimelb.edu.au/
→Melbourne Space Lab (メルボルン大学 メルボルン宇宙研究所)

日豪の研究者同士の現場で交わされた議論は、すぐに結論を出すものではない。しかし、その積み重ねこそが、長期的な宇宙科学・探査の国際協力の基盤となっていく。

202601_13.png

メルボルン大学の研究者と、津田副所長など日本側研究者との対話

メルボルン|メルボルン日本人学校 「宇宙教室」

メルボルン日本人学校では、幼児・児童・生徒を対象とした宇宙教室が、発達段階に応じて、2つのグループに分けて開催された。津田副所長は、はやぶさ2を題材に「宇宙・地球・生命の起源」について、クイズや映像を交えながら話しながら、最後には、はやぶさ2の今後の宇宙探査や、今後の火星の衛星フォボスを目指すMMXの挑戦も紹介した。地球の起源や探査機、小惑星などの宇宙に関する話題に、子どもたちは目を輝かせながら耳を傾け、「知らないことに挑戦すること」「宇宙のおもしろさ」「ものづくりの楽しさ」等を学び、子どもたちとの対話が広がった。

はやぶさ2やMMXの話は、遠い宇宙の出来事であると同時に、「未来の仕事」「未来の夢」へとつながる入口でもある。この宇宙教室が、子供たちの未来の扉を開き、誰かの中で小さな種となることを願わずにはいられない。

202601_14.png

上は津田副所長を紹介するメルボルン日本人学校の小橋幸代校長先生。下は宇宙教室の様子。

202601_15.png

結び|南十字星の下で

202601_16.png

セントキルダの海に沈む夕日。南半球の一日が、静かに終わっていく。(写真:右)夜のフリンダース・ストリート駅。青く照らされた時計塔が、メルボルンの一日を締めくくる。

津田副所長のオーストラリア訪問は、はやぶさ2からMMXへと続く日豪協力の「過去」から「現在」と「未来」へ続く絆を静かに確かめる旅となった。

アデレードとメルボルンにおける国際協力、研究交流、人材育成、宇宙産業そして文化・アートなど、それぞれの現場で交わされた対話は、やがて次の宇宙科学・探査を支える確かな礎となっていくとともに、南十字星が輝く空の下で交わされたそれぞれの思いは、その先へと確実に受け継がれていくだろう。

(2026/01/16)